9月のフランクフルト・ショーでデビューした新型プジョー『308』。そのデザイン開発を指揮したのがジル・ヴィダルだ。96年にPSAに入社した彼は、シトロエンで実績を積んだ後、09年にプジョーのデザインディレクターに就任した。
Cdのために全高を下げた
2012年に『208』のデザインについてインタビューしたとき、ヴィダルがまず語ったのが「先代と同じ室内空間をキープしながら全長を切り詰めた」というスペース効率の話題だった。今回の新型308も同じだろうか。
ヴィダルによると「基本的には同じだ。全長と全高を先代308より少し縮めた一方、レッグルームは変えていない。全高を下げたぶん、ヘッドルームは減っているけどね」と話した。「先代308は背の高いパッケージングだった。それはもう続けるべきではないと考えた」。
どういうことか。ヴィダルはスペース効率とは違う“効率”を挙げ、こう説明する。「当然ながら、我々はより効率的なクルマを作りたいと考えた。燃費を良くするには、軽量化と空気抵抗の低減が大事だ。Cd値の目標は0.28。実際にそれを達成したのだが、そのためには全高を下げる必要があった」。
逆に言うと、室内の広さは最優先事項ではなかったわけだ。「このセグメントのクルマは基本的に1人か2人で乗る。子供がいないか、子供がもう独立したカップルが買うクルマだ。そこで後席のレッグルームを増やすより、荷室を拡大することに寸法を使うべきだと考えた。新型308の荷室容積は先代より40リットルも大きくなっている」。
Aピラーを後ろに引いたプロポーション
プロポーションにおいて、全高が低くなったこと以上に先代と違うのがAピラーの位置だ。先代はAピラーの根元を前進させ、いわゆるキャブフォワードのプロポーションだったが、新型308はそれを後ろに引いている。これは何故なのか。
「理想のプロポーションを探求した結果だ」とヴィダル。「まず我々はフロント・オーバーハングを切り詰め、前輪を先代よりも前に出した。一方で、前に述べたように、空力のために全高は下げたい。それらを考えたとき、Aピラーの根元を前進させてミニバンのようにキャビンを長く見せるのは得策ではない、という結論に至った」。
一般にFF車はフロント・オーバーハングが長く、そのままボンネットも長くしたのでは、FF車本来の持ち味であるスペース効率を表現できない。だからキャブフォワードでボンネットを短縮することが、FF車のプロポーションの進化だった。また、プロポーションのバランスを考えると、背が高いクルマほどAピラーを前進させるのがセオリーだ。室内広さを求めて全高を上げるにつれ、よりキャブフォワードになるというトレンドもあった。
しかし、フロント・オーバーハングの短縮と低全高化が、新型308に新たな可能性をもたらした。キャブフォワード“感”は前輪とAピラーの根元の位置関係で決まってくる。前輪が前に出れば、キャブフォワード“感”が薄れる理屈だ。そこを逆手にとって、あえてAピラーを後ろに引くというのは『CX-5』以降のマツダ車、VWの新型『ゴルフ』などにも見られるFF車の新トレンドだ。
「クラシックなプロポーションになったという意見もあるだろう」とヴィダル。「しかし我々はプロポーションにも高いクオリティ感を表現したいと考えた。ドイツのジャーナリストから『ドイツのクオリティとフランスのクリエイティビティを融合したデザインだ』と言われたけれど、その通り。我々はまさにそれを意図した」。
小さなヘッドランプも効率の表現
ヘッドランプはプジョーらしい“ネコ目”。しかしカタチは先代308とまったく違う。先代ではランプの外側を後ろに引っ張って前後に長い形状とし、そこからAピラー根元までの距離を縮めてキャブフォワード”感”を強調していたのに対し、新型のヘッドランプはあまり後ろに引っ張っていない。ヴィダルによれば、狙いは小型化だという。
「大きなヘッドランプで表情の強さを競うのは、今やもう古いと思う。違う価値を表現したい。我々が持っている技術の効率性を表現しようと考え、ヘッドランプをできるだけ小さく、タイトにデザインすることに挑戦した」。
新型308の上級グレードは、このセグメントで初めてフルLEDのヘッドランプを標準装備。他のグレードのハロゲン・ヘッドランプも先代より小型化しているが、フルLEDはさらに小さい。LEDのメリットを活かして、専用形状をデザインしたのだ。プロポーションからヘッドランプまで、新型308は“効率”という時代のニーズに応えるデザインなのである。