最近のアメリカ車、特に日本上陸を目論むようなモデルは、はっきりと“変わって”きた。アメリカ以外の道、特にヨーロッパでも、地元産に混じって同じレベルでしっかりと走れるようなクルマになっているのだ。たとえば、ハンドリングやライドフィールの面で、「これ、アメ車だからさ」、などと言い訳の要らないクルマになった。
なかでもフォードブランドは、トラックなど一部のいまだ“血中アメリカン濃度”の高いモデルを除いて、世界でひとつの走りを目指している。驚いたことに、アメリカンスポーツの歴史的代表作というべき『マスタング』のモデルチェンジも、その例外ではなかったのだ。
そのことは、新型のブリティッシュスタイルで優雅なクーペフォルムに、もう既に現れていると思う。カオやオシリ(とインテリア)のデザインこそ、“ザ・マスタング”で“ザッツ・アメリカ”だけれども、全体的な雰囲気は、歴代モデルに比べてずっと洗練されたものになった。
京都までドライブした。その印象も同じく「ずいぶんとリファインされたな」というものだった。
とにかく、よくできたグランドツーリングカーである。コーナーを含む高速道路での安定した姿勢と“意のままにできるぞ”感は、もはやヨーロッパ車に優るとも劣らず。2.3リットル直噴直4ターボのダウンサイジングユニットも、過不足なく仕事をこなした。
ついでに言っておくと、ハコネのワインディングロードを攻め込んでも、粘り気のある、とてもコントローラブルな走りを楽しめた。これで、リアのマルチリンクサスをもう少し煮詰めれば、素晴らしいFRスポーツカーになると思う。
もっとも、個人的には、マスタングといえばやっぱりV8でしょ、なんて想いが身体に染み付いているらしく、ときおり加速フィールを不満に思うこともあった。そういうノスタルジックな向きは「GT」か「コブラ」を待つほかない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。