【インタビュー】自動車メーカーが“公共交通の利用促進”実験をおこなう真意…トヨタ自動車 友山茂樹常務役員

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トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹
トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹 全 24 枚 拡大写真

トヨタがフランス・グルノーブルで10月より本格スタートする超小型EVシェアリング実証実験「シテ・リブ by Ha:mo」。『COM』および『i-ROAD』をそれぞれ35台、計70台を運用してモーダルシフト(輸送手段転換)を支援し、都市内の交通円滑化を目指すものだ。実験の期間は3年を予定している。

実験の開始に先立ち、12日に同市でおこなわれた記者会見を取材。今回の実験の狙いと、トヨタが考える将来の超小型モビリティの現実性そしてビジネス展望について、本プロジェクトの担当役員である友山茂樹常務役員と、システム面を統括したIT・ITS企画部スマートコミュニティ室長の原年幸氏に話を聞いた。

◆縁もゆかりもあるグルノーブルとトヨタ

----:今回のグルノーブルで実施する実験の狙いについて、まずお聞かせください。

友山:ここでの実験は、i-ROAD・COMSともに35台を運用し、充電ステーションは27箇所設置し、そして3年という期間を持つ世界でも最も大規模なもの。実験期間を通じて、システムや車両そのものも進化させ、最終的には自動車ビジネスの新しいカタチ、また社会における自動車の新しいあり方を創出することに結びつけることが第一の目的です。

----:グルノーブルを選んだ理由は。

友山:まず、グルノーブル市は都市の環境問題・交通問題に対してかねてから積極的に取り組んでおり、トラムや自転車シェアリング/カーシェアリングなど、新しい交通システムの導入に意欲的だったことがあります。また、トヨタはクルマと人・コミュニティと結ぶ新しいモビリティ(i-ROAD)を開発して、実証できる場を求めていたところ、今回の実証実験に繋がる両社の話し合いがスタートしました。トヨタとグルノーブルとのニーズが合致したということがあります。もともとトヨタは次世代環境車の社会適用について、ここグルノーブルでリサーチを進めていた経緯もあり、両者は深い信頼関係を結んでいたのです。

----:プロジェクトがスタートしたのはいつ頃ですか。

友山:2011年に内山田会長(当時副会長)と私とで、公式にこういうこと(超小型EVを使ったシェアリング実験)をやるための検討をスタートさせました。それからほぼ丸3年かかりましたね。当時、i-ROADはまだ設計段階でしたが。以来、TMEパリ事務所所長の後藤重文さんが関係各所へのコネクションを構築してくれて、実験開始にこぎ着けることができました。

----:日本でも豊田市でi-ROADを活用したHa:moの実証実験がおこなわれましたが、日本での知見はどのように活かされているのでしょうか。

友山:豊田市で実施したHa:moのシステムはほとんどトヨタ自動車でつくりました。今回は、それをベースに、汎用性を持たせ、公共交通機関や充電インフラのシステムと連携させる仕組みを構築しました。

----:ステーションの配置はどのように決めたのでしょうか。

原:まず当社が豊田市での実験をもとに案を作成し、地元でカーシェアをやっていらっしゃるシテリブのノウハウも踏まえながら両社で候補を決め、あと充電インフラを管理するSodetrelの制約を組み合わせて決めました。

◆コミュニケーションに意を尽くす

----:開発に際してもっとも苦労した点は。

原:システムのつなぎ込みですね。シテ・リブの顧客情報、ソデトレ(Sodetrel:フランス電力公社の子会社で充電インフラ整備をおこなう)の充電ステーションからの満空・充電情報、ステーション・モバイルからの情報とも連携せねばならず、統合的にテストをしていくこともなかなか大変でした。そこで、ステアリングコミッティという定期ミーティングを2か月に1度開催し、部長クラスでプロジェクトの進捗確認と意思決定をしていました。もちろん、現場レベルではもっと細かく打ち合わせを頻繁におこなっていましたが。

友山:ここまで大規模な実験をグルノーブルでやる意味があるのか、というのは社内でも議論があったことは確かです。とはいってもグルノーブルでシェアリングで走らせたいというトヨタ内外の関係者の思いも強く、私が担当役員として社内のパーミッションをとりました。

----:トヨタ社内でも揺れていたというグルノーブルの社会実験ですが、ここからいかに成果を出していくかが重要になりますね。

友山:スタートにこぎ着けたからには3年間の中できちっと欧州に根付くオペレーションやビジネスモデルを構築したい。そのためにも行政のサポートは重要なので、地元の行政や企業としっかり連携していかねばらないと思います。

◆“公共交通機関の利用を促進する”の向こう側にあるもの

----:豊田市での実験に引き続いてのグルノーブルの実験を見ますと、単に「超小型モビリティを売る」というメーカーとしてのビジネスにとどまらない、自動車のビジネスを持続可能なものとしてさらには拡張していくという意図が見受けられます。

