【三菱 ミラージュ 600km 試乗】無理に良い物感を追求しない直球勝負のチューニングが好印象…井元康一郎

試乗記 国産車
ハローキティ40thアニバーサリーパッケージ
ハローキティ40thアニバーサリーパッケージ 全 22 枚 拡大写真

JC08モード走行時で27.2km/リットルという燃費性能を持つ三菱自動車のコンパクトカー『ミラージュ』。4月14日にデビューしたトヨタ『パッソ』の同27.6km/リットルに抜かれたものの、非ハイブリッドカーの普通車では依然としてトップランナー級の燃費性能を有している。昨年、そのミラージュにハローキティのデコレーションを施した「ハローキティ40thアニバーサリーパッケージ」なる特別仕様車が400台限定で発売された。1月末、そのハローキティ仕様でおよそ600kmのツーリングをする機会があったのでリポートする。

◆全身キティ仕様で注目度は抜群

試乗車のボディカラーはカシスパープルメタリックというピンクに近い紫。その車体のフロント、サイド、リア、ドア、燃料供給口のフタ、ホイールキャップなど、いたるところにキティちゃんやリボンがあしらわれる。

外装ばかりでなく内装もシートカバー、助手席のダッシュボード下の物置き、ルームミラーの右端、車検証のカバーなど、これまた高密度なキティちゃんぶり。トドメが車内に置かれた大ぶりなキティちゃんのクッションと小さな物入れのぬいぐるみ。装飾の一つ一つは控えめなのだが、ファンシーなボディカラーとキティちゃんの数の合わせ技で、相当目立つクルマに仕上がっていた。

実際に公道を走らせてみたところ、予想を上回る注目度だった。東京都の環状八号線で平均時速10km強という朝のラッシュに巻き込まれた時など、他車のドライバーやパッセンジャーがまずクルマを見て、次にどんな人が運転しているかコクピットをチラ見。そこに座っているのが中年のオッサンということで“うわ、何だこの人”という感じで目線を逸らすのだ。

駐車場や市街地で歩行者がよく目を落としていたのはボディ後方のCピラー下とフューエルリッド上のキティちゃん。またドライブの行程で何回も「え~可愛いですね~写真を撮ってもいいですか?」などと声をかけられた。筆者のような中年男性にとっては、クルマの中で自分が一番残念な感じになってしまうので乗るのにちょっとした勇気が必要だが、素敵な女子が乗るとすれば、可愛らしいイメージが生きるのではないかと思われた。

◆見た目はファンシーだが中身は…

このハローキティミラージュ、ハードウェアはまったくのノーマルである。試乗車のベース車両はアイドリングストップ機構「AS&G」を装備し、JC08モード燃費27.2km/リットルを達成した中間グレードの「M」。ミラージュをドライブするのは、2012年秋のデビュー直後に行われた試乗会以来だが、機構部分の大きな変更はまだ一度も行われていないという。あらためて、そのドライブフィールや使い勝手をチェックしてみた。

ミラージュの成り立ちをおさらいしておこう。ASEANや南アジアをメインマーケットとするAセグメント~セミBセグメントのコンパクトカーだが、日本、欧州などではエコカーという位置付けで販売されている。エンジンは3気筒1リットル、変速機はCVT(無段変速機)のみ。空気抵抗係数をハッチバック車としてはトップレベルのCd=0.27に引き下げ、アイドリングストップ機構「AS&G(オートストップアンドゴー)」を装備。

800kg台と軽い車重も手伝って、JC08モード走行時の燃費は27.6km/リットルと良好。欧州でもEU混合モード燃費4.0リットル/100km(25km/リットル)、CO2排出量92グラム/kmと、フォルクスワーゲン『up!』をはじめとするAセグメントのライバルを一歩リードしている。

◆意外に高い長距離ドライブ適性

デビュー当初に行われたメディア向け試乗会では、エアコンOFF時の燃費はとてもいいが、クルマとしては個性に乏しい、単なる走る道具という印象だったのだが、ロングツーリングをやってみると興味深い点がいくつもあった。

