【土井正己のMove the World】日本の電機産業、アジアで再び1位になる日

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マレーシアの首都クアラルンプール(イメージ)
マレーシアの首都クアラルンプール(イメージ) 全 6 枚 拡大写真

前回のコラムで「このまま貿易赤字が続くようだと日本の自動車産業も危ないかもしれない」という内容を書き、多くの反響を頂いた。この議論は、いろんな機会で続けていきたいと思う。

最もよく聞かれた質問は、「電機は既にアジア新興国に負けた。自動車が新興国に負けるのも時間の問題ではないか」というものだ。しかし、そもそも「電機が新興国に負けた」と考えるのは早計だ。一時的に市場を奪われているに過ぎない。今回は、アジア新興国経済と日本の製造業について考えてみたい。

◆アジア経済、「雁行型」から「フラット型」へ

私がトヨタに入ったころ(約30年前)は、アジア経済は「雁行型経済」と学んだ(渡辺利夫著「アジア中進国の挑戦」<1979年>参照)。すなわち、雁が群れをなして飛ぶように日本が先頭、その後に、韓国・台湾・シンガポール・香港が続き、それ以外のアセアンの国々がさらにその後に続くという形態である。また、自動車も「アジア・カー」として、インドネシアやタイ、フィリピンなどで市場に合わせたクルマをつくった。人やモノの輸送に優れ、悪路でも壊れにくい、しかもコストを押さえたクルマだった。

しかし、今日のアジアの主力車種というとどうだろう。デザイン重視で、環境性能に優れ、内装も豪華にできている。「日本向けのクルマといったいどこが違うのだろう」と問うてみたくなる。また、最近はジャカルタやクアラルンプールを歩いていても、街行く人のファッションは、日本人のそれとほとんど変わらず、日本人を見分けることは至難の業である。すなわち、アジア経済は、明らかに「フラット化」している。

◆アジア新興国、「キャッチ・アップ」は早くて当然

クルマのつくり方も「フラット化」しており、トヨタでは、2004年から「IMVシリーズ」を市場導入している。このIMVというのは、「Innovative International Multipurpose Vehicle」の略で、 インドネシアでガソリン・エンジン、タイでディーゼル・エンジン、フィリピンやインドでトランスミッションというように、アジア域内で部品を水平分業(国の技術レベルに関係なく分業をすること)で製作し、相互補完をしながら自国に合ったクルマを製造するという壮大なプロジェクトだ。これをジャスト・イン・タイムでオペレーションするわけだから、高度な物流システムやIT技術が揃っていなければ実現できなかったであろう。

アジアにおける技術力の向上、人材の成長のスピードは、日本のそれを大きく上回っている。また、そのスピードに「技術移転」等で拍車をかけているのも日本企業である。こうした傾向は、自動車だけでなく、家電や機械産業においても当然起こっていたことから、急速に「キャッチ・アップ」されることは当然と言える。このアジア新興国の技術力・企業力の日本に対する「キャッチ・アップ」が「フラット化」の第一の側面である。

◆「競争力」、本当の勝負はこれから

冒頭に「電機が新興国に負けた」いうのは早計だと述べたが、それは、「本当の勝負はこれからだ」ということだ。これまでアジア新興国は、製造業競争では人件費や土地代の安さから当然有利であった。また、日本の企業も生産コストの安いアジアや中国に生産拠点を移すことで利益を確保することができた。しかし、これからは、そうは行かない。これらの地域では、人件費は急激に上昇しているし、賃金アップをしないとストライキも起きる。

これらの「カントリーリスク・コスト」を考えれば、日本での製造コスト(IT化・ロボット化・3Dプリンター化などによりさらなるコスト低減が可能)も競争が可能なレベルまで十分に来ている。「製造コストの均一性」、これがアジア経済における「フラット化」の第2の側面である。

◆拡大マーケットは日本ブランドに有利

そして、アジア経済における「フラット化」の第3の側面は、「マーケットの急激な拡大と類似性」である。これまで述べた通り、アジア各国の所得レベルは急激に上昇しており、マーケットでは、かなり類似したファッションセンス、すなわち統一的な流行の価値観を持っている。そして、「日本ブランド」は、その統一的な流行をリードできるポジションにあるといってもいいだろう。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでが勝負で、この「日本のソフトパワー」を発揮しなければならない。

◆日本の電機産業が再び世界をリードする日

この30年、アジア新興国は技術レベル・企業力を急激に向上させ、電機をはじめとする日本の得意産業から、大きくマーケットシェアを奪った。しかし、アジア各国での人件費の高騰により、これからが、「真の国際競争力」勝負となる。ITやロボット技術による「生産革新」と「プロダクト革新」が、国際競争力の決めてとなる。

そして、「フラット化」するアジア経済においては、アジア企業との「競争と協調」が当然重要となろう。さらには、勝負をする舞台(マーケット)は急激に拡大しており、「日本のソフトパワー」は有利なポジションにある、というのが私の見方である。今期の決算で少し元気を取り戻した電機産業。再び世界をリードする時が来ることを信じたい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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