新生JAXA「エクスプローラー・トゥ・リアライズ」とは何を実現するのか…奥村理事長が講演

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新生JAXA「エクスプローラー・トゥ・リアライズ」とは何を実現するのか…奥村理事長が講演
新生JAXA「エクスプローラー・トゥ・リアライズ」とは何を実現するのか…奥村理事長が講演 全 7 枚 拡大写真

鳥取県米子市で2013年10月9日から11日まで開催された第57回宇宙科学技術連合講演会にて、「JAXAシンポジウム2013 in 米子」が開催された。設立から10周年を迎えたJAXAの将来について、奥村直樹理事長が講演を行った。

講演で奥村直樹理事長は、JAXA発足かのら10年間は、H-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗などの「大きな失敗を経験し、その後は職員が一丸となって技術基盤をつくってきた」としている。今後は「開発から利用へ」を盛り込んだ宇宙基本計画に沿って活動するとし、宇宙技術やデータをJAXAが提供した場合、「受け取る側(利用側)が何を価値と思うのか、あらかじめ予測し、相手と組んでソリューションを提供することが重要」と述べた。具体的には気象庁と「しずく(GCOM-W1)」データを提供している例などを挙げ、「天気予報の精度向上」という大きなテーマの中に衛星データという一つの技術を組み込み、宇宙と地上の他の技術やデータを組み合わせて価値を生む枠組みを作っていくことが大切だとしている。
完成から4年が経過した国際宇宙ステーション 日本実験棟「きぼう」については、その成果に「かなり厳しい評価を受けている」とし、タンパク質結晶実験などの結果をJAXA側から応用先を探すのではなく「宇宙(JAXA)単独でタンパク質結晶実験などをやるのではない。科研費やJSTで採択されたテーマをチェックし、宇宙が踏み込めるテーマを探す」と積極的にパートナーを探して協働する姿勢をこの点に関しても打ち出した。ISSは2020年に運用終了が決まっているため「残された時間が限られている中で何らかの成果を出していきたい」という。全体に、「宇宙は何の役に立つのか」といった疑問に答える意味での活動方針説明に時間を割いた印象で、宇宙科学など役に立つ、立たないとは別種の議論が必要になる分野については、人工衛星と地上の天文台との観測を組み合わせて成果を出す、といった取り組みについて短く触れるにとどまった。
JAXAの新コーポレートスローガンとなった「Explorer to Realize」について、何をリアライズ(実現、理解)するのかという点について奥村理事長は「社会の課題解決を具現」「人類の大きな夢である宇宙進出」を実現するため、探求を続けると説明している。

シンポジウム後半では、「新生JAXAへの期待」をテーマとしたパネルディスカッションが行われ、JAXAから遠藤守、山本静夫両理事、開催地鳥取県の鳥取大学からは恒川篤史 乾燥地研究センター長、増田紳哉産学連携コーディネーター、宇宙輸送の専門家としてアリアンスペース社 高松聖司東京事務所代表、九州工業大学米本浩一教授が登壇。東京大学政策ビジョン研究センター長 城山英明教授がモデレーターを務めた。
シンポジウム前半では、先月に小型固体燃料ロケットイプシロン試験機打ち上げ成功、またJAXAが輸送能力の高度化を担うH-IIAロケットによる海外商業衛星打ち上げ受注などの話題が相次いだ宇宙輸送についてかなりの時間を割いた。遠藤理事は、日本の基幹ロケットによる宇宙輸送能力を「2020年を目標に宇宙アクセス能力を持続性をもって維持する」という目標を説明。「持続性とは、技術基盤と産業基盤のふたつ。産業基盤については、(官需による打ち上げ回数が米国と比べて少ない)欧州と事情が同じ。国内ニーズだけで回数の確保は厳しい。そこで目を国外に向けて競争力を確保し、海外に向けては大型衛星の打ち上げ需要も満たすように、国内向けには中型衛星打ち上げの需要を満たすような開発を行っていく」と、今後始まる次期基幹ロケットの開発の方針を示した。これに対して、長年再使用ロケットの開発に関わってきた米本教授は「現在、商業打ち上げ市場といわれている静止衛星 年間20機程度の打ち上げがビジネスになっているかといえば、それは違うと思う。まだまだ国家プロジェクト。商業マーケットという言葉でイメージされるものは、毎年ロケットを何百機、衛星1000機といった単位で打ち上げることだろう。それは現状では到底無理であり、”商業打ち上げ”と呼べるものはまだ全然なりたっていないと理解すべき。1回の打ち上げが1億といった金額になっていかないと」とかなり厳しい反応を示した。さらに、年間約20機という商業打ち上げ市場を作り上げたという自負を持つアリアンスペース社の高松代表は「言われたことはその通り。でも欧州の場合は、その小さなビジネスを維持しないと宇宙への輸送手段を持つことができなかった。日本でも状況は同じ。実際に、アリアンスペース社の利益は年に数億程度で、市場は小さく壊れやすく、儲からない。しかしそこに入っていかざるを得ないのが現状だ。日本もそれは同じ」という。そして、「最悪のシナリオとして考えられるのは、日本と欧州がこの小さな商業打ち上げマーケットでぶつかり合い、(打ち上げ回数を維持できないことで)双方とも体力を失い、弱ったところを中国やインド、ロシアに持っていかれること」と危機感を滲ませた。「日本と欧州が宇宙輸送の商業活動でぶつかり合うことには意味がない。マーケットの中で日本、欧州が適切なシェアを確保することが必要」だという。また、そうした話し合いを持つきっかけとして「欧州の『アリアン6』、日本の次期基幹ロケット、両者が次世代のロケット開発を同時に開発スタートする今の時期こそ、協力について話をする千載一遇のチャンス」と提案した。その後のパネルディスカッションで二人の専門家の意見、提案についてJAXA側から直接の答えはなかったものの、宇宙輸送の将来について重要な議論が行われていることを感じさせる一連の発言だった。

《秋山 文野》

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