【インタビュー】「BMW i8はカスタマーの期待を超えるスポーツカー」… 開発エンジニア M・エンゲルマン氏

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ハイブリッド・パワートレイン担当マネージャーのマルティン エンゲルマン氏(左)とBMW エフィシエント・ダイナミックス広報マネージャーのマンフレッド・ポッシェンリーダー氏 (東京モーターショー2013)
ハイブリッド・パワートレイン担当マネージャーのマルティン エンゲルマン氏(左)とBMW エフィシエント・ダイナミックス広報マネージャーのマンフレッド・ポッシェンリーダー氏 (東京モーターショー2013) 全 25 枚 拡大写真

先ごろ日本でも発表されたBMW 『i8』は、PHV時代を見据えた次世代のスポーツカーだ。東京モーターショーのBMWブースで、このi8のパワートレーン開発を統括した担当者に話を聞くことができた。

聞いたのはBMWグループ ハイブリッド・パワートレイン担当マネージャー、マルティン エンゲルマン(Martin Engelmann)氏と、BMW エフィシエント・ダイナミックス広報マネージャーマンフレッド・ポッシェンリーダー(Manfred Poschenrieder)氏だ。

◆ i8で重要なのは効率だけではない

----:i8はBMWにとって初の量産型プラグイン・ハイブリッド車です。開発する上でどのような特徴を与えたいと考えましたか。

マルティン:i8の開発で、私たちがとても幸運だったのは、まったくの白紙から、まったく新しいアーキテクチャーと、まったく新しいパワートレインで、まったく新しいクルマを作ることができたことです。

お客様に提供したいと思ったのは、真にスポーティなスポーツカーで、同時に極めて高効率なクルマです。そのため、i8では高性能な電気モーターを採用し、燃費に関してはEUの測定モードで100kmあたりの燃料消費量が2.5リットル(40km/リットル)を達成しました。

----:ハイブリッド車やピュアEVという選択もあったと思いますが、なぜi8はプラグイン・ハイブリッド専用車となったのですか。

マルティン:やはりこれだけの高性能を実現しながら、同時に次世代にふさわしいクルマとするには、ハイブリッド車にバッテリーを追加するだけでは不十分だと考えました。また、ここは白紙から開発できるというチャンスを活かし、高効率な電気モーター、バッテリー、エンジンを使った次世代のスポーツカーを作るという包括的な考え方で取り組むべきだと考えたのです。結果としてi8は、231psを発揮する内燃エンジンを持ち、システム全体で362psを発揮することで、加速性能に優れたクルマとなりました。

また、私たちは、i8のプラグイン・ハイブリッドを開発する上で、「機能性(ファンクショナリティ)」を第一に考えて取り組みました。例えばそれは、前輪を駆動するモーターと、後輪を駆動するエンジンのコンビネーションで、いかようにも操縦性を高めることができる、といった点です。i8のモーターやエンジンは非常に高効率ですが、しかし効率だけを求めたのではなく、いかに走行性能を高めるかが重要だったのです。

◆ M1との共通点はエアロダイナミクス

----:極めてハイエンドのスーパースポーツという点では、(BMWが1978年に発表した)『M1』を思い出します。今回のi8と重なる部分は。

ポッシェンリーダー:(即答で)エアロダイナミクスです。M1はエンジンをリアに搭載する点、またリアウインドウの横に冷却用アウトレットがあり、車体の下から上に空気が抜けるクーリングシステムといった空力特性、そしてスタイリングといった点でよく似ています。

もう一つ共通するのが、それぞれが登場した時代において、いずれもラジカル(急進的)という点ですね。M1はレーシングカーとしても非常に斬新でしたが、今回のi8も未来志向型のクルマであり、ラジカルな要素を持っています。エミッションのレベルが極めて低く、同時にスポーティな走行性能を備えるi8は、今まで積み上げてきた技術を代表すると同時に、将来のモビリティを新しく解釈し直す存在でもあるのです。

◆ 「BMW ビジョン・エフィシエントダイナミクス」の要素を受け継ぐ

----:i8の源流として、まず2009年のフランクフルトショーでコンセプトカーの「BMW ビジョン・エフィシエントダイナミクス(Vision EfficientDynamics)」が発表されました。量産前のプロトタイプでしたが、そのあまりの斬新さゆえ当時の一般的な反応は「市販化は難しいだろう」というものだったと思います。それが今回、i8という形で市販化された経緯を教えて下さい。

