【井元康一郎のビフォーアフター】Bセグ非ハイブリッドの燃費トップ、スイフトDJE にみた“エコカーの忘れ物”

試乗記 国産車
スイフトDJE
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世界的な燃費競争はハイブリッドカーやクリーンディーゼルのみならず、普通のガソリンエンジンを搭載したクルマでも激化の一途をたどるばかりだ。

信号待ちなどのときにエンジンを停めて無駄な燃料消費をカットするアイドルストップ機構の採用が急速に広がり、エンジン自体の熱効率も急速に向上。そのうえでメーカー各社は空力特性の向上やフリクションロス低減、軽量化、さらには低転がり抵抗タイヤを履かせるなど、涙ぐましいまでの努力を繰り広げている。

◆2011年のデミオ SKYACTIVがJC08で25km/リットル超え

2011年にマツダがJC08モード燃費25km/リットルという優れた燃費性能を持たせた『デミオ SKYACTIV』を発表。翌12年には日産自動車がダウンサイジング過給エンジンを搭載した『ノート』で、デミオを上回る25.2km/リットルを達成した。

ホンダは今年、その2モデルをさらに上回るべく、新開発の1.3リットルミラーサイクルエンジンを採用した『フィット』にモード燃費計測で有利となる車重970kg以下の燃費スペシャルグレードを用意し、26km/リットルでトップに立とうという皮算用を立てていた。

◆モード燃費26.4km/リットル、スイフトDJE試乗…その実力は

マツダ、日産、ホンダの三つ巴の様相を呈しかけていたそのBセグ燃費戦争だが、そこに割り込んできていきなりトップに踊りでたのは、伏兵スズキだった。今年7月、改良型の1.2リットル「デュアルジェットエンジン」を搭載した『スイフトDJE』でモード燃費26.4km/リットルを達成したのだ。

この“奇襲”に一番悔しい思いをしたのは燃費トップの称号が取らぬ狸の皮算用に終わったホンダだが、他メーカーのエンジニアたちもスズキの思わぬ仕掛けに少なからず驚いたという。「直噴やダウンサイジングターボなどの飛び道具なしに26.4km/リットルというのは正直ビビる数字。このクラスの当面の目標ラインは30km/リットルですが、その中間発表として十分すごいと思います」(トヨタ関係者)

Bセグの燃費トップランナーモデルとなったスイフトDJEだが、モード燃費とオンロードでのパフォーマンスは必ずしも一致しない。その実力値がいかほどのものか試してみようと考え、ロングドライブを行ってみた。試乗車はノーマルスイフトの中ではトップグレードで、パドルシフトやカーテンレールエアバッグなど充実装備を持つ「XS」のFWD(前輪駆動)モデルで、希望小売価格は5%税込み160万8600円。

走ったのは東京・葛飾を出発し、愛知、静岡、長野の3県にまたがる広大な山岳地帯の奥三河、さらに伊那峡から霧ヶ峰を経由して甲府盆地に下り、甲州街道を通って出発地に戻るというルートで、走行距離は916.5km。全行程1名乗車である。

まずは燃費パフォーマンス。結論から言えば、非ハイブリッドコンパクトとしては申し分のない数値であった。

熱効率の良い回転数を低回転側に寄せた

まずは一般道。スイフトDJEのパワーユニットはインジェクションを1気筒あたり2本装備するデュアルジェットエンジン、変速機は変速比幅が7.3というワイドレンジを実現したジヤトコ製の副変速機付きCVT。興味深かったのは、荒いドット表示のタコメーターからうかがえる両者の協調制御だ。

排気量1.2リットルというキャパシティは車重1トンのボディにはミニマムではないかと予想していたが、ハーフスロットルでの発進時はタコメーター5目盛点灯の2000rpm前後で十分な加速度が得られる。

面白いのは加速が終わり、流れに乗ってクルーズする時の挙動。巡航に入ると、最初はタコメーターの表示が1000rpm以上を示す3目盛めが点灯しているが、スロットルを少し踏み込んだ状態での速度維持が1~2秒ほど続くと、エンジン回転数が下がり、1000rpmより下の2目盛点灯となる。瞬間燃費計の表示はMAXで30km/リットルだが、2目盛点灯の状態が数秒続くとそのMAX値に張り付くようになる。

