【土井正己のMove the World】春闘の数字、なしえたのは誰か

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トヨタ自動車本社
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「春闘」記録的数字は経営者の思い

今年の春闘は、企業の好業績を反映し、大幅なベアアップとなった。トヨタが4000円、日産が5000円、ホンダが3400円、マツダが1800円と軒並み過去最高水準を記録している。「政府の圧力がものを言った春闘」と揶揄する声もあるが、そういうものではなく、労使の議論と判断によるものだろう。

2008年のリーマンショック、円高、東日本大震災など、自動車産業は大きな打撃を受け続けてきた。この間、経営者は、役員や従業員のボーナスなどを大幅にカットし、雇用を守りながら、一方、競争力強化は怠らなかった。スバルが「EyeSight(アイサイト)」を出してきたのが2008年。マツダは、2009年3月期、2012年3月期に最終赤字を計上したが、その中でも「 SKYACTIV」技術の開発には投資を続けた。それが今日の飛躍に繋がっている。任期中の業績だけを気にする経営者にはできない経営判断だろう。

トヨタも「超円高」の期間、年間3000億円もの原価低減を行い、1ドル80円の為替レベルでも輸出採算が取れる体質にまで経営をスリム化した。安倍政権発足以降、2013年、2014年はようやく平和な年が続いて、本来の国際競争ができるようになった。各社ともこれまで鍛えた筋肉体質のおかげで高収益をあげることができたというのが実態であろう。経営者としては、厳しい時期を一緒に耐えた従業員に報いたいと思うのは当然である。

企業買収も真っ盛り

一方、今週「対米投資で日本が1位」というニュースが飛び込んできた。そういえば、一昨年のソフトバンクによる米通信業者スプリント社の買収やサントリーによる米大手酒造会社ビーム社の買収など、日本企業による買収が盛んだ。対米だけでなく、欧州に対してもキヤノンによるスウェーデンの監視カメラ大手アクシスコミュニケーションズの買収、ブラザー工業による産業用印刷機械大手の英ドミノ・プリンティング・サイエンシズの買収など、海外企業買収の話は、毎日のように新聞紙上を賑やかしている。

企業の業績が好転する中、内部留保された資金で海外企業を買収し、一挙にマーケットや技術を手に入れるという目論見である。これまでの日本の対外投資というと、「現地生産化」(日本企業の工場を海外につくる)が中心で、企業買収というのは稀であったが、今回は、全くそれが逆転している。企業買収は、企業文化やビジネスモデルが異なる別々の会社が統合することから、成功する例はあまり多くない。調達網や販売網の統合などシナジー効果が発揮できるまで、かなりの時間を要するケースが多い。1998年に「世紀の合併」と言われて誕生した「ダイムラークライスラー」も2007年にシナジー効果を出すことができず、2007年に終了している。

◆「未来を作る技術」「未来を作る人材」に拡大投資を

企業の内部留保に関して言えば、企業買収よりも研究開発費にもっと投じて欲しい。3月23日付の日刊工業新聞で、トヨタ自動車の内山田会長が語っている記事がある。その中で、内山田会長は、「現在、民間が大学に投資している研究開発費は大学の研究開発費全体の2.5%。これはドイツの14%と比べて非常に低く、改善の余地がある」と述べている。企業の単独での研究開発に比べ、大学との共同研究はコストを押さえることができ、また、自由な発想を取り入れることができる。多少リスクがあっても大化けする可能性のある研究は産学共同に向いている。

日本は、これからは「規模ではなく、科学技術と貢献で経済を作る国」にならなければいけないと以前からこのコラムで語ってきた。アジアの国とボリュームで競争するのではなく、技術で勝る国、そして、アジア各国の発展に貢献する技術を生み出す国、そういう国になれば、ウィンウィンの関係が構築できるものと思う。そして、そういう企業が、これから求められていく。前述した企業買収に関しても、マーケットシェアや販売ボリュームを狙うより、できるだけ技術取得を目的にしたほうが効果を得やすい。これは、アップルなどIT産業で頻繁に行われている。

「技術立国日本」への道は、企業経営者の判断の積み重ね以外になしえる方法はないと思う。昨今の好業績の糧は、それをなしえた「未来を作る技術」、そして「未来を作る人材」に是非、拡大再投資して頂きたい。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事

《土井 正己》

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