【ホンダ アコードHV 試乗】シリーズハイブリッドエコランのツボどころ…井元康一郎

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ホンダ アコード ハイブリッド
ホンダ アコード ハイブリッド 全 6 枚 拡大写真

ホンダの新世代ハイブリッドシステム「i-MMD」を初採用した新型『アコードハイブリッド』。メディア向け試乗会の短時間ドライブのなかで平均燃費31km/リットルという良好なリザルトを残すことができた。車両特性への理解を深めればさらに燃費を伸ばすことも可能だろうが、現時点でわかったことをリポートする。

◆乗り方次第で燃費に差が出やすいハイブリッド

きわめて高い燃費性能を持つ新型アコードだが、どのように乗っても燃費がいいというわけではない。クローズドコースで行われたプロトタイプの試乗会では、30~80km/hの急加速、急減速を繰り返すタフなコースだったこともあって18.1km/リットルしか走らず、公道試乗でも“お楽しみ要素”を加味すると19.7km/リットル。豪雨の中を4名乗車でドライブした時も、エコランを心がけたにもかかわらず20.5km/リットルにとどまった。

ハイブリッドカーはアコードに限らず、乗り方次第で燃費に大差が出る傾向がある。乗り方の違いとは、ゆっくり走るのと速く走るののどちらがいいかといった単純なものではない。同じディスタンスを同じ平均車速で走っても乗り方によって燃費がまるで違ってくるのだ。

エネルギー効率が高いとされるハイブリッドカーだが、どんな状況でも同じように高効率というわけではない。普通のクルマと大して差がない領域も少なからずあるのだ。i-MMDやトヨタのハイブリッドシステム「THS II」の制御プログラムは、エンジンやモーターの効率の良い狭い領域をなるべく多用するように設定されているが、それでも運転の仕方によっては結構簡単にその領域を外れてしまう。

運転によって燃料消費量に差が出るというのは普通のクルマも同じことなのだが、ハイブリッドカーの場合、ピーク効率が高いぶん、余計に落差が大きくなる。燃費が期待したほど良くないというコンプレイン(不満)を持つユーザーが普通のクルマに比べて多くなりがちなのはそのためだ。

モデルによって、効率の良い加速度や速度レンジが著しく異なるということも、ハイブリッドカーのエコランを難しくしている。クルマによっては巡航時の効率が飛び抜けて優れており、多少効率の悪い加速をしてもその後の巡航でお釣りが来るので思い切ってスピードを乗せたほうがいいといったケースもあり、すべての局面で高効率を目指せばいいといは限らないのも難題だ。

◆エンジン作動時の加速は柔らかめに

さて、そこでアコードのエコランのコツである。ホンダのエンジニアによれば、アコードの場合は2000rpm台、とりわけ2700rpmあたりが最も効率がよく、そこから離れるに従って効率が落ちていくという。手元の資料に描かれたエンジンの出力・トルク曲線を見ると、2700rpmにおけるエンジンの全開出力は約45kW。スロットル開度7割前後が最も熱効率が高いと仮定すると、最も効率がいい出力は30kW強ということになる。

高速道路などにおけるエンジン直結のパラレルハイブリッドモード以外、アコードのエンジンは発電機を回すためだけに使われる。エンジンがかかるのは、バッテリー残量が少なくなったときか、バッテリーパワーだけではモーターの要求する電力をまかなえないときだけだ。エコランを行うときにエンジンがかかるのは主に前者の場合だろう。

急加速以外でエンジンがかかっているときは、発電機の出力は加速とバッテリーへの充電に振り分けられる。効率のよい35kW、少し幅を持たせて50kWくらいまでの領域を使う場合、強めにスロットルを踏むと電力のほとんどが加速に回ってしまい、バッテリー残量の回復が遅れてエンジンの作動時間が増え、燃料消費量増加の要因となるのではないかと予測。エンジン作動時の加速は気持ち柔らかめにすることにした。

一方、エンジン停止、バッテリーの電力のみで走行する時は、アコードはEVと同じである。EVはあまりに回転数が低すぎると効率が下がるエンジン車と異なり、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗の小さい低速域のほうが有利。よって信号が連続して速度の上がらないところではEV走行を限界まで維持すべく、エンジンがかからないようスロットルワークを工夫することにした。

