【インタビュー】バッテリーは低燃費化の屋台骨…パナソニック ストレージバッテリー グローバル企画部 松本剛部長

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パナソニックストレージバッテリー グローバル企画部 松本剛部長
パナソニックストレージバッテリー グローバル企画部 松本剛部長 全 11 枚 拡大写真

自動車補修用バッテリーの周辺サービスを拡充するパナソニック。部署間連携を強化し、カーナビなどとの連動も視野にサービス展開を図る。バッテリーに関しては、中心製品の「カオス」が国内でのプレゼンスを確かなものにしている。今夏は、バッテリーの状況をリアルタイムで検知できる「LifeWINK」が進化。車内にいながらバッテリーのステータスが確認できるようになった。

パナソニック ストレージバッテリーのグローバル企画部、松本剛部長に今夏の商品展開から将来の狙いについて聞いた。

---:ブルーバッテリーシリーズの「カオス」ブランド導入の背景は。

松本氏(以下敬称略):現在、当社のフラッグシップ商品となっている「カオス」は、2006年から我々のブルーバッテリー商品戦略として本格的に導入したもので、当時のかけ声としては、“新たな市場を作っていく”ということでした。

それまでのバッテリー業界というのは価格一辺倒、“エンジンがかかればいい”ということで、店舗にはスペックの差がほとんどないものが並び、保証期間の違いなどで何千円かの差を付けて各メーカーが競争していたのです。実際には松、竹、梅と性能にランクがあっても、お客様にとっては非常にわかりにくいものだったようで、市場は梅ランク品が50%~60%を占める状態。各メーカーが梅ランク品でしのぎを削って業界全体が疲弊していたのです。

そこに一石を投じようと考えたのが「カオス」です。よく言われるのは、ロードサービス出動理由のNo.1がバッテリーのトラブルで、全体の3分の1がバッテリー関連なのです。“これで本当にお客様に満足してもらっているのか?”、“本来のメーカーの役割を果たしているのか?”と我々は反省しました。お客様に求められる機能・性能を抽出し、改めてお客様に提案してみようと、従来なかった付加価値を持たせ、それまでなかった価格帯のバッテリーを投入することを決めました。

発売前は、「カオス」が当社の自動車補修用バッテリーの販売で5%のウェイトがあればいいと考えていました。しかし、発売初年度から販売全体の1割程度にボリュームが膨らみ、潜在的にお客様がバッテリーに不満や不安を持っていることが解りました。当時、“梅”クラスの製品に比べ、倍近い店頭売価であったにも関わらず、需要は小さくない。つまり、安心を求めるお客様が確実にいる。この考え方をフラッグシップ商品だけでなくメイン商材にも引き上げていくことで、本来のメーカーの役割を果たしていけるのではないかと考えたのです。

---:自動車ユーザーが、バッテリーに求める性能はどういったものだったのでしょうか。

松本:長持ち性能が一番であることはもちろんですが、自動車メーカーが取り組んでいた燃費や環境性能に少しでも貢献できないかと考え軽量化にも取り組みました。軽量化技術のほとんどは、極板を薄型化することで実現しています。我々は薄型極板に関して相当の特許を取得しています。極板を薄型化することで、通常“一部屋”に10枚しか入らない極板が、11枚、12枚入るようになり、バッテリー容量や充電受入性能を上げることができました。

ユーザーニーズに改めて立ち返る

---:新たな付加価値の提案に成功した訳ですが、仕掛人としてどのような感想をお持ちですか。

松本:今までになかった価格帯の製品がお客様に受け入れられたことが、本当にうれしかったですね。「カオス」のような付加価値の高い商品でも、10~20%程度はお客様に提案できるチャンスがあるんだと実感しました。しかし、当初の目標であるロードサービス出動理由No.1の汚名を返上するところまで、「カオス」を進化させていかなければならないと考えています。

---:「カオス」が成功した理由は。

松本:ほかの業界で出来ていたことがバッテリー業界では出来ていなかったのだと思います。消費者が求めるニーズに対して商品開発をせず、大手チェーン店や卸といった流通の意見を100%消費者の意見だと疑わなかったことにあるのではないでしょうか。原点にかえって消費者が買いたいと思う商品を、“一度しっかりやってみたい”、と思ったことが一番のポイントであったと思います。

アイドリングストップ車の台頭でバッテリーも燃費に大きく関わる存在になった

---:アイドリングストップ車の普及などで市場も変化すると思います。今後の戦略は。

松本:正直、悩んでいるところです。今販売している、一般車向けの補修用バッテリーは、新車のOEM製品に対してスペック的に余裕があり、付加価値を付ける伸びしろがあったのです。これが、アイドリングストップ搭載車が標準になってきますと、新車搭載のバッテリーと補修用バッテリーで差別化するだけのスペック幅がないのです。我々が持っている技術の最高水準のものが新車に搭載されているわけで、アイドリングストップ車搭載バッテリーに求められる品質がいかに高いレベルであるかを、エンドユーザーのお客様に理解してもらう必要があると思います。

