【Dセグセダン 徹底比較】アテンザ、3シリーズ、レガシィ、それぞれが目指したもの…森口将之

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アテンザ、3シリーズ、レガシィ、Dセグセダンを徹底比較
アテンザ、3シリーズ、レガシィ、Dセグセダンを徹底比較 全 76 枚 拡大写真

2~2.5リットルクラス、ヨーロッパ流に言えばDセグメントの国産セダンは、完成度の高い車種が多い。国内ではあまり販売台数が稼げないが、グローバルでは主力車種のひとつであり、クルマの出来が販売に直結することが大きそうだ。その中でトップレベルに位置するのが、2012年にデビューしたマツダ『アテンザ』。ユーザーの半数が輸入車と比較して購入したという話からも、実力の高さが証明できる。

アテンザは昨年秋に大幅改良を受けた。その理由として、競合車としてBMW『3シリーズ』などプレミアムブランドの名が挙がったので、クオリティアップの必要性を感じたそうだ。さらにこの改良では4WDが追加された。こちらは雪国の要望に応じたもの。現地で根強い人気のスバル『レガシィ』との比較をユーザーが考えたのかもしれない。

そこで実際にアテンザと3シリーズ、レガシィB4を乗り比べして、実力をチェックしてみた。アテンザのグレードは最上級のXD Lパッケージ 4WD、3シリーズは「320d」で3タイプ用意されているデザインラインのうちスポーツをまとった仕様、2グレード構成のレガシィB4はベースモデルだ。

◆三者三様の内外装デザイン

3台を並べると、アテンザの存在感が目立つ。全長4865×全幅1840×全高1450mmという、もっとも長い外寸だけが理由ではない。魂動デザインのエモーショナルな造形が際立っているのだ。とくに5ポイントのシグネチャーウイングからフロントフェンダー、キャビンにかけての躍動感は、いまなお見とれてしまう。

アテンザの前では3シリーズさえおとなしく見える。3方向ともに小柄なサイズの中で、このクラスにふさわしい居住空間を確保するためもあるだろう。その証拠に前後のウインドーはいちばん立ち気味だ。一方1500mmともっとも背が高いレガシィは、簡潔で骨太な造形から、メインマーケットが北米であることが伺える。

運転席まわりがもっとも広々しているのはレガシィ。外観同様、シンプルなデザインのインパネのおかげが大きい。対照的なのが3シリーズで、低いシートと高めのインパネ、ドライバー側に向いたセンターパネルのコンビがタイトな印象をもたらす。

アテンザは昨年の改良で、わずか2年でインパネを一新したことが効いている。CX-5との共用を止めたことで、解放感が高まったのに対し、運転席は自然とまっすぐ前を向く空間作りが印象的だ。意外だったのはパーキングブレーキで、国産車の2台が電気式に進化していたのに対し、3シリーズだけが昔ながらのレバーを用いていた。

インテリアカラーは、黒基調のレガシィは造形同様、機能重視という雰囲気なのに対し、シートやドアトリムを赤とした3シリーズは華やか、白としたアテンザはエレガントな印象をもたらす。3シリーズはこれ以外にも多彩なコーディネイトが可能だけれど、個別比較でそれに劣らぬ質感を表現したアテンザはたいしたものだ。

しかも取材したXD Lパッケージに用意されるもうひとつのカラー、ブラックは、センターコンソールやドアトリムの一部を深いワインレッドで色分けしていて、国産車とは思えない渋いコーディネイトも楽しめる。

後席は3シリーズでも身長170cmの僕が楽に座れるが、左右にホイールハウス、センターにはトンネルが出っ張っているので、2人掛けが一般的かもしれない。その点、国産の2台は3人掛けも苦ではなく、ヒザの前の空間では上回る。

