【三菱 アウトランダーPHEV 長距離試乗 前編】“EVライク”な乗り心地はプレミアムSUVそのもの…井元康一郎

試乗記 国産車
三菱 アウトランダーPHEV
三菱 アウトランダーPHEV 全 12 枚 拡大写真

三菱自動車が昨年1月に市場に投入した、外部電源から車載バッテリーへの充電が可能なプラグインハイブリッドSUV『アウトランダーPHEV』に試乗する機会を得たので、市街地、高速道路、ラフロードを含む山岳路での走行フィールについてリポートする。

◆三菱ならではのプラグインハイブリッドSUV「アウトランダーPHEV」

アウトランダーPHEVは2リットルガソリンエンジン(最高出力118馬力)を発電に使用し、電気モーターで走行するシリーズハイブリッドシステムと、総容量12kWhの大型リチウムイオン電池パックを組み合わせたプラグインハイブリッドカー。フロント、リアに最高出力60kW(82馬力)を発揮する電気モーターを1基ずつ備え、電気式AWD(四輪駆動)を実現。高速道路ではエンジンを走行に使い、モーターがパワーアシストを行うパラレルハイブリッドとなる。

バッテリー電力のみでのJC08モード走行時のEV後続距離は60.2kmと、ライバルであるトヨタ『プリウスPHV』(同26.4km)、ホンダ『アコードプラグインハイブリッド』(同39.2km)に比べてバッテリーEVとしての能力が格段に大きいのが特徴だ。また、3モデルの中で唯一、急速充電用のソケットを備えており、出先での継ぎ足し充電もできる。なお、試乗した広報車両はすでに積算走行距離が3万kmを超えており、ある程度使い込んだときのフィールを体験するのに非常に適したコンディションだった。

◆静かさと快適性はまるでプレミアムSUV

2名乗車、エアコンON、バッテリー充電率95%という条件で試乗開始。首都高速道路に汐留入口から流入した。汐留入口は結構な急勾配であるうえ、高速道路への合流も追い越し車線側から短い距離で行わなければならないのだが、登坂、急加速のいずれもエンジン始動なしにバッテリーからの電力だけでこなすことができた。

前述のようにアウトランダーPHEVはピュアEV並みの大容量バッテリーを搭載しているが、バッテリーが大型であることは容量だけでなく、出力の面でも有利。アウトランダーPHEVのバッテリー出力は少なくとも60kWは超えているもようで、かなりの急加速でもピュアEV状態が保たれた。高速巡航に移行した後もエンジンがかかるシーンは一度もなく、バッテリー残量が下限になるまでピュアEVとして走ることができた。

パワートレインからのノイズはごく小さいモーター音とインバーター音だけで、基本的に静粛性は高い。難を上げるとすれば荒れた舗装道路でのうねりに対するサスペションの追従性や騒音遮断。首都高速1号線は老朽化が進んでおり、床版(高架部の路盤)は歪み、アスファルト面もザラザラ。そういう場所では車内に比較的高レベルのロードノイズが侵入し、乗り心地もしなやかさに欠けていた。

面白いことに、普通の路面になると一転、室内はとても静かになり、乗り心地もプレミアムSUVのように滑らかになる。最新の消音舗装が施された路線を走るときなど、体感的にはもはや無音と言っていいほどの快適さだった。

◆EVらしさでライバルを寄せ付けない

路面の悪いところでも速度を上げるとむしろ振動が減る傾向にあったことから、速度域によって路面からの振動とボディが共振するポイントがあるものと推察される。ボディ、シャーシの能力自体は高そうだったので、防振シートを貼ったり補強材を入れたりといった設計の小変更を施せば、荒れた舗装路での快適性も大きく向上させられるのではないかと思われた。

首都高、横浜新道を経由し、一般道に下りてすぐ、バッテリー残量がEV走行の下限に達し、ここで初めてエンジンによる発電が始まった。そこまでのEV走行距離は46.2km。自重が1.8トンを超えるSUVボディのアウトランダーPHEVは、ライバルモデルに対して電力消費率では大きく劣るのだが、そのハンディを補って余りあるだけの大型バッテリーを積むという力技がモノを言い、EVらしさという点ではライバルをまったく寄せ付けないものだった。

◆ハイブリッド運転時もEVそのままの走り

次に湘南~伊豆半島の郊外一般道。EV航続距離を使い果たした後、アウトランダーPHEVはシリーズハイブリッドとしてエンジンを適宜発電に使いながら走る。ここで非常に興味深かったのは、フルハイブリッドとしての味付けが独自性に富んでいたことだった。

フルハイブリッドカーは通常、エンジンを発電に使う場合、回転数を2000rpm台後半くらいまで上げ、ある程度負荷をかけて運転する。エンジンの熱効率が最も良いところを使い、余った電力をバッテリーに蓄えてエネルギー需要の平準化をはかることで総合効率を上げるのが“定石”となっているからだ。

それに対してアウトランダーPHEVは、走行負荷が軽い時はエンジンの電子制御スロットルを最小限に絞り、ごく低回転でエンジンを動かす。そのさいの騒音は非常に小さく、試乗時にEV航続距離残の表示がゼロとなったときに、エンジンがかかったのがわからなかったほど。ハイブリッド運転時も、感覚的にはEVそのままなのだ。三菱自動車はアウトランダーPHEVの効率を限界まで上げるのではなく、“EVライク”な乗り味を極力保つことを志向しているようだった。

◆ライバルを圧倒する理由

燃費至上主義のユーザーにとっては不満点となりそうだが、重量が大きく、空力面でも不利なSUVボディのアウトランダーをエコ志向に仕立てたところで、燃費向上の伸びしろはたかが知れている。そこを見切って、EV代わりにプラグインハイブリッドカーを買おうというユーザーに喜ばれそうな味付けをしたほうがいいのではないかという三菱自動車の読みは、アウトランダーPHEVが販売実績でライバルを圧倒し、国内でのPHEV販売トップに立っているという現実を見るかぎり、正鵠を射たものだったと言えよう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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