【池原照雄の単眼複眼】ビッグデータ創出でテレマティクスに光

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トヨタのビッグデータ交通情報サービス
トヨタのビッグデータ交通情報サービス 全 5 枚 拡大写真

年に地球83万周分の走行データ

2000年前後に自動車大手各社が立ち上げたカーテレマティクス(車載情報通信システム)をめぐる動きが活発化してきた。ナビゲーションが、スマートフォンでもできる時代になって重装備型のテレマティクスの将来に疑問を抱く向きが多いかもしれないが、どっこい活用の道が広がっている。ビジネスや公共のために活用される「ビッグデータ」としての切り口だ。

02年から「G-BOOK」を導入してきたトヨタ自動車は今月、自治体や企業向けに「ビッグデータ交通情報サービス」の有償提供事業に着手した。防災や渋滞対策、物流の効率化といった用途を想定したもので、ここでいうビッグデータとは、テレマティクス搭載車両の走行データである。

トヨタの国内のテレマティクス対応車両は12年度末で累計330万台、うち70万台が常時接続機器を搭載したタイプだ。車両から寄せられる「プローブ情報」と呼ぶ走行データは、年間で地球83万周分にも及ぶ。こうしたデータをリアルタイムで利用するだけでなく、蓄積・加工することで災害時の対策など、さまざまに生かすことができる。

大震災時に威力を発揮した先駆者の情報提供

98年から「インターナビ」を展開するホンダは、03年に世界の自動車メーカーの先陣を切ってプローブ情報(同社では「フローティングカー情報」と呼ぶ)システムを導入した。11年の東日本大震災時にはプローブ情報を元に「通れる道」を「自動車通行実績情報マップ」としてインターネットを通じて一般に提供。同年に「グッドデザイン大賞」を受賞するなど、公共性や情報価値が高く評価されたのは記憶に新しい。

ホンダは今年3月からは、プローブ情報による急ブレーキ多発地点などの情報を加工して埼玉県の「SAFETY MAP」を制作し、パソコンやスマホを通じて一般公開した。交通事故多発など危険な地点をドライバーや歩行者に知らせることで事故防止につなげる。埼玉県での評価をもとに、他地域での展開も検討する方針だ。

90年代末から「カーコンパスリンク」、その発展型としての「カーウィングス」(02年)を運営する日産は、5月に損害保険ジャパン向けにプローブ情報を提供することで合意した。ほぼ全車が常時接続機能をもつ電気自動車(EV)『リーフ』のプローブ情報を、損保ジャパンが7月に契約を始める新しい自動車保険の料金設定などに活用するという。

公共性の高い轍(わだち)を生かすには…

日産はまた、5月末に売り出したオリジナルカーナビシリーズを対象に「いつでもLink」というカーウィングスの新サービスを始めている。常時接続できる通信機器(一部カーナビでは別売り)のパケット通信料を業界最長となる10年間無料にするという思い切った作戦にでた。3社のなかではプローブ情報の収集力で見劣りするだけに、新サービスでテコ入れする。こうした日産の動きは、ビッグデータつまりプローブ情報が、顧客や社会に提供するサービスの質を高めるうえで如何に重要となるかを図らずも示した格好だ。

自治体や企業向けの交通情報サービスに着手したトヨタの友山茂樹常務役員は、その狙いについて「日本がITS(高度道路交通システム)やビッグデータの領域でイニシアチブを執るには、利用しやすい具体的なサービスを立ち上げる必要があった」と指摘する。テレマティクス車のユーザーがコンピューター上に残す無数の轍(わだち)は、公共性の高いデータ資産だ。それを生かし、社会に還元するには、まずは各社が競いながら社会性や利便性の高いサービスの確立を試行錯誤することだろう。その際は、事業性の確保も無視できない。

《池原照雄》

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