【東京モーターショー13】メカニカルな精神宿す…スバル チーフ エグゼクティブ デザイナー 難波治 × エンリコ・フミア

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スバル チーフ エグゼクティグ デザイナー 難波治氏(左)とエンリコ・フミア氏(右)
スバル チーフ エグゼクティグ デザイナー 難波治氏(左)とエンリコ・フミア氏(右) 全 40 枚 拡大写真

スバルは11月23日から12月1日まで開催された東京モーターショー13で新型スポーツツアラー『レヴォーグ』を世界初公開した。

壇上中央に据えられた同車は、20分に1回の躍動感溢れる演出で観客を惹きつける。さらに、プラグインハイブリッドの次世代クロスオーバー『ヴィジヴエボリューションコンセプト』や『クロススポーツデザインコンセプト』、『クロスオーバー7コンセプト』も出展し、SUVの新たなるラインアップも提案した。

スタイリングには技術的要素や機能性を反映しているという各モデル。ブランドイメージを確立すべくどのような手法やモチーフを採用したのか。デザイン部 チーフ エグゼクティグ デザイナーの難波治氏にイタリア人デザイナー エンリコ・フミアが聞いた。

技術をスタイリングで表現する

フミア:スバルというのは、他の日本車ブランドとは少し違う印象がありますね。

難波:技術的な個性が目立っているブランドがスバルです。水平対向エンジン、それにAWDですね。デザイナーとしては、こうした技術的特徴を魅力的な造形で表現する必要があります。

フミア:形ではなくメカニズムにブランドの核がある、ということでしょうか。

難波:スバルから技術的な特徴がなくなったら、ブランドの存在意義がなくなってしまいます。だから特徴を財産と考え、スタイリングでも有効に表現しなければなりません。それから大事にしているのは「走る、曲がる、止まる」がわかるスタイリングにするということです。

フミア:スタイリングを通してメカニズムの魅力を伝える、ということですね。それは素晴らしい。それにクルマの基本機能を表現したいという考えにも共感します。

難波:移動手段として安心感を与えるものでなければいけません。それに奇妙な形だったりスタンス(プロポーション)が悪かったりすると、違和感が残る。だから停まっているときでも、動いている姿が感じられるようなスタイリングを目標にしています。

フミア:具体的にどのような手法でブランドを表現しているのでしょうか?

難波:順を追って話しましょう。私は2008年からスバルデザインを指揮していますが、着任して最初に思ったことがあります。それは「面白い商品はあるけれども、全体的なブランドの姿が見えない」ということでした。

フミア:車種それぞれに魅力があっても、それがスバルというブランドのイメージ向上に結びついていなかった、と。

難波:そのころグローバル市場でのスバルのシェアは約2%。つまり目の前を100台のクルマが通り過ぎるうち、スバルはたった2台ということになります。そのときにスバル車を知っている人ならば「レガシィだ」「インプレッサだ」となりますが、そうでない人はどのメーカーかすらわからない。これを「あっ、スバルだ」と言ってもらえるようにしなくてはダメだと考えたんです。

グリル形状から生み出されるボディ造形

フミア:車種名よりもブランド名のほうが重要ですから、それは正しい判断ですね。

難波:そこでまず取り組んだのが、フロントエンドとリアエンドのイメージを共通化して、ファミリーを構成することです。フロントには六角形の「ヘキサゴン・グリル」を採用しました。ただしボディ表面に六角形のグリルが貼り付いただけで「これがスバルのアイデンティティです」と言うのでは意味がありません。この六角形から始まってリアまで続くボディ造形の全体を、スバル車の基本スタイリングにしようと決めました。

フミア:航空機をモチーフに採用するアイデアはなかったのでしょうか。スバル以外では三菱とサーブだけが使えるモチーフで、貴重なものだと思うのですが。

難波:たしかにスバルのルーツは中島飛行機ですし、ものづくりの姿勢はそのころから変わっていません。しかしそれを形で表現することはしていません。ヘキサゴンを選んだ理由は、世界中にもっとも浸透しているスバルのイメージだと感じたからです。それから、これは偶然だったのですが「すばる」は六連星ですから、ブランド名とブランド固有の造形を6という数字で関連づけることができるのです。

フミア:これは公にしていいと言われていることなのですが、実は先代レガシィの六角形グリルを含むフロントエンドは、かつて私がスバルに提案したアイデアなんですよ。

難波:そうだったのですか! そのころはスバルにいなかったので、知りませんでした。新たな要素を外から持ち込むのではなく、歴代車種に備わっている要素を発展させようとした結果がヘキサゴン・グリルなのです。

日本から世界に発信するデザイン

フミア:それでヘキサゴン・グリルをスバルの象徴と決めたわけですね。

難波:はい。そしてこれをアピールするために『ハイブリッドツアラー・コンセプト』(2009年)を公開しました。このコンセプトカーでもうひとつ、「日本発」という要素も表現しています。メイド・イン・ジャパンというよりは「日本から発信する」という意図を持っていました。

フミア:日本のブランドとして主張するとなると、どこかしらに「日本らしさ」を表現する必要があるのでは?

