【山崎元裕の “B”の哲学】顧客の夢を実現する…ベントレーのクラフトマンシップ

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ベントレーのクラフトマンシップ(写真はミュルザンヌ)
ベントレーのクラフトマンシップ(写真はミュルザンヌ) 全 40 枚 拡大写真

英国クルーに集約されたベントレーのクラフトマンシップ

イングランドのチェシャー州クルー。ここにベントレーは、本社とともに最新の生産施設を置いている。一般的には「クルー工場」と呼ばれるこの施設は、1938年にロールス・ロイスが、当時の200万ポンドという資金を投じて開設したもので、第二次世界大戦以前は軍需用航空機エンジンの生産が行われていた。ロールス・ロイス&ベントレーの自動車生産用工場となったのは、戦後の話である。

クルー工場からは、それからさまざまなモデルが誕生していったが、ベントレーとロールス・ロイスは、その後さまざまな紆余曲折を経て、それぞれVWグループ、BMWグループへと再編。ロールス・ロイスがグッドウッドへと移転したことで、クルー工場は完全にベントレーの生産施設となったのだ。

ベントレーのエンブレムを掲げるモデルは、もちろんそのすべてが、このクルー工場で生産されている。正確にはコンチネンタルとフライングスパーの両シリーズは、パワーユニットなどを、アウディがハンガリーのジュールに持つ工場で生産した後、最終的なアッセンブリーをクルーで行うシステムとなっている。一方『ミュルザンヌ』は、生産工程のすべてが、そしてまた開発も白紙の段階からすべてクルーで行われたこともあり、ベントレーはミュルザンヌに対して「オール・クルー」を称し、それに特別な誇りを抱く。

ベントレーのクルー工場は、約65エーカーという敷地内に、アッセンブリーラインを始め、ボディーやパワーユニット、そしてこれも世界最高級のクオリティを誇る、レザーやウッドパーツを製作するための専用ショップなど、すべての生産機能が集約されている。2013年には8億ポンドを投資し、さらなる近代化とともに新たな雇用も生み出すプランを発表したが、先日さらにその予算には4000万ポンドが追加されるというニュースも届いた。

◆カスタマーの夢を忠実に再現する

クラフトマンシップ。ベントレーの車作りにおいて、これほどに重要な意味を持つキーワードはないだろう。ニューモデルをオーダーするために、あるいはすでにオーダー済みである自分の愛車が生み出されるプロセスを見学するために、ベントレーの本社には毎日のようにカスタマーが世界各国から足を運ぶが、彼らをまず出迎えるのは「リニアージ」と呼ばれるゲストルーム。ここはミュージアムも兼ねた場所で、ベントレーの伝統を改めて振り返ることができるほか、細かい仕様も含めたオーダーも行うことができる。

とかくクラフトマンシップというと、その象徴的な存在として語られるのは、最高品質のレザーやウッドを用いて、熟練した職人が仕上げるインテリア、ということになるのだろうが、ベントレーのクラフトマンシップは、もちろんそれ以外の部分にも共通している。ミュルザンヌの生産工程では、まさにそれを裏づける、さまざまなクラフトマンシップを目にすることが可能だ。

アルミニウムとスチールによるハイブリッド構造を持つミュルザンヌのボディーは、異なる金属を溶接する関係から、その製作には特別なテクニックが必要になる。生産効率と品質の均等化を考えるのならば、ここは近代的なロボットによる溶接がベストな選択となるはずだが、ミュルザンヌのボディー製作はすべてがハンドメイド。もちろん品質はロボットの仕事に一切劣らない。6.75リットルという伝統の排気量を継承する、V型8気筒エンジンの製作もまた同様だ。

ウッドショップやレザーショップでは、より直感的にベントレーのクラフトマンシップを知ることができる。ミュルザンヌの場合、標準的な仕様でも、インテリアの製作に費やされる時間は170時間以上。どれだけ世界中の市場から多くのオーダーを集めても、年間の生産台数にはおのずと限界が生まれる。納車までの時間も、あるいはベントレーのような超高級車の場合には、カスタマーにとってはひとつの楽しみといえるのだろう。

クルー工場にはさらに、「マリナー」と呼ばれるデザインショップも存在している。マリナーの名が、かつてベントレーのために魅力的なボディーを製作したコーチビルダーに由来していることは、歴史に詳しいエンスージアストには周知のとおり。ここではカスタマーからの、さらに細かいスペシャルオーダーを受けると同時に、専属のエンジニアやデザイナーとともに、特別な中にも特別なベントレーを生み出すという、至福の喜びも提供される。2012年にエリザベス女王陛下の即位60周年を記念して60台が限定生産された、『ミュルザンヌ・ダイアモンド・ジュビリー・エディション』など、特別仕様車の企画や製作も、このマリナーの重要な仕事。

これらがファッションにおけるプレタポルテであるとするのならば、カスタマーとともに白紙の状態から夢を描き、それを現実のものとするのは、オートクチュールの世界そのもの。ベントレーのクラフトマンシップは、常にカスタマーの夢を、忠実に実現するためにあるのだ。

山崎元裕|モーター・ジャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会会員)
1963年新潟市生まれ、青山学院大学理工学部機械工学科卒業。少年期にスーパーカーブームの洗礼を受け、大学で機械工学を学ぶことを決意。自動車雑誌編集部を経て、モーター・ジャーナリストとして独立する。現在でも、最も熱くなれるのは、スーパーカー&プレミアムカーの世界。それらのニューモデルが誕生するモーターショーという場所は、必ず自分自身で取材したいという徹底したポリシーを持つ。

《山崎 元裕》

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