【土井正己のMove the World】自動車部品メーカーこそ日本車の原動力

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ミラノ・フォーリサローネに出展された自動車センサを用いたソファ
ミラノ・フォーリサローネに出展された自動車センサを用いたソファ 全 5 枚 拡大写真

トヨタや日産、ホンダなど日本ブランド車の世界での販売シェアは約3割で、これは世界第1位だ。しかし、日本の自動車サプライチェーンが、世界最強レベルであることはあまり知られていない。

自動車部品メーカーの世界ランキングでも、デンソーやアイシンは常に上位5位以内にランクインしている。こうした強力なサプライチェーンがあってこそ、日本車は世界で戦っていけるというわけだ。しかし、自動車部品メーカーにも転機が訪れている。

1980年代後半から、自動車メーカーが、どんどんと海外生産を増やしていったので、部品メーカーもそれに伴って海外に進出した。自動車メーカーは、最初は品質確保のために日系の部品メーカーから買ったが、2000年頃になるとそうでもなくなってきた。アジアなどでもローカル部品メーカーの技術が向上し、また価格も安いため、ローカル部品メーカーに切り替わっていった。日系の部品会社も負けじとコストダウンを図り、また、販路拡大を目指して、日本以外の自動車メーカーへの売り込みを強化したが、コストや納期で厳しい要求も突きつけられ「グローバル競争」の荒波に晒され続けてきたというのが、日本部品メーカーのこの10年だと思う。

◆「部品メーカーこそ、グローバル化が重要」

先日、日本の代表的自動車部品会社であるアイシン精機を訪問した。お話を伺った加藤喜昭専務役員は「部品メーカーこそ、グローバル化しなければいけない。世界の競争を勝ち抜いて、最高の部品をつくることが、自動車メーカーにとっても、クルマを買っていただくお客様にとっても喜んで頂ける唯一の手段だ」と熱弁された。

アイシン精機は、加藤専務役員が社長として赴任された北米だけでも31社の開発、生産、販売の拠点がある(世界では21か国、186社)。アイシン精機の「AISIN Group VISION 2020」(2012年発行)では、目指す姿を「かけがえのないグローバルパートナー」としている。同社は、トヨタグループの企業であるが、今では、国内外のあらゆる自動車メーカーと取引があり、世界の自動車産業の潮流は、トヨタ以上に読み取っているのではないかと思う。こうした企業が世界の競合と戦い、勝ち抜いているところに、日本の自動車の底力がある。

では、未来はどうなのであろうか。「AISIN Group VISION 2020」では、2020年までに売上を2010年比で約5割増やし、海外売上高比率を現在の3割強から5割に伸ばす計画が示されている。世界の主戦場である米国、そしてこれから本格的にモータリゼーションが勢いづく新興国での販売増が重要であることは言うまでもない。しかし、もう一つの方向として、私が注目したいのは、自動車の要素技術を応用した新技術・新規商品の開発である。

◆電動車いすベースの搭乗型移動ロボット

その一つである「電動車いすをベースとした搭乗型移動ロボット」に試乗せていただいた。感想を一言でいうとすれば「楽しい乗り物」だ。ジョイスティックで方向とスピードをコントロールでき、10km/hまで出すことができる。これは結構なスピードで、車いすの感覚ではない。

また、周辺環境を認識するセンサ・無線を搭載しており、歩行者や障害物が近づくと音を発すると共に、スピードが自動的にコントロールされる。3Dレーザ測域センサと3D距離画像カメラの2種類の環境認識センサを開発したという。基本的には、自動車のプリクラッシュセイフティーシステムの応用技術だそうだが、スピードの微妙なコントロールや段差や溝まで感知するには高い技術が必要だ。

電動車いすが、道路交通法で時速6kmに制限されているのは、人にぶつかると危ないからという。もし、ぶつかる心配がなくなれば、この程度のスピードは、認められてもいいのではないかと思う。遅かれ早かれ、ロボットが人間と共生する日がくる。介護ロボットであれ、お掃除ロボットであれ、人間と共生する限り、接触を避けるための高度なセンサとスピード(減衰)制御が必要となる。こうした技術開発は、汎用性があり、未来の社会に必要とされるものだ。この開発は、産業技術総合開発機構(NEDO)の受託研究として、アイシン精機、日本信号株式会社、オプテックス株式会社、株式会社ヴィッツ、学校法人千葉工業大学の共同研究として行われている。

「ミラノ・フォーリサローネ」にも出展

もう一つユニークなのは、本年のミラノ・フォーリサローネに出展された自動車センサを用いたソファのインテリアである。写真を見ていただければわかるが、自動車用の重量感知センサ(助手席に子供が乗車している場合、エアバッグを展開させない)が、ソファの中に組み込まれており、座った人の重力を感知して、光がついたり消えたりする。その光の演出とソファの動きがインテリア全体に変化をもたらす。人が空間アートに参加するというわけだ。

アイシン精機は、ベッドも作っているから、将来的には、このセンサをベッドにも入れて、人間の睡眠の度合を監督してくれるらしい。近い将来、浅い眠りの翌朝には、ベッドが「今日は無理をするなよ」と警告してくれるのだろう。

◆自動車要素技術の応用で未来を創造

加藤喜昭専務は、「技術というのは、人、社会、地球、未来との共生ができて、初めてお役に立てるもの。そうした技術を磨いていきたい」と述べておられた。日本の自動車部品メーカーは、競争力を高め世界での存在感をより鮮明にするだろう。そして、自動車の技術を応用し、未来社会に役立つ商品を開発していく姿こそ、日本のモノづくりの本質だと感じた。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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