ジャガー 『XJ』の「2.0」は、それまでの5リットルV8エンジンを、なんと2リットル4気筒エンジンへと排気量を半分以上もダウンサイジングしてしまった驚きのニューバージョン。価格は990万円。
フォルクスワーゲン『ゴルフ』が2リットルから1.4リットルに最初にエンジンをダウンサイジングした時にも驚かされたが、半分以下ということはなかった。XJは気筒数だって半分に削ってしまったのだ。
ヨーロッパやアメリカの自動車メーカーが率先して推進しているエンジンのダウンサイジングだが、「なにもジャガーまでもがそんなことをしなくてもいいのに」という半畳のひとつも入れたくなってしまうが、ラグジュアリーとスポーツを売り物にしているジャガーにも燃費向上とCO2削減という共通の課題が等しく課せられる時代になったわけである。
その2リットルエンジンは、ランドローバー『フリーランダー 2』やレンジローバー『イヴォーク』、フォード『エクスプローラー』などに搭載されているフォード製の「エコブースト」と同じ4気筒ガソリン直噴ターボだ。
240psの最高出力と34.7kgmの最大トルクは共通だが、搭載方向が異なる。それらのコンパクトSUV群が横置きされるのに対して、XJは後輪駆動なので縦置きされている。トランスミッションはZF製8速AT。
XJは全長5メートルを超え、全幅も1.9メートルに達する大柄ボディだが、アルミニウムボディが幸いして重量は1780kg。それでも、走り出す前に240psで大丈夫かなという一抹の不安もあったが、走り出してみてもう一度ビックリ。2リッターとは思えないトルクとパワーを発生していて、実に軽快にXJを加速させる。
試乗した西湘バイパスを往復した限り、動力性能は日本ではこれで十分と思わされた。5リッターV8の有り余るトルクを気前よく撒き散らすようにドドドッと加速するのではなく、2リットル4気筒ガソリン直噴ターボを最新の電子制御で賢く司り、1kgmのトルクも無駄にせず、効率的にすべてタイヤに伝えているような加速感がある。
それでいて、西湘バイパス特有の舗装のつなぎ目からのキツいショックがやんわりとイナされ、XJ最大の魅力である乗り心地の快適さが変わらないのもうれしかった。段差は、コツッ、コツッと微かな手応えと音だけで過ぎ去っていく。
XJ2.0よりも高価なドイツ車に同じ日に同じルートを走ることができたので明確に比較ができたのだけれども、XJの乗り心地の柔らかさと繊細で機敏なハンドリングは別格だった。ハンドルは軽く回るのだけれども手応えと反応が明確に存在しているから、ボディの大きさを感じさせない一体感がある。ジャガーがスポーティサルーンと自他共に認められる所以だ。
たしかに古典的な5リットルV8の溢れ出るトルクは蠱惑的だが、その価値観から積極的に脱してみるのも痛快だ。乗り手の時代感覚が問われることになる、現代的な旬のジャガー。
パッケージング:★★★
インテリア・居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
金子浩久|モータリングライター
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1~4』 『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)など。