【井元康一郎のビフォーアフター】軽ばかりじゃない!? 増税懸念もある環境自動車税の気になる成り行き

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今年に入って自動車税制改革の検討を行ってきた「自動車関係税制のあり方に関する検討会」は今月4日、最終会合で自動車税制を現行の排気量別から排気量とCO2(二酸化炭素排出量)の併用方式に移行させるべしということで意見をまとめた。

話し合いの概要は誰でも閲覧できるよう、総務省のホームページにPDFファイルでアップロードされている。それを読む限り、政府としては自動車関連諸税をトータルで減税するという考えは皆無で、日本自動車工業会が求めている車体課税減税ぶんは、保有税の増税で補うことになる公算が大だ。

◆日独の自動車税額は歴然の差

排気量+CO2という税制を先行して実施しているのはドイツである。ドイツの場合、ガソリン車が排気量100ccあたり2ユーロ(1ユーロ130円換算で約260円)、ディーゼル車が同9.5ユーロ(約1250円)。これにCO2排出量課税が加わるが、今年まではEU混合モードで110g/kmが免税点で、これを超えた分は1g/kmあたり2ユーロ課税される。来年からは免税点が95g/kmと、より厳しくなる。

これをもとに税金を試算してみよう。排気量1598cc、CO2排出量124g/kmのガソリン車、BMW『320i』の場合、排気量課税が3200円、CO2課税が2800円の、計6000円。排気量1798cc、CO2排出量84g/kmのトヨタ『オーリスハイブリッド』の場合、排気量課税が3600円、CO2課税が0円の計3600円だ。

ディーゼルの場合、排気量課税がガソリンより重いため、自動車税額も上がる。排気量フォルクスワーゲン『ゴルフ』トレンドラインディーゼル(1598cc・99g/km)の税額は排気量課税1万9700円、CO2課税0円の計1万9700円。マツダ『アテンザ』セダン150ps(2191cc・104g/km)の場合、排気量課税2万7100円、CO2課税0円の計2万7100円となる。

ガソリン車とはかなりの差となるが、アウトバーンでの燃費が良いうえ、軽油価格がE10(エタノール10%含有)レギュラーガソリンに比べて1リットルあたり1.5ユーロ(20円弱)安いことから、長距離を走れば元を取れるという仕組みになっており、とくに年間走行距離の長いDセグメント(BMW3シリーズなどのクラス)以上ではディーゼルが圧倒多数となっている。

試算してみると、ドイツの自動車税、とりわけガソリン車のそれは、日本とは比べ物にならないほど安いということがあらためておわかりいただけるだろう。

◆減収回避に必死な政府

さて、話を総務省の自動車税制改正に戻そう。総務省はクルマに関して、自動車の生産、購入、保有、走行に至るまで、あらゆる段階で適切に課税する必要があると主張している。その理由として掲げているのが、CO2排出量の抑制だ。かつて自動車関連税は、道路を作るために徴収するという特定財源だったのだが、今は用途を指定しない一般財源となっている。「道路建設のためという大義名分を失った以上、環境税としての色彩を強化しないと、自動車関連諸税は常に撤廃要求にさらされることになる」と、歳入確保のためになりふり構っていられないということを隠そうともしていないのだ。

排気量+CO2課税という方式は、それ自体は悪くない方式だ。クルマのエネルギー効率を上げる技術開発を促進する効果は大きく、また排気量税を併用することで大型のクルマからより多くの税金を取るぜいたく税的な機能も満たせる。が、「税収を今までと同じかそれ以上に確保するつもり」(総務省関係者)ということだと話は違ってくる。

あくまでドイツ1国との比較であるが、すでに日本の税金はメチャクチャに高い。ガソリン車の場合、ドイツではBMW320iだろうがオーリスハイブリッドだろうが、自動車税は日本の軽自動車より安いのである。

日本より高いのはガソリン税、軽油税で、燃料価格は軽油がおおむね1.5ユーロ(約200円)、E10ガソリンで1.65ユーロ(215円)だが、そのかわりアウトバーンが無料で、郊外区域の制限速度100km/hの一般国道も幹線は片側2車線以上の高規格道路が普通と、日本とは大違いである。環境行政の監督官庁でもない総務省や財務省の言う環境税は、環境のためなどではなく、無茶苦茶に高い自動車関連税の税額を正当化するための方便でしかないのだ。

もっともそのような方便に道理があるとは、当の総務省だって思ってはいない。税収を減らすわけにはいかないという止むに止まれぬ事情あっての詭弁だ。

◆黙っていては泣きを見る自動車保有者

税は取りやすいところから取るというのは、洋の東西を問わず、文明発祥の頃からの普遍的手法であるのだが、日本は世界の先進国のなかでもその傾向が極端に強かった。その最たるもののひとつが自動車で、クルマから取る税金の額は税収全体の約5分の1を占めるほどだ。これは課税のやり方としてはあまりにも稚拙としか言いようがないのだが、長年にわたってその構造を維持したまま社会を切り盛りしてきたため、すぐには変えようがない。今、自動車関連税が大幅に減ると、国家予算が成り立たなくなってしまうのだ。

もちろん国民としても、国がダメになってしまうような要求をゴリ押しするようなことはすべきではない。が、時間をかけて税体系をきちんと再構築し、自動車に重税を押し付けるような構造を少しずつ解消に向かわせるのは重要なことだ。が、今のところ行政サイドはその構造をまったく変える気がないどころか、さらに税を増やそうという目論見すら抱いているのである。

有識者会議のメンツを見ると、道路交通や自動車に関する専門家は皆無で、ほとんどが財政学や税制の専門家、すなわち税金をかけるプロフェッショナルたちだ。その有識者会議の意見がまもなく出され、それをもとに新税制の法案が作られ、今年末には税制改革のひとつとして国会で審議される運びとなろう。

税制改革では軽自動車の増税ばかりが話題になっているが、他のクルマを下げてバランスを取るなどとは、行政サイドは一言も言っていない。自動車を通じて高額な税金を収めている有権者たちは、お上のなすに任せず、税制改革の成り行きをしっかり見守り、それがダメなときには声を上げていくべきだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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