クライスラーと聞くと戸惑うが、要はランチアの『イプシロン』である。イプシロンとはイタリア語で「Y」のこと。でも、実はイタリアのアルファベットには「Y」はない。ちなみに「JKWX」も、ないんだけれど。
アライアンスの関係でクライスラー・ブランドをまとっているけれど、やはりこの小さなイプシロンはイタリアのデザイン意識を髣髴とさせる。相も変らず特徴的。テールライトのあたりの滑らかで伸びやかなラインは、まるでクリームをふわりとなぞったような色気すらある。
シートのしっとりとした座り心地。異国情緒高まるインテリアの風景。そして、875ccのエンジン。この肩に力の入らない排気量がたまらなく親近感を感じさせる。そしてそのパワーを操るのはシーケンシャルのトランスミッションだ。1速~2速~3速。ATモードのまま走れば、シフトアップするたびに息継ぎをする。その都度、加速は途切れ、高速道路の合流や右折でダッシュしたいときは冷や汗すらかきかねない。
しかし。国産車でこれをやったら間違いなくぼこぼこになるところだろうが、イタリア&アメリカ連合軍の得なところは、この違和感が「味」として受け止められてしまうところだ。まあ、仕方ないし。自分でMTモードにしてうまく走ればいいわけだし?
このクルマは人間性を成長させる。人生、計画どおりにものごとは運ばない。まわりに期待するのではなく、自分でなんとかしよう。そんな人生哲学を教えてくれているようだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/エッセイスト
女性誌や一般誌を中心に活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に精力的に取材中するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。JAF理事。チャイルドシート指導員。国土交通省 安全基準検討会検討員他、委員を兼任。