◆水平対向の独自性持つレガシィ、ディーゼル2台も個性分かれる

取材車のエンジンはアテンザが2.2リットル、3シリーズは2リットルの直列4気筒ディーゼルターボで、レガシィはスバル伝統のガソリン水平対向4気筒2.5リットル自然吸気だ。アテンザの最高出力は175psでレガシィと同じ。3シリーズは184psとやや上回る。しかし42.8kgmの最大トルクはレガシィの24kgmはもちろん、3シリーズの38.7kgmも凌ぐ。変速機はアテンザが6速、3シリーズが8速のAT、レガシィはCVTだ。

2.5リットル自然吸気のレガシィでも加速に不満はないし、ガソリンエンジンだけあ
て静粛性は上。水平対向独特の鼓動はマニア視点では高得点が与えられる。でも他の2台にもガソリン車はあるわけで、加えてディーゼルを選べるところが評価できる。

ではディーゼルの2台はどうかと言うと、8速ATがもたらすスムーズな速度の上げ下げで3シリーズが優位に立つ以外は、アテンザが上だった。 アイドリングでは明確にディーゼルと分かる3シリーズに対し、アテンザの音や振動はディーゼルとガソリンの中間という感触。速度を上げるとそれさえ気にならなくなって、平和なクルージングが味わえる。加速のパンチもトルクで上回るだけあって、より強力に感じた。

乗り心地は取材したグレードに話を限れば、レガシィが穏やか、3シリーズが固めで、 アテンザはその中間よりやや固めだった。レガシィはマイルドなわりに路面の凹凸を伝えがちで、デザイン同様おおらか。3シリーズは速度を上げるほど焦点が合ってくるドイツ車らしいセッティングで、ボディの強靭さも感じる。

アテンザはサスペンションストロークはそこそこだが、その中でうまく処理しているという印象。レガシィの17、3シリーズの18インチに対して19インチのホイール/タイヤを履くために、路面の荒れたところではショックが伝わるけれど、改良前に比べるとかなり巧妙にいなしてくれるようになった。

◆ハンドリング軽快な3シリーズ、価格差をどう考えるか

直進安定性は3車とも文句なし。 運転支援システムのひとつである追従クルーズコントロールの制御は乗り心地と似ていて、3シリーズはダイナミック、レガシィは鷹揚、アテンザは3シリーズほどではないがメリハリがあった。完全停止に対する考え方、車線逸脱についての対応は、ブランドごとの色が出ていて興味深かった。

ハンドリングがもっとも軽快かつ自在に感じるのはやはり3シリーズ。エンジンをキャビンよりに縦置きした後輪駆動車ならではだ。 4WDの2台は、アテンザのほうがコーナー出口でアクセルを踏み込んでいくと旋回性を増してくれるなど、ドライバーの意志を反映してくれるアクティブなドライブトレインだった。つまりアテンザの4WDは、レガシィが持つスタビリティだけでなく、3シリーズが備えるコントローラブルな性格も獲得しているように感じられたのだ。マツダらしい走りの楽しさが、4WDにも息づいていることが理解できた。

また、アテンザには国産メーカー初のアダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)も搭載されている。遮蔽版を用いず、複数のLEDを使い分けることで対向車や前方車の眩惑を防止し、適切な明るさを提供する新技術だ。

アテンザ XD Lパッケージ4WDの価格は400万円近くと、国産車としては高価だ。しかし3シリーズのディーゼル車は500万円を超える。比較試乗した結果、両車の実力にはほとんど差がなかったので、アテンザはやっぱり割安だ。一方300万円を切るレガシィに対しては、ガソリン2リットルという持ち駒で対抗できる。

しかしアテンザとレガシィとでは、目指す方向性がかなり違う。没個性と言われることもある国産車だが、この2台はかなりの個性派だと断言できる。そして3シリーズに代表されるヨーロッパ路線を目指したアテンザが、単なる追従者に終わらず、日本らしい優しさやきめ細やかさを含ませていたところにも好感を抱いた。アテンザ、そしてマツダは間違いなく、クルマ好きに刺さる日本車の理想像に近づいている。

《森口将之》

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