三菱重工業 H-IIロケット初の商業衛星打ち上げを受注…カナダの通信放送衛星、2015年後半に

宇宙 企業動向
カナダ、テレサット社の通信衛星打ち上げに使用される、H-IIAロケット204型
カナダ、テレサット社の通信衛星打ち上げに使用される、H-IIAロケット204型 全 3 枚 拡大写真

三菱重工業は、カナダの衛星通信事業者テレサット社から、通信放送衛星『TELSTAR 12V(テルスター 12V)』の打ち上げを受注したと発表した。衛星打ち上げは2015年後半の予定だ。

TELSTAR 12Vは、西経15度の静止軌道上で通信放送サービスを行う人工衛星。テレサット社は、インテルサット(米)、ユーテルサット(欧)、SES(欧)に続いて世界第4位の商業通信事業者で、14機の衛星を運用している。今回のTELSTAR 12Vが同社の15機目の衛星にあたる。

TELSTAR 12Vの打ち上げにあたり、三菱重工はH-IIAロケットに固体ロケットブースターを4本取りつけた、H-IIA204を使用する。H-IIAの構成の中でも打ち上げ能力の高い204型はこれまで、2006年12月に11号機で打ち上げられたETS-VIII(きく8号)に使われ、今回で2回目となる。

また、JAXAが開発を進めてきた、H-IIAロケット上段の改良型、高度化機を今回初めて使用する。もともと日本、種子島宇宙センターから人工衛星を静止軌道に投入するには、衛星側のエンジンを長時間使用して加速する必要があり、衛星に搭載された燃料を多く消費してしまう。衛星が運用期間中に姿勢を制御するために利用できる燃料が減るため、衛星の運用期間が短くなってしまう問題があった。

赤道直下の南米、仏領ギアナに打ち上げ射場を持つアリアンスペースはこの点で有利で、少ない加速で静止軌道への投入が可能だ。改良前のH-IIAロケットで加速をアリアンロケットと同等にしようとすると、静止軌道へ向かう静止遷移軌道への打ち上げ能力は2.2トン程度に制限され、大型の通信衛星を打ち上げることができなかった。

高度化H-IIAでは、ロケット第2段のエンジンンを3回着火し、衛星の代わりにロケット側で加速することができるようになる。そのため、搭載電池の長寿命化や推進剤タンクの塗料を工夫して推進剤を低温に保つといった改良を行っているという。高度化機では約4.7トンの衛星を静止遷移軌道に投入可能になり、今回の大型通信衛星打ち上げ受注につながった。

TELSTAR 12Vの打ち上げは、三菱重工にとって初の商業衛星の打ち上げ受注となる。受注に成功した要因について、航空宇宙事業本部 淺田正一郎宇宙事業部長は、打ち上げ能力が増して大型衛星の打ち上げに名乗りを上げられるようになったこと、円安によって価格競争力が増したことを挙げた。

また、テレサット社はTELSTAR 12Vの打ち上げにあたりオンタイム性(期日通りの打ち上げ)を重視しているという。H-IIAのこれまで22機中21機の打ち上げ成功に加え、天候以外の不具合による遅延が少ないことも商業衛星事業者の信頼につながったとしている。今後は、大手衛星事業者からの打ち上げ受注を実績に加え、さらなる商業打ち上げの獲得を目指す。淺田事業部長は「我々はお客さんを選べる立場にはない」とコメントし、幅広く世界の打ち上げ需要獲得を目指す姿勢だ。

《秋山 文野》

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