まずは長時間運転に伴う身体的ストレス。ベーシックカーとしては、ロングドライブ耐性は相当に高いほうだった。シートはクッション層が薄く、ウレタンそのものは相当に硬いという仕立てで、乗り始めたときはすぐに疲れるのではないかと思ったのだが、長時間着座してもウレタン層の潰れが少なく、シートの体圧分散も悪くないので、腰のすわりは良好だ。特筆すべきはシートバックの剛性がリッターカーや軽自動車としては異例なくらいに高かったこと。体重をドーンと預けてもびくともしないくらいで、クルマの動きをダイレクトに感じることができた。

乗り心地も結構個性的。路面からの衝撃の当たりは柔らかい方ではなく、わりと直接的ににハーシュネスを伝えてくるのだが、道路の継ぎ目や舗装の荒れなど、ピークのはっきりした衝撃はちゃんと丸められていた。いわばエアクッションのような感じではなく、固いゴムシートで衝撃をカットしているようなイメージであった。

最近の軽自動車やベーシックカーでは、ストラットアッパーマウントを柔らかく設計することで、当たりの柔らかさを演出するのが半ばトレンドとなっている。シャーシ性能に限界がある小さなボディでそのようなセッティングをすると、サスペンションへの入力が小さい時にはふわふわと快適に感じられる半面、大きめの入力になるとマウントのストロークを使い切ってしまい、とたんにバタバタとした乗り心地になってしまう。ミラージュのサスセッティングはそのトレンドとは真逆で、路面からのゴロゴロとした感触を無理してカットせず、そのぶん大入力もしっかり受け止められるように仕立てられているという印象。ちょっと前のヨーロッパ車に似た乗り味だ。

◆ボディの軽さと正統なサスチューニングでワインディングでも軽い身のこなし

ミラージュのサスペンションは前ストラット、後トーションビームという、この種のカテゴリーではコンベンショナルな構造で、コスト制約からスタビライザーも装備していない。そのぶんハンドリングには期待していなかったのだが、車両重量の軽さのお陰で、日光いろは坂などワインディングロードでの身のこなしは、これまた意外に悪くなく、安心感があった。

スタビライザーなしのクルマの場合、サスペンションのバネレートを高めてロールを抑え、クイック感を演出するという手法が取られることが多いのだが、この点についてもミラージュは真逆で、バネレートはそれほど高くなく、フロントを大きくロールさせながら巻き込むようにコーナリングさせることで安定感を演出するという、古典的だが結構正統派のセッティングであった。

次に動力性能。1リットル3気筒エンジンは69馬力とミニマムだが、車体が軽自動車なみに軽いこともあってか、市街地走行、高速巡航ともにストレスは感じなかった。むしろ市街地での発進加速のさい、加速感を演出するためにいったん2000rpm台半ばまでエンジン回転数がポーンと上がるのが少々過敏に感じられるくらいであった。ミラージュの変速機はスズキ『アルト』や日産『マーチ』などと同じ、副変速機つきのワイドレンジ型で、クルーズ時の回転数はコンパクトカーとしてはかなり低め。負荷が小さい平地での100km/h巡航のさいのエンジン回転数はおよそ1800rpmであった。

◆2回の長距離ドライブ、いずれも軽く20km/リットル超え

このミラージュで274.6km、340.4kmの2度のロングドライブを行ったが、燃費性能は全般的に良好であった。最初は東京・葛飾と神奈川の追浜までの往復+渋滞含みの都内一般道。大人2名乗車、エアコンOFF、有料道路と一般道の比率3:7で走ったところ、給油量は12.36リットル、満タン法燃費は22.21km/リットル。平均燃費計の数値は23.8kmで、7%ほどの過大表示。

2回めは東京葛飾から標高1500mに位置する栃木の日光湯元までの往復で往路は国道4号線バイパス、復路は東北自動車道というコース。冬の奥日光は、群馬へと抜ける金精道路の冬季閉鎖期間中は袋小路となるため、観光客もぐっと少なくなる。標高が高いため気温も低いのだが、その冷気のなかで露天風呂に浸かるのは実に気分がいいものだ。今回のドライブは雪まつりの会場で氷の彫刻を見るのが目的で日帰りだったが、宿泊の場合は満天の星空を眺めながらの長湯も楽しめる。

その奥日光ドライブは標高差が大きい半面渋滞は少なく、1回めのツーリングより燃費は伸び、給油量14.26リットルで満タン法燃費は23.88km/リットルとなった。この時の平均燃費計の数値は25.4km/リットルで、6.3%過大表示。燃費計の値から7%前後割り引いた数値が実燃費と考えていいだろう。

