モデルサイクルに縛られず直ちに市場投入
新車市場で存在感を高める軽自動車は、2012年に総市場の36.9%を占め、ここ10年では最も高い占有率となった。ホンダの商品テコ入れ策に加え、燃費性能を中心とした激しい開発競争が市場の活力につながっている。燃費の改善手法も多様化しており、まだ限界は見えないという逞しさもある。
昨年末に発売となった最大手ダイハツ工業の新型『ムーヴ』は、前回の全面改良から2年を経たところで、マイナーチェンジながら実質的な全面改良を断行した。「他社からいい商品が出ている。(トップメーカーとして)われわれは常に勝たねばならない」(伊奈功一社長)と、ライバルに対抗するには従来のモデルチェンジサイクルにこだわっていられないというわけだ。
スズキが12年9月に投入した新型『ワゴンR』も、従来のサイクルを1年短縮した。ユーザーの関心が高い燃費向上技術で実用化にめど
が立てば、直ちに市場投入するという展開となっている。
「熱」の制御に注力したムーヴ
ムーヴは、軽で初の衝突回避支援システムが、5万円という割安なオプション価格とともにユーザーの関心を集めている。ダイハツが軽で徹底追求する「低燃費・低価格」に加え、安全装備の充実でもトップメーカーならでは先行力を見せつけた。
だが、注目すべきは12年に軽のベストセラーとなった『ミラ』シリーズに搭載した「イーステクノロジー」と呼ぶ省燃費技術の一段の進化である。ムーヴは29km/リットルの燃費性能で、ワゴンタイプでは1位だったワゴンRをわずかに上回り、トップを奪還した。
イーステクノロジーは、エンジンなどパワートレインの改良や、アイドリングストップ装置などエネルギーマネジメントの高度化といった多面的なアプローチで燃費性能を引き上げている。今回は「エネルギーマネジメントの一環として『サーモ』つまり『熱』に注力」(中島雅之チーフエンジニア)している。
その代表技術が「CVTサーモコントローラー」という装置だ。変速機のCVT内部にあるフルード(オイル)の温度を最適域に保つことで、エンジン負荷の軽減につなげている。フルードは冷えると粘度が高まり、動力伝達の抵抗となる。それを素早く温めたり、適温に保ったりして滑らかにCTVを動かすようにした。
ワゴンRとムーヴの技術を補完すれば…
フルードを温めるエネルギー(熱源)はエンジンの冷却水を利用している。同時にフルードそのものも、粘度が低い性質のものに変更した。このほかにもエンジンの吸気温度を下げて燃焼効率を高めるなどのサーモマネジメントを追求した。新型ムーヴは従来車に比べ2km/リットル、率にして7.4%の燃費改善を図っているが、この大部分をサーモ関係で稼いだ。
ライバル関係にあるスズキのワゴンRは、徹底したエネルギー回生の追求で燃費や走りを向上させた。回生エネルギーをせっせと蓄えることで、発電機を休ませエンジンへの負担を軽減している。軽ハイトワゴンの“両雄”は、それぞれのアプローチで燃費改善技術をものにしている。
これらの技術は補完できる関係にもある。コストの制約はあるが、仮に1台のクルマで「いいとこ取り」すれば、まだ燃費は延ばせる。コンパクトなガソリン車の燃費向上技術には、まだまだ未開の地が広がっているということだ。