---:アイドリングストップ車のバッテリー性能は、一般車向けとは大きく違うのですね。

松本:アイドリングストップ車では、頻繁にスターターが使われるので、バッテリーに求められる負荷が大きく、耐久性が求められます。また、一定量の充電がされていないとエンジンはかかり続けるように制御されますので、いかに早く充電するかという、充電受入性能も求められます。カーメーカーが示す性能を充たさないと、アイドリングストップする回数が減ってしまう。バッテリーの性能で燃費が変わってくる時代になったということなのです。

---:アイドリングストップ車が増えていく中、シェアを維持していくことに課題はあるのでしょうか。

松本:現在、アイドリングストップ車用バッテリーでは、性能にランクは存在せず、新車搭載の純正品と同じものを市販で用意しているという格好です。我々は、アイドリングストップ車用バッテリーのOEMでも高いシェアを獲得していますが、今後の課題としては、我々がOEMで納めていない車種とのマッチングをどう保つかが重要になってきます。

バッテリー状態を把握する「LifeWINK」の機能を拡充…12Vでのデータ転送技術を応用

---:新たな取り組みとして、バッテリーの寿命を判定してくれる「LifeWINK」に車内モニターとスマホアプリを用意した狙いは。

松本:「LifeWINK」は、バッテリーの劣化確認に焦点をあてて開発したもので、現在だけでなく過去のバッテリーの状態も記録しています。簡易なアナライザーで点検するよりもかなり精度の高い判定をすることが出来るものなのです。しかし、バッテリー本体に取り付けなければならないので、いろいろなアンケートからも「確認時ボンネットをあけるのが面倒くさい」という声があって、なかなか普及が進みませんでした。

やはり、我々の目標としては“バッテリーのトラブルをなくしたい”ということなので、もう一度これを見直して車内で見られるようにしようと考えました。今回、グループ内で12Vの電源配線を使ってデータを飛ばすという技術を活用しました。実際に試してみるとほとんどのクルマでデータを飛ばすことができたので、製品化することにしました。

---:普段は見えないバッテリーの状況を可視化するこのサービスは、どういった人たちに訴求したいのでしょうか。

松本:全てのユーザーに付けていただきたいのはもちろんですが、バッテリーが酷使されるアイドリングストップ車には必ず付けていただきたいと考えています。本来、クルマの性能を左右するようなものは車両の方でモニターする方法が求められますが、ユーザーが手軽にできるチェック機能を負荷する事でバッテリートラブルを解決していこうと思っています。

差別化が難しいアイドリングストップ車用バッテリーにおいて、寿命を検知することができるのはパナソニックですよ、というところが、販売戦略面においても付加価値になると考えています。

さらに、LifeWINK連動のスマートフォン用アプリも用意しています。アプリを活用していただく事で、ご自身の運転履歴とバッテリーの関係を把握できます。周辺サービスの拡充によりお客様への意識付けなどを強化して行ければと考えています。

女性をメインターゲットに、軽自動車専用バッテリーの投入

---:軽専用として「circla kei」を発売しましたが、製品の位置づけは。

松本:circlaは軽量化にこだわったブランドなのですが、軽クラスにもLifeWINKを同梱して安心感を高めていることが一番のポイントです。

我々は、商品の差別化と合わせて、店舗での売り方の提案にも取り組んできました。お客様の最終的な購入のきっかけとして、「店頭での一声」や「きちんと説明してくれたこと」というのがあって、せっかくいい商品を出しても、流通時に製品の良さを理解してもらわないとお客様に伝わりません。そこで研修には力を入れています。軽自動車ユーザーに対して、お店の人が提案しやすいよう、軽専用と強調することで解りやすさを追求したものになっています。

---:出荷構成比でハイエンド品が5割を占める状況ですが、いま自動車ユーザーはバッテリーに対して何を求めているのでしょうか。

松本:バッテリー性能にこだわりを持って選ばれる人は5%ぐらいで、そのほかの大半の人がやはり“安心感”をキーワードに選ばれているのだと思います。多くの人が、バッテリートラブルにリスクを感じていて“いいものがあったらお金を出しますよ”と思っているのに、これまでは、その“いいもの”が解らなかったのです。

クルマはガソリンを燃料にしています。しかし、昨今はクルマにおいても電気の効率的な利用が環境面、経済面において非常に大切であることが浸透しつつあります。したがって効率的な電気の利用を実現することは付加価値であり、この点、お客様にご理解いただけるようになってきました。我々は総合的にサービスを展開できるところが強みですので、エネルギーを総合的にマネジメントできる製品・サービスを展開して行ければと考えています。

《文責:椿山和雄、構成:土屋篤司》

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