真のグローバル企業って、フォードのような会社を言うんだろうなと、『エコスポーツ』の資料を眺めながら思った。
日本で販売されるモデルに限っても、アメリカ、スペイン、タイと世界各地からやってくる。エコスポーツが作られるのはインドだ。しかも日本を含めたアジアやヨーロッパでは初登場なのに、実は2代目で、初代は南米専用車だったというトリビアもある。
そういえば今っぽいSUVスタイルなのに、存在感あるグリルや背面スペアタイヤを組み合わせた姿は、ヨーロッパともアジアとも違う。オレンジがかったマーズレッドというビビッドな色のおかげかもしれないが、なんとなく南米の香りがする。
プラットフォームは『フィエスタ』と共通なのに、1リッタトル3気筒ターボエンジンのエコブーストではなく、オーセンティックな1.5リッター自然吸気4気筒を6速デュアルクラッチ・トランスミッションと組み合わせたパワートレインも、新興国を主戦場とする立ち位置にふさわしい。
でも走らせてみれば、フィエスタや『フォーカス』の延長線上にある。エンジンもシャシーも、サラッと薄味なところはいかにもフォードだけれど、世界のどこへ持っていっても平均点以上を稼げる実力は持つ。とくにシャシーはこのクラスのベストバランスと呼びたくなるレベル。低速での乗り味はフィエスタ同様、骨っぽいけれど、速度を上げるにつれてショックをジワッと吸収してくれるようになる。コーナーはとにかく安定していて、腰高感はまったくない。
フォードは世界のカーシーンを知っている。セダンからスポーツカーまで、あらゆるジャンルに豊富な経験を持っている。だからエコスポーツは事実上初のグローバルコンパクトSUVなのに、ここまで完成度が高いのだろう。輸入車がアメリカ車かヨーロッパ車かという二者択一だった時代は、どちらにも拠点を持つフォードは個性の点で不利だったけれど、新興国が伸びてくる今後は、フォードに有利かもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性: ★★★
パワーソース: ★★★
フットワーク: ★★★★★
オススメ度: ★★★★
森口将之|モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト
1962年東京都生まれ。自動車専門誌の編集部を経て1993年に独立。雑誌、インターネット、ラジオなどで活動。ヨーロッパ車、なかでもフランス車を得意とし、カテゴリーではコンパクトカーや商用車など生活に根づいた車種を好む。趣味の乗り物である旧車の解説や試乗も多く担当する。また自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。