友山:Ha:moの大きな特徴は、公共交通機関と連携している点です。従来のカーシェアリングはレンタカーの延長でしたが、Ha:moは“交通機関の利用を促進するためのシェアリング”です。交通機関を降りてから最終目的地にたどり着くまでの案内をする際に、ルート候補を出すと、多様な交通手段の選択肢のひとつにHa:mo(i-ROAD)が入ってくる。従ってHa:moのステーションの設置箇所は一様ではなく、商用地域でだったり役所であったり、あるいは職場近くにもステーションが置かれています。公共交通機関のICカードを持っていればHa:moが使え、さらに定期券を持っていれば割安で使える。物理的にも情報的にも連動していくという、いわゆるモーダルシフト(輸送転換)的な施策を念頭に置いています。

----:自動車メーカーが「公共交通機関の利用を促進する」というと、自社のビジネスに不利になるのでは、という意見はでませんか。

友山:Ha:moのような取り組みをやっていると「クルマが売れなくなるんじゃないか」という人もいるのですが、それは全く違います。街にクルマが溢れたら、目的地にたどり着くまでに時間がかかってしまいます。利便性が失われるだけでなく、交通や環境の問題が引き起こされる。そうなるとクルマの商品価値は失われ、結果的に街から自動車が締め出されることに繋がりかねません。われわれが目指している超小型EVシェアリングサービスは、公共交通機関とハーモを組み合わせた利用を促進していくことで、クルマの価値を上げていくことに繋がると考えています。

また一方で、ラストワンマイルは(超小型EVではなく)自転車やオートバイでもいいじゃないかという話もあります。この異論については、高齢者を含むユーザーが快適かつ安全に移動でき、なおかつ環境に優しいモビリティであるということを考えると、超小型EVのニーズが高まるだろうと思います。

◆サポート体制にも万全期す

----:3年という長期に渡る実験期間、さらに超小型EV70台という大規模な運用を考えると、車体やバッテリーの経年劣化や、万が一のトラブルや事故時の対応が気になりますが。

友山:耐久試験など、安全の保証については徹底的にやっている。3年間は十分に持たせられる信頼性と耐久性はある。ただ、機械でもあるし人が運転するものである以上、何が起こるかは分からない。万が一に備えて、十分な部品のサポート体制と車両ケアは責任分担をきちんと決めて対応していきます。

原:日常の点検や整備などはシテリブに対応していただき、何か月かおきの点検や消耗品の交換などは、地元のレクサスディーラーにご協力をいただいてディーラーのメカニックが作業します。現在、ディーラーのトレーニングも実際におこなっているところです。

----:地元ジャーナリストの試乗会で試乗された人に話を聞いたところ、「トヨタに先進的なイメージを植え付けてくれる斬新な乗り物で、女性や若い人に受けるのではないか」と語っていました。

原:ぜひとも若い方にも乗ってもらい、将来のトヨタファンになっていただきたいと思っている。ただ、やはり自動車ともバイクとも違う乗り物であることも確かなので、コミュニケーションなりトレーニングをしっかりやって慣れていただいたうえで走ってもらいたいですね。また、グルノーブルは学生が非常に多い街です。サービスの改善や提案など、われわれの側に発って意見をいただけるようなアンバサダーマーケティング的な効果も期待しているところです。

◆グルノーブル、そして東京へ

----:最後に、この実験を足がかりにした超小型モビリティのビジネス展望をお聞かせください。

友山:この実験は、「クルマを作って売るだけのビジネス」から、「クルマそのものをインターネットの接点にしてビジネスを構築する」ための大きな布石です。その第一歩がフランス・グルノーブルでローンチできるのは嬉しいこと。フランスは自転車や自動車も含めてシェアリング最先端国ですし、先進的な環境・交通システムも相当昔から取り組んでいて、伝統的なデザインや都市と見事に溶け込ませています。この実験を通じて、われわれのシステムやサービスを昇華させて、ぜひとも成功させたいですね。

----:グルノーブルの次には2020年の東京オリンピックも視野に入れているのでしょうか。

原:豊田市での実験で最初にシステムやサービスの型を作り、そしてより大規模なグルノーブルで事業としてモノにしていくノウハウを得る、というのはセットの考え方でした。そこでオリンピック開催が決まった2020年の東京に向けての施策は、私の頭の中にはありますね。まだ具体的には何も決まってはいませんが。

友山:グローバル化が進むなかで日本の存在意義が問われる時期に来ています。東京オリンピックで日本の交通システムがどれだけ進んでいるかを見せることは、そして自動車ビジネスをよりグローバルなものにしていくためには超小型モビリティの存在は重要な鍵になります。いま日本では超小型モビリティを大規模に走らせるには法整備がまだ整っていませんが、これからそれは解決されていくでしょう。Lカテゴリーなど法整備の整った欧州で成功事例を作り、一定の評価を得ることがこのシステムなりビジネスを成功させるための布石だと考えています。

《北島友和》

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