【千葉匠の独断デザイン】アウディ新デザイナーのリヒテ、伝統のブランドに何を見いだすか

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アウディ プロローグ・アバント(ジュネーブモーターショー15)
アウディ プロローグ・アバント(ジュネーブモーターショー15) 全 19 枚 拡大写真

2013年末、アウディのデザインディレクターだったヴォルフガング・エッガーが、イタルデザイン(10年にVWが買収)のチーフデザイナーとしてトリノに赴任。翌2014年2月1日付けで、それまでVWブランドでエクステリアデザインの責任者を務めていたマーク・リヒテがエッガーの後任となった。そのリヒテに、ジュネーブモーターショー15の会場でインタビューすることができた。

◆完成したイメージに挑むリヒテ

リヒテがアウディに来て最初に行ったのは、新たなデザイン戦略の策定だという。「良いデザインを行うためには、良いデザイン戦略が必要だ。個々の車種のデザインを始める前にデザイン戦略を作り、それを役員会に提案して承認を得た。そこまでやっておけば、個々の車種のデザインが容易になるからね」。

現行アウディ車のデザインは、アイデンティティ=一貫性が強いだけに「どれも同じ」に見えがち。そこはリヒテも意識しているようで「車種ごとの差異化をもっと強める」とのこと。「ただし、シングルフレームのグリルは今後も変えない。2004年に先代『A6』でシングルフレームを採用して、ようやくアウディも”顔”を持つことができた。それを壊すのは得策ではない。でも、グリルの縦横比は車種に応じて違えていく。ヘッドランプのグラフィックスも同様だ」と話す。

リヒテは、まだ就任1年余りだから、現行車のデザインにはほとんど関わっていない。彼の作品として世に出るのは、まず次世代『A8』、続いて次世代『A7』だ。しかし、彼のデザイン戦略はすでに2台のコンセプトカーに体現されている。

昨年11月のロサンゼルス・ショーで発表した『プロローグ』は2ドア・クーペ、今回のジュネーブショーの『プロローグ アバント』はワゴン。リヒテは彼の新しいデザイン戦略を、プロポーションがまったく異なる2台でデモンストレーションしたのだ。

◆“クワトロ”を強調するブリスターフェンダー

共通する特徴のひとつは、いわゆるブリスターフェンダーを採用していること。1980年に4WDスポーツの先駆けとして登場した『アウディ クワトロ』は、ブリスターフェンダーの開拓者でもあった。あのクワトロ以降、その名前はアウディにおいてフルタイム4WDの代名詞になっている。

「我々にとって、アウディと言えば“クワトロ”だ。今後のアウディ車は4つのホイールを強調したデザインにしていく」とリヒテ。そこでブリスターフェンダーにしたわけだが、ここで大事なのは、ショルダーラインの位置を従来のアウディ車より下げ、それより高いところにブリスターの稜線を配置していることである。

その理由をリヒテは「ショルダーラインを下げることで、それとブリスターの稜線との間に筋肉質的な力強さを表現するスペースを確保した。低いショルダーラインによってサイドビューの視覚的な重心を下げ、スポーティさを表現するのも狙いだ。アウディはスポーティなブランドだからね」と説明。

そして、こう付け加える。「筋肉質的な力強さの度合いは、例えば最上級セダンのA8は少し控え目にするし、A7ではプロローグよりさらに強く表現する。フロントマスクと同様に、ボディサイドもメインのテーマは共通にしながら、その表現は車種ごとに違えていくつもりだ」。

◆“他とは違う”を体現するアウディデザインの妙

「アバント」はワゴンを意味するアウディ用語。今回のジュネーブのプロローグ アバントを、リヒテは「次世代アバントがどうなるかを示すもの」と表現する。「これで何をやったかと言うと、ひとつは水平に延ばした長いルーフだ。それによって室内空間を犠牲にしない機能性を表現した」とリヒテ。

続けて「もうひとつの特徴は、テールゲートを強く傾斜させたこと。シューティングブレークの美しさを、そこで表現している。つまり機能性とスポーティな美しさをひとつのデザインに融合したのだ。これは他にはない独自性だと思っている」と語った。

ルーフだけでなく、サイドビュー全体が水平基調。これはアウディの伝統だ。「歴代のアウディを振り返っても、ウエッジしたクルマはない。どれもほぼ水平のプロポーションだ」。そして「ワイドで力強いボディの上にやや低いキャビンを載せるのも、アウディらしさのエッセンスだ。これは今後も守っていく」とのこと。

VWブランド車はキャビンとボディの一体感を重視するので、例えばCピラーとリアフェンダーをひとつの連続面で作っているし、Aピラーの根元はボンネットにつながっている。一方、アウディはベルトラインを境に、ボディとキャビンを区切ったフォルム。Aピラーの根元はボディに差し込んだように処理するケースが多い。

「それもウエッジをやらないからだ。ベルトラインをウエッジさせると、Aピラーの根元のところでベルトラインとボンネットに段差ができるから、Aピラーをボンネットにつなげたくなる」とリヒテ。「VWはそうやっているが、アウディはいつでもボンネットとベルトラインが一直線で、段差がない。あっても小さな段差だ。水平基調のプロポーションだから、それができる。他にはあまりない特徴だから、そこも今後のクルマに踏襲していく」。

そして「クワトロやアルミボディなど、アウディは他とは違うことをやって成功してきたブランドだ。他社とは違う道に進むのが、我々にとっては良いこと。私自身、何か違うことをやるのが大好きだしね」と微笑んだ。その表情には新しいデザイン戦略への自信が滲み出ているように見えた。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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