ポッシェンリーダー:ビジョン・エフィシエントダイナミクスは単なるコンセプトカーではなく、将来のモビリティを形作ろうという明確な意図で作ったものでした。つまり、そこで使われた様々な技術、例えば軽量化、空力特性、パワートレインはやがて、BMWのコアモデルに応用される技術のベースにもなるということです。

しかし実際には、お客様だけでなく、ジャーナリスト、そして多くの政治家の方々にまで、このコンセプトカーを非常に気に入っていただき、「ぜひ市販化して欲しい」と言ってもらえました。そういった評価をいただけたのは、BMWという企業が、技術を高めればダイナミズムの実現とエミッションの低減は両立できるんだと示したからだと思います。もともと私たちには市販化する意図があったのですが、それでも各方面からポジティブなコメントが寄せられたのは、正直なところとても嬉しく、また勇気づけられることでした。

結果として、ビジョン・エフィシエントダイナミクスと2011年に発表した「i8コンセプト」を比べていただくと、多くの共通点があることが分かってもらえると思います。また、市販車のi8が、i8コンセプトとほとんど変わらないイメージで登場したことも、またご理解いただけると思います。

それから今回は市販車としてi8を発表しているにも関わらず、多くの方が「素晴らしいコンセプトカーですね。これはいつ、どのような形で市販されるのですか」とお聞きになることも、私たちにとっては大きな自信になっています。なぜならそれは、コンセプトカーにあった要素の多くが実現されているということだからです。

◆ 3気筒ターボ、空力、軽量化などの技術要素が集まったものがi8

----:1.5リットル3気筒ターボエンジンや5kWhのバッテリーといった構成要素は、どのようなバランスや経緯で決定されたのですか。

マルティン:バッテリーを大きくすると、もちろん航続距離は長くなりますが、重量増やボディサイズに収まらないという問題が生じてしまいます。また、エンジンに関しても、様々なバランスやニーズを考えた上で1.5リッター3気筒ガソリンターボを選びました。この3気筒エンジンは、私たちが市販車用に開発した新しいエンジンファミリーの一つをベースに、i8用にパワーや電気モーターとのバランスを最適化したものです。

もう一つ重要なのは、スポーティなクルマとするには、車重が重くてはいけないということです。そこでi8の開発では、車重を1500kg以下にするという目標を立てました。これは新たにコンポーネントが増えるプラグイン・ハイブリッド車にとっては難しい課題です。それをクリアするため、パッセンジャーセルをCFRP製にして軽量化しました。こうした要素が集まって、i8が作られているのです。

ポッシェンリーダー:もう一つ大切なことは、お客様の立場でクルマを開発しなくていけない、ということです。私たちとしては21世紀にふさわしいクルマを提供するという目標から始まるのですが、一方でお客様は、いくらエミッションフリーでもパワーがないクルマは欲しがらない、という現実があります。プラグイン・ハイブリッド車であっても、EVであっても、お客様からすればそれは二の次であり、一番大事なのは自分が買いたい魅力的なクルマなのかどうかですから。i8には、ひと目見て「欲しい!」と思わせる魅力があると思っています。

◆ ワインディングで最高の性能を発揮するスーパースパーツ

----:i3とi8は日本でも価格が発表され、大きな反響があります。開発者としては、どのように日本で受け入れられたいとお考えですか。

マルティン:自信をもって申し上げたいのですが、日本のお客様の期待を超えるものであり、とても気に入っていただけると考えています。ある意味で、i3とi8は両極端なものですが、どちらを選んでも必ず気に入っていただけるはずです。

----:次世代のスーパースポーツとして期待が高まりますが、古典的な興味としては、サーキットではどうなのか、ニュルブルクリンクを走ったらどうなのか、ということも気になります。何かそういったチャレンジの予定は?

ポッシェンリーダー:期待していただけるのは嬉しいのですが(笑)、i8はレーストラック用に作ったクルマではありません。99%の人々はレーストラックとは無縁の一生を送ると思いますが、i8というクルマは、それでもスポーツカーを楽しみたい、つまり日常の中でドライビングプレジャーを味わいたいという人のためのクルマです。ですから、レーストラックではなく、例えばワインディングを気持よく走りたい時に、i8は最高の性能を発揮します。パワーをフルに発揮し、ワクワクしながら走ることが出来るのです。レーストラックで最高のパフォーマンスを出せるモデル、それはもう「M」しかありません。ですから、M8ではなく「i8」なのです。

《聞き手:北島友和、丹羽圭@DAYS》

《丹羽圭@DAYS》

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