難波:「日本らしさ」といっても固有のパターン(模様)や紋章だとか、畳だとか…そういう即物的なものではなくて、日本という観念を表現したかった。それでデザイナーには「可能なかぎり不要なモチーフを消せ。本当に必要なものだけ残すように」と指示を出しました。その研ぎ澄まされた姿こそ日本の表現である、としてスタイリングに反映させています。

フミア:いわゆる「引き算の美学」ですね。

難波:それに「研ぎ澄ます」というのはスバルのエンジニアの心でもあるので、スバルの技術も表現できると考えました。徹底的に研ぎ澄ますのがスバルなのだ、ということです。

フミア:いいですね。その考え方は貫き通すべきです。さまざまな規制や制約は常に存在するものですが、他にない日本発のデザインを作るには、それをどう乗り越えて行くかを考えることが重要。それにはいま話に出たような、根底にある意識を皆で共有することが不可欠です。

機能と見た目の両立が必要

難波:今年は『ヴィジヴ(VIZIV)』というコンセプトカーを公開しましたが、これはスバルのアイデンティティだけで構成するという気概で造形しました。ヘキサゴン・グリルと、前後ランプに『』(鉤括弧)形を使うという、スバル共通の要素を素直に表現したものです。「これがスバルの造形です」というのを発信したかったのですよ。

フミア:ヴィジヴがオブジェのようなたたずまいなのは、そういう理由からだったのですね。全体がクリーンでよくまとまっていて、ディテールも個性がある。過剰なスタイリングが世に溢れる中で、メッセージがはっきりと伝わってきます。

難波:私たちは常に「機能をスタイリングで表現する」ということを考えています。だから「見た目だけのためのスタイリング」はしない。いかにしてスバル特有の機能を美しく表現するか。技術とスタイリングを一体化したデザインで、ブランドを打ち出していこうとしているのです。

フミア:デザインとは、見た目のかっこよさだけではありませんからね。

難波:たとえばアイサイトが好評だからといって、それだけを強調したスタイリングにするということはしません。他にも安全のための考え方がいろいろ盛り込まれていますから。それらをスタイリッシュさと両立させたい。

フミア:まずスタイリッシュさで乗ってみたいと思わせ、乗ってみたらさらに気に入ってもらえるデザインが必要ということですね。

難波:スバルが目指しているのは「乗って楽しく、安心できるクルマ」。これは昔から変わっていません。ただしこれまでは「乗ればわかる」というものでした。これからはまずスタイリングで「いいね」と思って販売店に来てもらえる、そんなデザインにしたいと思っています。

難波治|スバル デザイン部 チーフ エグゼクティブ デザイナー
1956年生まれ。東京出身、筑波大学卒。2008年富士重工に入社し、スバル・デザイン部長に就任。2013年からはデザイン部チーフ エグゼクティブ デザイナーを務める。2011年にフルモデルチェンジした現行『インプレッサ』シリーズ以降の全新型車のほか、マイナーチェンジした『レガシィ』、『フォレスター』、『エクシーガspec.B』や『トレジア』、『ルクラ』、『ステラ』、『プレオ』などのアライアンス車も手掛けた。また、2008年東京ショー以降、国内外のモーターショーに出展されたコンセプトカーデザインも統括している。

エンリコ・フミア|カーデザイナー インダストリアルデザイナー
1948年トリノ生まれ。76年にピニンファリーナに入社し、88年には同社のデザイン開発部長に就任。91 年にフィアットに移籍してランチアのデザインセンター所長に、96 年には同社のアドバンスデザイン部長となる。99年に独立、2002年にはデザイン開発やエンジニアリングのアドバイザリーとして フミア・デザイン・アソチャーティを設立した。手掛けたモデルは、アルファロメオ『164』『スパイダー』、ランチア『イプシロン』、マセラティ『3200GT』など。

《古庄 速人》

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