◆スタイリングは現代的だがディテールやテクスチャにもう一工夫を

長時間走行時の疲れの少なさ、軽快なハンドリング、良好な燃費などが美点として挙げられるのに対し、ユーザーが不満に思う可能性が高いと思われたのは居住空間。もともと東南アジアではファーストカーとしても使われることが多いため、大人4人がきちんとした姿勢で座れる空間は確保されているが、エンジンルームがコンパクトで全高も大きなトールワゴンタイプの軽自動車に比べると室内の前後方向のゆとりは小さく、その手のクルマに慣れたユーザーにとっては狭く感じられることだろう。また、カーゴルームもミニマムに近い。

もう一点惜しまれるのは、これも東南アジアを主体としたモデルという成り立ちから来るものだが、スタイリングが何とも地味に過ぎることだ。全体的なフォルムが悪いというわけではない。一見コロッとしたスタイリングは実は空力重視で、キャビンの四隅が強く絞りこまれている。リアホイールアーチ後方のリアバンパーのサイド部も整流効果でスパッと切り落とされるなど、現代的な要素が随所に見られる。

地味に見える要因はフォルムではなく、ヘッドランプやリアコンビネーションランプの色気のないテクスチャ、飾り気のないツルッとした一体成型のフロントバンパーなど、演出に関する部分だ。昨今の同クラスのモデルを見回すと、フィアット『500』やオペル『アダム』など、欧州Aセグメント(スーパーミニ)クラスのモデルでも見目麗しい装飾性を持たせたものが増えている。

低価格の追求はこのクラスでは不可欠なものだが、そのうえでユーザーに何らかの楽しみを持たせる演出を考えないと、車体自体が小さいだけに風景に埋没してしまう。そもそも軽自動車でもミラージュより意匠性の高いクルマが多数あるのだから、ここは頑張りどころだろう。ハローキティバージョンは、クルマによってはいかにも装飾過剰になりそうだが、ミラージュは元が地味なぶん、相当なデコレーションも許容するといった感があった。

◆直球勝負のチューニングはロングドライブで実感できる

総括すると、ミラージュは華には欠けるが基本を押さえた作りがなされた、なかなか出来の良いコンパクトカーだった。先にも述べたが、低コストモデルを無理に当たりの柔らかい乗り心地に仕立てたりしようとせず、直球勝負のチューニングを目指していることが、ことロングドライブにおいてはプラスに作用していると思われた。高速道路オンリーなら1日800km、区間にして東京~広島くらいまでなら無理なく運用できるだろう。

ミラージュを抑えて燃費トップに立ったパッソもそうだが、この種のリッターカーが販売で苦戦する大きな理由のひとつに、軽自動車との圧倒的な税額差がある。公共交通機関の少ない地方のユーザーが低コストで移動手段を持つことを可能にする軽自動車税制は今後も維持していくべきであるし、クルマの税金は奢侈(ぜいたく)税的な側面も必要なので燃費だけで決めるのも不適当なのだが、それにしても軽自動車と一般的なコンパクトカーの中間に位置するこの種のサブコンパクトカーの税金が年額2万9500円というのは高すぎる。

排気量1リットル以下、JC08モード燃費27km/リットル以上のクルマの自動車税は年額1万9500円にするなど、準軽自動車のような制度を設ければ、普通車と軽自動車のつながりはずいぶん良くなるだろうし、市場も活性化するだろう。そもそも軽自動車の税額だけが上がり、普通車の税金はそのままというのは“やらずぶったくり”的な単なる増税だったのだから、自動車業界はあらためてリッターカー減税を訴えてみたらどうかと思う。

日本自動車工業会の豊田章男会長は自動車取得税の廃止ばかりを訴えて、保有税についての提案はさっぱりなまま、今年5月に退任してしまう。次期会長であるホンダの池史彦氏に期待したいところだが、ホンダは国内向けのリッターカーを持っていないため、これまたあまり多くは望めない。2013年度は軽自動車が販売の4割を占めるなど、まさに軽全盛という状況が続いているが、リッターカーが復権を果たす時は到来するのだろうか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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