『XJ』がジャガーのサルーンを代表するモデルなら、『XK』はジャガーのスポーツカーを代表するモデルだ。なかでも『XKR』はV8エンジンにスーパーチャージャーをプラスしたパワフルなモデルとなっている。
XKが搭載する5リットルのV8エンジンは、自然吸気では385馬力の最高出力を発生している。これでも十分にパワフルなのだが、XKRはスーパージャージャーを装着することで、125馬力アップの510馬力の最高出力を得ている。
エンジンのトルク感は申し分ない。なにしろ2000回転で最大トルクを発生してしまうのだから、その走りときたらもう、凄まじいのひと言につきる。もし、このパワー感を20年前に味わうとしたらそれなりのテクニックを持っていなければならなかっただろう。しかし今は各種の電子制御デバイスによって、誰もがある程度の(それもかなり高い)領域まで、アクセルを踏み込んでいってしまえる。
とはいえ、ちゃんとビビる領域が残されているのもなかなか渋い設定。何が何でも安定志向というのではなく、コーナーでアクセルを急激に踏んでいくとほんのちょっとだが、リヤタイヤが滑ったりという現象が起きる。まったく危なくないレベルなのだが、クルマの動きを読み切れない人には「オッとヤバイ」と感じさせる設定。読み切れる人なら、そこからさらに踏んでいき素早いコーナリングを味わうことが可能だ。
乗り心地とハンドリングが、素晴らしく高いレベルで融合されている。足まわりは柔らかくもなく、硬くもないちょうどいいレベル。コーナーに向かってステアリングを切っていくと、スゥッと向きを変えてそのままフラットな姿勢でコーナーをクリアしていく。ロールして路面に食らいつくのでもなければ、ロールしないで踏ん張っているのでもない。ピシッとスムーズにストレスを感じず、それでいて速いコーナリングはまさにオンザレール感覚。FRでなければ味わえない、バランスの取れたコーナリングはじつに気持ちがいい。
ただ、若干ステアリングに伝わってくるインフォメーションが希薄なのが気になる。軽くて操作しやすいはいいのだが、スポーティに走っているときはもう少しステアリングにタイヤの情報が伝わってきたほうが、クルマの状態を読み取れるはずだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活躍中。趣味は料理。