【池原照雄の単眼複眼】通期業績予想、羹(あつもの)に懲りて修正を見送る

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トヨタ自動車 佐々木卓夫常務役員
トヨタ自動車 佐々木卓夫常務役員 全 4 枚 拡大写真

上方修正したのは3社のみ

自動車各社の第1四半期(4-6月期)決算で注目したのは、通期業績予想の修正だった。例年、4-6月期を終えた段階での修正は少ないものの、円高是正による足元の好業績で今年は相当事情が違っているからだ。ところが、上場自動車メーカー10社のうち、上方修正したのはトヨタ自動車、スズキ、富士重工業(スバル)の3社にとどまった。

10社の4-6月期連結営業利益は全社で増益となり、スズキや富士重工、日野自動車など7社が、全ての四半期あるいは第1四半期で過去最高となった。為替変動の効果だけでなく、それぞれが得意とする地域やセグメントでの販売拡大や、2008年のリーマン・ショック後に進めてきた構造改革策が実を結んでいる。

通期予想を上方修正した3社の営業利益は、トヨタが1400億円増の1兆9400億円、スズキが150億円増の1650億円、さらに富士重工は180億円増の1980億円とした。ところが、トヨタと富士重工が今回の上方修正に反映したのは「第1四半期での為替変動の影響分」(トヨタの佐々木卓夫常務役員)だけにとどめている。

保守的と言われれば、その通り

両社はともに、期初時点で今期の想定レートを1ドル90円などとしていた。しかし4-6月期実績はトヨタで同99円、富士重工で同98円となったため、営業損益段階で想定していた円安による増益効果が大幅に上ぶれした。その額がトヨタ1400億円、富士重工180億円であり、今回の上方修正額に反映した、というわけだ。

では、第2四半期以降の想定レートはどうしたのか。トヨタ、富士重工ともに1ドル90円という期初時点の想定は変えていない。この結果、通期では4-6月期の実績を反映し、両社ともに1ドル92円を業績予想の前提レートとした。談合したかのような、慎重な設定ぶりである。富士重工の高橋充専務執行役員は「保守的と言われればその通り。だが、まだ第1四半期が終了したところであり、(通貨は)何が起こるか分からない」と、説明した。

素直な修正に徹したスズキ

一方、両社とともに上方修正したスズキは、より現実に踏み込んだ格好だ。通期の4輪車世界販売計画を7万7000台下方修正して利益の下押し要因を織り込みながら、為替レートの見直しで予想利益を増額した。スズキも期初の想定レートはトヨタや富士重工と同じ1ドル90円、1ユーロ120円としていた。

それを第2四半期以降は1ドル95円などと、より現状に近いレベルにした。また、米ドル以上に差損益が大きく出るインドルピーについては期初より若干円高に変更するなど、キメ細かくレビューしている。想定レートの見直しによる増益と販売の下方修正による減益要因を相殺した結果、営業利益は150億円の上方修正となったわけだ。このスズキの業績予想こそ、現下の自動車メーカーの収益環境をより素直に映したものといえる。

超円高という「羹(あつもの)」の記憶が余りにも強いので、慎重にという気持ちは理解できる。だが、大半の企業が予想の修正を見送るか、あるいは小幅修正にとどめたこの第1四半期は、ステークホルダーへの適時・適切な情報開示という観点からは疑問が湧いてくる。

《池原照雄》

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