【洗車の新常識】東北から革新を…ブラシに魂、プロの現場

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「マンガンローラー」使用後、専用の櫛で無駄な毛を落とす
「マンガンローラー」使用後、専用の櫛で無駄な毛を落とす 全 28 枚 拡大写真

日本のモノづくりの海外流出が止まらない。これは日本の製造業全体に言えることだ。そんな今、東北・仙台の小さな工場で、洗車好きの一般ユーザーや洗車のプロに注目・愛用されている高機能洗車ブラシ『新B&Yシリーズ』が生み出されている。

新B&Yシリーズは、「洗車でブラシを使えるのはタイヤなど下回りだけ…」という常識を覆す。特殊な毛材を用い、スポンジ同等の安全性を確保、ボディまでブラシで洗える。

ボディ用、タイヤ用、ホイール用のほか、隙間用、ルーフ用などをラインナップする。ウレタン巻きのソフトで軽いボディによって、万が一、ブラシがボディに当たってもキズつきにくい配慮がなされている。また新B&Yシリーズは、トヨタ『86』のコラボグッズとしても正式採用されている。

2011年6月に企画がスタート

そんな新B&Yシリーズの企画が立ち上がったのは東日本大震災直後の2011年6月。東京・四谷にあるカー用品、DIY用品などを扱うハンディ・クラウンが企画・開発し、そのパートナーとして製造を担当するのが1970年に宮城県柴田郡村田町に製造工場を構えた国内老舗ブラシメーカーのマルテー東北石橋である。

当時の様子を、新B&Yシリーズの開発プロデューサーであるモータージャーナリストの青山尚暉氏に聞いた。「当時は3・11直後。洗車に革命を起こすほどのブラシを開発したいという気持ちと、東北の復興に何か役に立てないか…そのふたつの思いがありました。今では仙台の工場のすべての人たちに感謝です。震災を乗り越え、東北魂のこもった素晴らしい洗車ブラシが誕生しました」

今回は、新B&Yシリーズの生産拠点であるマルテー東北石橋の仙台工場を訪れた。

新B&Yシリーズの基本デザイン、スペックを発案したブラシ職人でもある倉本和彦常務に話を聞く。「以前から、ロングセラーの各種洗車ブラシのほか、『やわかるウォッシュ』というクルマのボディを洗えるブラシはありました。ただそれは気泡ポリエチレンフォームのボディに熟練職人が毛材を“手植え”する構造、製造方法のため1日20本程度しかつくれない、非常に高価なものでした」

「しかし、新B&Yシリーズのような、比較的買いやすい価格帯で本格的な洗車ブラシのシリーズ展開は始めての経験です。ハンディクラウンからのハイレベルな要求に応えるため、持てるアイデア、技術をすべて投入しました。木の丸棒にウレタンスポンジを巻き、毛材を植えるわけです。ボディへの優しさ、使いやすさはもちろん、4か月間、ブラシを屋外に放置した耐久テストも行なってきました」

2011年6月の企画スタートからおよそ1年半の開発期間、さまざまな環境下での洗浄テストを経て、新B&Yシリーズは完成した。2012年のJAPAN DIY HOMECENTER SHOW2012で参考出品され、その後は富士スピードウェイのTGRFイベント、2013年の東京オートサロンに出展。反響の大きさは意外なほどだったという。

手作業だからこそ到達できる高品質へのこだわり

工場の内部はまさに日本のモノづくりの原点を思わせる、昭和の香り漂う空間。そして改めて新B&Yシリーズがいかに手作業行程の多い逸品であるかを確認できた。

製造工程はまず、ブラシのボディの柄の中芯となるラワン系ラミー材の丸棒を切断し、サンドペーパーで面取りする手作業から。片側にB&Yまたはトヨタ86のロゴ入りプラスチックキャップを取りつける。そして独特の質感、手触り感を持たせた柔らかく軽い黒のウレタン部材をかぶせていく。

つづいて片側にキャップを手ではめ、ウレタン部材の装着具合を整え、なんと針でウレタン部材の中の空気を抜いていく。これは中に残った空気でウレタン部材が動かないための配慮、工程だが、かなり細かい手作業である。

本工程の植毛作業はまず、ボディ部分を機械で固定し特殊なドリルで穴を開け、そこにプログラムされた機械によって正確に植毛していく。何種類もあるブラシの植毛プログラム切り換えのタイミングで、植毛後のブラシ1本を抽出。ウレタン部材部分を手で破り、木の丸棒でできた柄にV字に植わっている毛材を固定した針が外に出ていないかを目視確認する(つまり、1本をあえて無駄にする)。この段階では、ボディに植わったばかりの毛材の先端はまだ凸凹している。毛材とボディが合体した後、「マンガンローラー」という機械で無駄な毛を落とし、専用の金属櫛で毛を整え、毛材を手で引っ張り、毛材の抜けを確認。こちらも人の手作業が入る、手間のかかる作業だ。

つぎに毛材の表面カット工程。機械でブラシ先端を粗削りした後、なんとハサミで毛先の1本1本を整え、揃えていく。オートメーションの大量生産とはほど遠い。

そしてここからがもっとも重要な毛材先端の先割り工程。ブラシの毛材はPET素材(ポリエステルの一種)。1本0.17mmの細さで、水やシャンプーを含みやすいようにストローのように中空なのが特徴だ。しかしストローの先端を見れば分かるように、淵はけっこう鋭い。そこで短冊のように先を割る工程が必要になる。

その作業手順は(1)毛先を揃えるバリカンカット(2)2組の歯による先割り加工(3)表面の仕上げ整えカットと、通常の洗車ブラシなら(2)のみの1工程のところ、3工程もの手間をかける。ここにも新B&Yシリーズの高品質、クルマのボディ洗車に対する強いこだわりが伺える。

最後はパッケージ工程。ひとつひとつ、丁寧にブラシをパッケージの中に詰めていくが、ここで毛先の不揃いなど不備があった場合は、元の工程に戻すのではなく、担当者が自身の判断で修復するという。

これらの徹底したモノづくりの姿勢が、新B&Yシリーズの性能、使い心地の良さに表れる。

ちなみに1日の最大生産可能本数は手作業工程が多いだけにフル稼働しても約350本。この工場ではほかの多くのさまざまなブラシの製造しているため、新B&Yシリーズの生産は、発売から約8か月たった今でもその需要の多さから生産が追いつかない状況だという。

東北から革新的製品を

当初は「洗車ブラシはマニアックすぎる部分もある。本当に多くのユーザーに受け入れられるのか」という疑問があったに違いない。しかし今は、ハンディ・クラウン、マルテー東北石橋のどちらもが「想定外の売れ行き」と口を揃える。新B&Yシリーズのヒット、注目度の高さによって、現場の意識もまた大きく変わってきたはず。それが工場内の活気、職人ひとりひとりの“モノづくり”への自信、誇りの源だろう。

中沢弘行製造部部長は「現状に甘んじることなく、次なるブラシのアイデアの創出、新商品の企画も着々と進行中です」と、さらなる意欲を見せた。

倉本常務は最後に話した。「新B&Yシリーズは手間のかかる、我々としては特別な愛情を注いだ洗車ブラシです。我が娘のように愛らしく、嫁に出すような思いで工場から送り出しています」

今後もプロの業に支えられた確かな製品を、この仙台で生み出してほしい。

《レスポンス編集部》

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