◆ふんわりブレーキでエネルギー回収を最大化

i-MMDとともにアコードの燃費性能を上げる重要なデバイスに、一定の領域まではモーターの発電抵抗だけでクルマのスピードを落とすことができる「電動サーボブレーキ」がある。エネルギーを捨てることになるディスクブレーキが併用されはじめるのは減速度が0.2G強からとのことで、信号を読み誤って急ブレーキをかけたりしない限り、運動エネルギーは電力変換されて再利用できる。もちろんバッテリーに充電するさいの交直流変換でのエネルギーロスはあるだろうが、ブレーキをかけることにあまり悲観的になる必要はないと考えた。ただし、0.2Gまでの範囲でも上限に近い所では電流が大きくなって熱損失が増える可能性があるため、緩い減速度を維持することを心がけることにした。

こうした想定を頭に置きながら、ある程度高いスコアを出すことを意識してエコランを開始した。実際に運転してみて感じられたのは、新型アコードの走行抵抗の小ささ。インストゥルメンタルパネル内には青色のパワー側が18段階、緑色の回生側が12段階のエネルギーレベルゲージが設置されているが、EV走行での巡航時は青側1個が点灯するかしないかくらいの微小なスロットル開度で60km/hを維持できてしまうほど。

発進加速のエネルギーコントロールにおいては、青色側のゲージが3個点灯する直前の2個点灯くらいのアクセル開度がオススメ。体感的には頼りにならない加速のように思えるが、スピードメーター上では意外にスルスルと速度が乗っていく。電気モーターはフラットトルクなため、エンジン車のようなパワーの盛り上がり感をイメージしているとスロットルの踏みすぎになる傾向がある。シリーズハイブリッドをドライブするうえで、頭を切り替えたほうがいいポイントと言えよう。

◆THS IIとは異なる運転テクニックが必要?

バッテリーの電力量が不足気味になると、発電機を回すためにエンジンがかかる。最初にアコードをドライブしたときは、トヨタの2モーターハイブリッドTHS IIのエコランテクニックにならって、スロットルを絞ってエンジンを早めに止めたほうがいいのではないかと考えたのだが、やってみるとむしろ逆効果だった。

また、THS IIはバッテリー残量がエンジンの下限に達していなくても走行シーンによってわざとエンジンをかけてバッテリー残量を維持したほうがいいケースがあるのに対し、アコードのほうはバッテリーを使えるうちは節約しながらも徹底的にバッテリーに頼ったほうがよさそうだった。同じ2モーターでも、低速域からエンジンパワーを走行にも振り向けるTHS IIとはエコランの要領に相当の違いがあった。

エンジンで発電している時のエネルギーコントロールに気を配りつつ、普段は青側1~2個点灯の領域を保つようにしていれば、後方の車両をいらつかせるような運転をせずとも、市街地で25km/リットル、郊外で30km/リットルないしそれ以上くらいの燃費は十分に出せそうに感じられた。

筆者の31km/リットルという燃費記録も、地方道においては決して特別なものではなく、ちょっとアコードの特性を把握すれば誰でも出せるレベルのものだ。とくに高校で文理問わず誰でも習うレベルの基礎的な運動、電気、熱など物理を思い描ける人は適応も早いだろう。アコードを購入したエコランマニアがリッター40km/リットルオーバーの報告をするのもそう遠い未来のことではあるまい。クルマの性格は大きく違うが、オーナーのエネルギーコントロールへの努力に燃費で大いに応える資質を持ち合わせているという点は、プリウスに似ているとも言える。

◆車両の総合効率を理解してドライブしたい

エコランを終えて一つ不満が残ったのは、車両情報をドライバーに伝えるインターフェースの部分だ。前述のエネルギーメーターや瞬間燃費、平均燃費を表示可能なディスプレイが設置されているが、自分のエネルギーコントロールが適切かどうかはほとんど伝わってこない。とくに瞬間燃費計は、従来のクルマと異なり、EV走行時はゲージが振り切れ、エンジンがかかっているときは10km/リットル半ばを指し、急加速時にはぐっとレベルが下がるという表示に終始し、エコランの目安にはほとんど役に立たない。シリーズハイブリッドにはもはや無用の長物とも言える。

燃費のガイドラインは平均燃費だけでいい。知りたくなるのはむしろ、自分の今のドライブだと車両の総合効率は何%くらいなのかという情報のほうだ。空気抵抗や勾配、路面抵抗などは速度と出力から演算するといった大まかなものでいいので、出力・回生メーターのような漠然としたものではなく、具体的なエフィシェンシーをドライバーに伝えるためのロジックを考えてほしいものだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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