【インタビュー】ロールスロイスのビスポークができるまで…ビスポーク責任者

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ロールス・ロイス・モーター・カーズ ビスポーク・デザイン 責任者のラース・クラヴィターさん
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ロールスロイスの特注プログラム“ビスポーク”。自分の個性が反映される独自のロールスロイスを作ることができるプログラムだ。その責任者に、ロールスロイス社におけるビスポークの位置づけなどを聞いた。

ロールス・ロイス・モーター・カーズ ビスポーク・デザイン 責任者のラース・クラヴィター氏は、4年ほど前から現職に就いている。

◆成功者の夢を形にするビスポーク

----:『ゴースト』の例を挙げると、世界では82%、日本においては100%のユーザーがビスポークをオーダーしていると聞きます。そのビスポークの責任者であるあなたの具体的なお仕事はどのようなものなのでしょう。

クラヴィター氏:役職としてはヘッドオブビスポーク、つまりビスポークの責任者です。ビスポーク部門には、70名ほどの担当者がいるので、私がそこのトップになるわけです。

ビスポーク部門は、会社の中の会社のようなイメージで、独自の設計者やエンジニア、生産担当者などの人員がいます。従って、私はお客様の観点からビスポークを見るのと同時に、エンジニアや生産などのサイドの責任も担っているわけです。

----:ビスポークはロールスロイスの核心部だといわれるほどですから、責任重大なポジションですね。

クラヴィター氏:自分自身のことなので、はいそうですとはいいにくいですが(笑)、ビスポークというのは会社にとって大変重要な部門です。

ロールスロイスのお客様は、皆さん成功者なので、単に完璧なラグジュアリーカー、高級車を求めているだけではなく、更にそこから、自分へのご褒美として、自分のためにカスタマイズされたクルマが欲しいとビスポークを注文されます。従って、例えばレストランに行ったときに、自分のクルマのすぐ隣に、同じクルマがあるというのは絶対に嫌なことなのです。ビスポークの素晴らしいところは、ひとつとして同じものがないということです。だからビスポーク、特注なのです。

私がやり取りをさせてもらっているお客様は、非常に興味深い、面白いバックグラウンドを持った方ばかりです。そういう方たちとやり取りをするということは、私にとっては光栄なことだし、その大成功者たちの夢を実現するお手伝いができるというのは、私にとって満足度が高く、最高の仕事だと思っています。

◆ビスポークができるまで

----:そういったお客様から様々なビスポークの注文があると思います。その注文にはボディカラーや革の素材から始まり、家紋のようなものやコンソールボックスの加工等、ありとあらゆるものがあるでしょう。そういった注文を実現するためにはどういった手法を用いるのでしょうか。

クラヴィター氏:とても良い質問です。これは私たちのチャレンジのひとつだと思っています。お客様はそのために長い時間待ち、そして、膨大なお金を払ってくれるのですから、最初から正しく納品するということが重要なことです。お客様のもとに届いて、開けてびっくりということがあってはなりません。

まず私たちが最初にやることは、ビジュアル化することです。それは手書きの図面かもしれませんし、CADデータのレンダリングで、データとして提供することもあれば、コンフィギュレーターのイメージを少し改良して、それを提供することもある。とにかくまずは見てもらって、お客様の合意を貰うことを行います。

その次には、新しい材料や色を選んでもらい、サンプルを送ります。例えば、レザーであればこの色とサンプルを送って、好みに合うかどうか確認します。

時には、全く新しい素材を使いたいというお客様もいるので、サンプルを送る前に、我々の基準に合っているかをテストをして、そのうえで、送って確認をしてもらっています。最近ではオーストリッチのレザーを使ったユーザーもいらっしゃいました。

いずれにせよ、99%は何らかのビジュアルイメージから始まるのです。

----:ちなみに、これまでで一番面白いビスポークの注文はどんなものでしたか?

クラヴィターさん:大変面白いプロジェクトを沢山手がけていますが、ひとつ日本人の方の例を挙げましょう。元力士で、大柄なので、後部座席のセンターコンソールの位置が高いので、もう少し低くしてほしいという要望がありました。それ以外の彼のリクエストはコンソールの中にクーラーボックスを作って、お気に入りのソーダとグラスを入れられる場所が欲しい。そして、DVDのキャビネットをつけて、これ全部を一体型にしてほしいというものでした。そのうえで、インテリアにそぐわないものではないこと。これはなかなか面白いプロジェクトでしたよ。

◆ビスポークのデザイナーは誰も辞めていない

----:そうした様々なお客様の要望を実現していくためのビジュアルを作り上げるまでのステップとして、デザイナーが絵を描くと思います。カーデザイナーではなく、ビスポークデザイナーとして、何らかの勉強をしたり、自分なりの工夫をしているのでしょうか。

クラヴィターさん:これも大変良い質問です。デザイナーにとって一番重要なのは、お客様のライフスタイルを理解することだと思っています。なので、例えばモナコのヨットレースに行ってもらったり、私の出張にも同行してもらって、その地域の美術館に行って勉強してもらったりもします。

彼らが担当するプロジェクトには、しばしばそのアイディアが曖昧なことがあります。そういうときには“ムードボード”というものを作ります。これは何かというと、色々なイメージを集めて、ボードに張り付けていくもので、必ずしもクルマである必要はなく、非常に美しいものや、同じ“デザイン言語”を持ったデザインであれば、例えばペンでもいいわけです。こういうイメージをあちこちから集めて来て、場合によってはこのボードをユーザーに送って、お客様が思い描いているイメージと合っているかを確認するのです。そのうえでスケッチを開始します。

幸いにもロールスロイスのビスポーク事業部門は、デザイナーにとってやってみたい仕事のひとつなので、非常に優秀な人材、例えば、ロンドンのロイヤルアカデミーオブアーツの卒業生や、イギリスでは最も有名なデザインスクールの、コベントリー大学の卒業生が入社してきています。しかし全てはOJTだと思っており、全てが経験だと思います。

我々のスターデザイナーの一人は4年前に入社したばかりですが、『ウォータースピードコレクション』をデザインをするなど、いまでは既にリードデザイナーです。
更に幸いにもまだ誰も辞めた人がいないのです。きっと彼らにとってもエキサイティングな仕事なのでしょう。デザイナーたちもブランドやお客様、そしてこのラグジュアリーセグメントへの理解を益々深めているので、彼らがこのまま残り続けてくれることを期待しています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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