市街地や郊外などいろいろなシーンでスロットルワークを試してみたが、その状態は時速25km/hあたりから60km/hを超える幅広い領域で維持することが可能だった。スロットルを抜くと、燃料カットのために3目盛点灯まで回転数が上がる。スロットルをオンにすると、しばらくして再び2目盛となるが、その間は瞬間燃費計は20km/リットル台前半に落ちてしまう。

運転開始後しばらくして気づいたこの挙動から、スイフトDJEのデュアルジェットエンジンは熱効率のいい回転数をぐっと低回転側に寄せたセッティングであると類推し、アクセルオフで燃料カットを心がけるよりは、アクセルを微妙に踏んだ状態で速度をコントロールするディーゼル車的なドライブのほうが燃費が伸びるのではないかと仮説を立ててエコランを試みた結果、市街地、郊外とも、より燃費を伸ばすことができた。

CVT任せで充分な加速を得る

クルマのエネルギーコントロールが感覚的につかめてきたドライブ終盤、国道20号線大垂水峠を通過後に東京・八王子市に入った時には平均燃費計の数値が25.7km/リットルであった。信号のつながりが極めて悪い八王子市街を抜けたときには25.2km/リットルにいったん落ちたが、その後甲州街道~環状7号線を通って葛飾区までを走りきったときには25.5kmまで回復していた。低い速度域でもある程度流れていれば、タコメーター2目盛状態への滞在時間をなるべく長く取るよう心がけることで、燃費を相当のばすことができるようだった。

次は奥三河や霧ヶ峰などのワインディングロード。スイフトのコンピュータは急勾配、急カーブが連続していることを感知すると、エンジンの熱効率の高いところをキープするというよりは、元気よく走ることを重視したCVTの変速制御を行うようプログラミングされているようだった。

デュアルジェットエンジンは排気量1242ccで最高出力91馬力と、ハイチューンというわけではないが、6000rpmまで嫌な振動・騒音や引っ掛かり感なしにスルスルと回る、実に素直な性格。スロットルワークに対するCVTの変速レスポンスが非常に素早いこともあって、急な登り坂でもCVT任せにしていれば欲しい加速は十分に得られる。

瞬間燃費計を観察していると、マニュアルモードに入れてパドルシフトを用い、エンジン回転数を抑え気味にして走ったほうが燃費が伸びそうだったが、さすがに勾配区間では低回転域ではトルク不足を感じるシーンが少なくなく、燃料をちょっと節約するよりCVT任せにしてストレスフリーのドライブを楽しむほうが得策に思えた。ワインディング区間の平均燃費計の数値はおおむね17km/リットル前後だった。

“苦手科目”高速巡航

最後に高速巡航。燃費性能の良好なスイフトDJEにとって、この高速走行が相対的に一番の苦手科目だった。時速100km/hでも負荷が小さいときには2000rpm前後で巡航できるため、かなり燃費を伸ばせそうなイメージだったが、瞬間燃費の挙動をざっくり頭のなかで積分してみた印象では、23km/リットル前後ではないかと思われた。80km/h巡航でも燃費はそれほど向上せず、おおむね25km/リットル前後といったところ。ゴーストップのある市街地と大して変わらないのは意外といえば意外である。

916.5kmのドライブを走り終えたときの給油量は合計37.93リットルで、実燃費は24.2km/リットル。標高差が最大で1800mもある山岳路走行のステージがかなり長かったことを思えば、十二分に良い数値と言えよう。平均燃費計は3%ほどの過大表示と比較的正確なほうで、エコランの目安には十分使えそうだ。

もっとも、燃費が良いというだけなら昨今、コンパクトカーの性能が上がっていることを考えれば、決定的なアドバンテージとまでは言えない。驚かされたのは、その燃費性能をドライビングの楽しさと高い次元で両立させていることだ。

ワインディングロードに対応する足回り

燃費性能を追求した昨今のエコカーといえば、走行抵抗を極限まで減らすため、転がり抵抗の小さな省燃費タイヤを履いているのが普通だ。が、スイフトDJEのタイヤはグリップ力と快適性の両立を目指したブリヂストンの「トランザER300」。タイヤサイズも185/55R16と、1トンクラスには十分な太さだ。

足回りはフロントがストラット式独立、リアがトーションビームで連結されたトレーリングアーム式半独立というコンパクトカーではごく一般的な構造だが、タイヤとサスペンションの連携チューニングはきわめて良好だ。

