10日に開催されたマクラーレン・ホンダの会見において、ホンダのF1プロジェクト総責任者・新井康久氏は、マクラーレンMP4-30に搭載されているパワーユニットが「これ以上は小さくできない」ほどにコンパクトパッケージを追求したものであることに言及、自信を見せた。
2月上旬の今季最初の合同テストでは、思ったように走行マイレージを積めなかった印象で、ラップタイム的にも低迷した感が強かった新生マクラーレン・ホンダ。だが、新井氏は「今回は全てのシステムが正常に動いて、データ設定が思い通りにできるのか、というところに我々の主眼はありましたので、ラップタイムはこんなものだろうとも思っていましたし、(走行距離が少ないことも含めて)気にしていません」との旨を語り、「(傍目には)大丈夫なのか? ということになると思いますが、シェイクダウンとしてのステップはきちんと踏めました」と説明した。
もちろん、問題はいろいろ出ているが、それを出すことが目的の初回合同テスト。そしてその問題の多くは、どうやら「これ以上は小さくできないくらいにパワーユニット(そのもの)と車体パッケージの面でコンパクトさを攻めていったための熱処理に起因している」ことが判明したようである。
フォーミュラカーにおいて空力が重要なのは言うまでもないが、空力の良さを追求するためには、エンジンを中心とするパワーユニットが車体の中で占める巨大なスペースを小さくすることが基本課題となる。「F1は特にそうで、簡単に言うと(車体を作るチーム側は)もっと小さくならないの? ということになるわけです。そこを(マクラーレンとホンダで)お互いにせめぎ合いながら、バランスをとって、これ以上はないくらいタイトなパッケージにしています。そうすると当然、冷やすことも難しくなります」と新井氏。
同じ性能をより小さなサイズで実現すること、これはおよそ全ての工業製品において永遠の命題でもあるのだが、今季からF1に復帰するホンダは、盟友マクラーレンとの密な開発連携のもとに“いい意味で”せめぎ合って、車体+パワーユニットのパッケージとしてのコンパクト性をかなり「攻めています」。そして「攻めれば、必ず問題は出ます」というのが、先の合同テストでの“状況”だったのである。
常に技術的挑戦を敢行するホンダならではの開発姿勢。もちろん、想定の範囲内とはいえ代償(走行距離不足や風評被害)は小さくない。しかし、「熱を上手にマネージメントするための努力」が結実すれば、得られる成果は大きなものになるだろう。
また新井氏は、この熱マネージメント(コンパクトパッケージの追求)は将来的には市販車にもフィードバックされ得る具体要素とし、今回のホンダの復帰理由が、昨季からのパワーユニット新規定施行によってF1が市販車ハイブリッド技術との相互研鑽ができる場になったから、であることにも改めて触れた。そしてエンジニアの育成というもうひとつのF1参戦目的に関しては、「限られた時間のなかで、速い判断と、(理論的)最適よりも(状況的)最善を選択できる能力を鍛えられる」という効果を挙げている。
「去年のチャンピオンチーム(メルセデス)に対して同等の戦いができるようにしなければ、レースで前に行くことはできないわけです。もちろん壁は高い、でも壁の高さは確認できていますから、そのために何をしなければならないかをいろいろと考えて準備を進めています。そのなかでいろいろ問題が出てくるのは、ある意味では仕方のないことなんです。だから『心配いらないです』と言うと、『大口叩いて』と言われてしまうかもしれませんが、とにかく我々は緊張感をもって、1カ月後の開幕戦にどのレベルのものをもっていけるのか、(ファンの方々の)期待に応えなければいけないとも思っていますので、そういう覚悟で仕事を進めています」
復帰初年度、しかも現行パワーユニット規定で1シーズン実戦を経てきた他陣営より後発の身でありながら、攻めの姿勢で討って出たホンダ。その“らしさ”を讃えつつ、開幕に向けての急ピッチな開発が、タイムシート上の急浮上にもつながることを楽しみにしたい。
今季のF1は3月15日決勝のオーストラリアGP(メルボルン)で開幕する。