Apple Watchなどヘルスケア端末普及の背景にある、アメリカの健康保険事情

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木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有。
木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有。 全 6 枚 拡大写真

 米アップルは9日(現地時間)、4.7インチディスプレイの「iPhone 6」および5.5インチディスプレイの「iPhone 6 Plus」を発表した。

 残念ながら筆者は現地のイベントに参加することができず、Webを通じた発表会の映像や、報道内容、公表資料等を見た上での評価ではあるが、今回の新iPhoneはスマホとしての正統な進化に留まり、あまり目新しさを感じることができなかった。一方で、デザイン上の賛否はあるが、アップル初のウェアラブル端末「Apple Watch」の普及には期待を寄せている。

■Androidスマホと同じ進化の道を辿るのか?

 ディスプレイサイズが2種類になり、端末も大型化したというのは流出情報どおり、NFCが搭載されたほかは特に画期的な新機能も見られず、他のAndroidスマートフォンが多様なバリエーションから選べる昨今において、iPhoneにこだわる必然性がますます薄くなってきたような気がする。

 前回のコラムで新iPhoneを予想する記事を書かせていただいたが、国内通信キャリアに対するネットワークへの対応は想定通りだった。2.5GHz帯TD-LTEに対応したことはauおよびソフトバンクにとっては朗報だろう。その一方で、NTTドコモやauが採用する1.5GHz帯LTEには今回の新iPhoneでも対応しなかった。NTTドコモにとっては、従来のiPhone 5s/5cから対応周波数は増えていないことになる。

 一方、筆者の予想記事では、VoLTEやキャリアアグリゲーション(CA)の対応は見送りではないかとしていたが、これは期待を裏切られ、両方とも採用されることになった。日本のキャリアが今後順次導入していく両機能を活用できるということでは、新端末を2年先まで使うとした場合に対応周波数帯やLTEを活かすこれらの機能に関し不満無く活用できるであろう。

 モバイルサービスは、ネットワークと端末が歩調を合わせて進化させて行く必要がある。ネットワークだけ進化しても端末が対応していなければ、満足いくサービスを利用できない。同様に端末だけ進化しすぎても、ネットワーク側がついて行けなければ機能を十分に活用できない。そういう意味で、新iPhoneは先進国各国のネットワークの進化にしっかり順応させるためのモデルチェンジを果たしたといえる。

 前回のコラムにも書いたが、ディスプレイサイズの4インチから4.7インチへの拡張は、スマホの一般的な進化に足並みを揃えてしまっただけで、アップルがこれまで一貫して貫いてきた「手に馴染むサイズ」へのこだわりがここで立ち消えることになってしまった。せめて、4インチクラスの新iPhoneもラインアップに残して欲しかった(iPhone 5s/5cが継続販売されることになろうが、端末デザインやネットワークへの対応などは新iPhoneに準じたモデルに期待していた)。

 世界の中でも、日本はiPhoneの販売比率が突出して高い国である。初期のiPhoneは、機能も操作もシンプルで、分厚いマニュアルが無くとも、簡単に操作ができるといううことで、従来のガラケーからスマホとしてのiPhoneへの乗り換えに大きな貢献を果たしてきた。しかしながら、iPhone(というよりもiOS自体)が多機能化し、色々なことができるようになった一方で、操作が難しくなってきた面も否めない。

 すでにiPhoneを利用してきたユーザーは、Androidスマホへ移行するのも苦にならないであろうし、一方、まだガラケーを使っているユーザーに対しては「iPhoneなら簡単だし、安心」という勧め方がもはやできなくなりつつある。iPhoneにこだわる必然性が薄れてきたように感じる。それでも、日本市場においては、通信キャリアに課せられた販売ノルマ達成のために、引き続きiPhoneは大きな販売シェアを誇ることになるのであろうが。

■Apple Watchのヒットがウェアラブル端末の一般化に貢献する

 今回、新iPhoneの発表に合わせ、アップルは腕時計型ウェアラブル端末「Apple Watch」を発表した。アップルがウェアラブル端末を出すことに対する期待は大きく、ユーザーが勝手に描いたApple Watch(「iWatch」と命名されるのではと期待されていたが)のイメージイラストがネット上に溢れていた。アップルだからこそSFチックな、近未来の「腕時計」像を想像したものが多かったが、そうした期待を裏切って、わりと普通なガジェトとして登場したApple Watchには少々拍子抜けしたが、今後もデザインのバリューは増えて行くであろうから、今回発表されたApple Watchのデザインが良い悪いといった評価はあえてしない。すでに腕時計型ウェアラブル端末はサムスンなどからも発売されているが、ファッション性で一歩抜きん出るアップルならではのウェアラブル端末に発展して行くこと期待したいものだ。今後は時計メーカーやファッションブランドとのコラボもありだろう。

 何よりも、iPhoneと連携して使えるデバイスであり、アップルの販売力も加われば、それなりの台数が世界に出荷されて行くのだろう。もしかしたら、アップルが発売するこのApple Watchの普及によって、「ウェアラブル端末」に対する消費者の考え方を大きく変えていくことになるのかもしれない。

 ウェアラブル端末の機能としては、スマートフォンに届くメールやメッセージの着信通知機能がどうしても前面に出てきてしまうが、最も重要なことは、ケータイやスマートフォン以上に、「常に身体に密着したデバイス」であるということ。この特性を活かして、近年のウェアラブルデバイスの大半が「ヘルスケア機能」を搭載し、それによってユーザーの活動量や心拍などの生体情報などを収集することで健康管理に役立てられるようにしている。

 国民皆保険制度を導入している若が国では、自分自身の健康管理が他国に比べると医者任せというケースが多いが、健康保険制度への加入が義務づけられていないアメリカなどでは、健康は自分自身で管理する必要性があり、自身の健康管理には比較的関心が高い。であるからこそ、こうした健康管理グッズが一定の人気を博すのである。

 ウェアラブル端末を利用することによって、より正確に、そして分かりやすい形で自身の健康管理情報をスマホ上で確認できる。アップルが本気でこうしたウェアラブル端末に取り組むことで、「常時身体に密着させるデバイス」を使用し健康管理するということが近い将来“当たり前”のことになってしまうのではなかろうか。アップルはかつて、マウスやGUIを導入することでコンピュータの概念を大きく変えた。さらにiTunesとiPodによって音楽視聴のスタイルも一変させた。iPhoneの登場により携帯電話の概念も変えた。iPhoneの進化こそ、ここで一段落してしまった感があるが、今回のAplle Watchの発表は、もしかしたらアップルが「時計」そのものを変え、ウェアラブル端末の世界的な普及に大きく貢献することになるのではないか。ただし時計の概念を変えるためには一筋縄では行かない。身につけるものだからこそ、消費者のこだわりは大きい。アップルなら「ガジェット」の領域を超えた製品へ発展させてくれるのではないか。

 「わざわざ充電をしてまで利用する価値があるのか」と言われてきたウェアラブル端末であるが、Apple Watchによって「腕時計はスマホと連動させるのが当たり前」ということをユーザーに認知にさせ、さらに「その腕時計を通じてユーザーの生体情報を収集し、それによってユーザーひとり一人の健康向上に寄与するデバイス」として広く社会に定着させられれば、改めてアップルは「人類に役立つ素晴らしい製品を送り出した企業」として、新たに世界の歴史に名前を残すことになるのだろう。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第59回 iPhone 6は想定範囲内、Apple Watchの未来に期待

《木暮祐一@RBB TODAY》

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