価格の安いコンパクトカーはコスト制約がきつく、あまり上等な部品は使えない。その影響からか、市街地走行で舗装の荒れたところを通過した時などのざらつき感のカットはあまり良いとは言えない。道路の継ぎ目を踏んだ時の衝撃吸収も、悪くはないが良くもないといったレベルだ。

が、サスペンションの部品精度よりテスト走行などを通じたセッティングの妙が生きるワインディングロードではイメージが激変する。今回ドライブしたコースの途中には、奥三河の秘境道路で“険道”の異名を取る静岡県道1号線をはじめ、相当に路面の荒れたワインディングロードが含まれていた。それらの道路はタイトコーナーが連続するにもかかわらず制限速度60km/hの区間も多く、日本で合法的に攻めの走りができる代表的な道路でもある。

そのような山奥のワインディングロードを走るのに、スイフトDJEのサスペンションチューニングはとても適していた。コーナリングで深々とロールをしたときに路面の大きなギャップを拾ってもクルマがはねたりすることなく、ゴロゴロっという感触を伴ってしなやかにその凹凸をいなす。

クルマからの語りかけを感じられるステアリングフィール

ハンドリングは、昨今流行りのニュートラルに近い味付けではなく、1世代前のフォルクスワーゲン『ポロ』に似た、クルマとドライバーが常に対話をしながら走るような味付けがなされていた。コーナリングでステアリングを切るとまずフロントがロールし、その動きにリアがあとから追従するというイメージである。

自分の行きたい方向に単純にステアリングを切るのではなく、フロントの巻き込むような動きの感触をステアリングで確かめながらリズミカルにS字をクリアするようなドライビングスタイルで、知らない道でも安心感を覚えながら良いペースで駆け抜けることができるのだ。

ドライブフィールを良いものにしているもうひとつの重要なファクターはフロントシート。両脇にサイドサポートが張り出すセミバケットシートで、その体圧分散設計が非常に良いためにコーナリングでGがかかっても体がぶれず、変に体を突っ張らずとも安定した姿勢でドライブできる。試乗車は上位グレードだったが、スイフトは最安グレードにもこの形状のシートが装備されるという。

また、シート表皮の手触りなどの官能評価は大したものではないが、900kmあまりのドライブの中で体が接している面のある部分にストレスが集中して疲れを誘発するといったことは一度もなく、フレームやスプリング、ウレタンのチューニングがきわめて上手く行っていることも、日本車のベーシックカーとしては特筆に値するドキュメントだ。

突出した高次元の“ワクワク感”

総じて、スイフトDJEのクルマとしてのワクワク感は国産コンパクトの一般グレードの中では突出して高く、フォルクスワーゲン『ポロ』やルノー『クリオ(日本名ルーテシア)』など、欧州で走りが高く評価されているモデルのベーシックグレードと比較しても一歩も引けを取るものではなかった。

燃費競争に拘泥するあまり、クルマとしての走りの資質や楽しさを置き去りにしてしまったようなエコカーも珍しくないなか、優れた燃費性能を持ちながらも、その燃費はあくまでドライブを少ない燃料代で味わうためのサブツールで、エコタイヤなどを使うことなく、あくまで運転の楽しさを最大の柱にしたようなスイフトDJEの味付けは見事といえる。

昨今、若者のクルマ離れが叫ばれ、自動車メーカーはどこも運転の楽しいクルマの提案に腐心している。たとえばトヨタ『ヴィッツG's』やマイナーチェンジでハンドリングが劇的に改善されたホンダ『CR-Z』などは、とても良い操縦特性を持っている。が、それらは大抵スポーツカーであったり、コンパクトカーでもエンジンやサスペンションを特別にしつらえたスポーティグレードというケースがほとんどだ。

クルマに大して興味を持っていない若者が足代わりに買うような低価格モデルの走りを丁寧に磨き込んで、買った後でユーザーが思わぬ楽しさに気づく機会を持ちやすいようなクルマ作りこそ、滅亡の危機に瀕しているといっても過言ではない日本の自動車市場を再興させるのに大切なことではあるまいか。スズキが安価なエコカーでも楽しいクルマ作りができることを製品で証明してみせたことは、他メーカーにとっても大いに刺激となっていることだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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