【SAS FORUM 15】日産、オムニチャネルマーケティングの現在

自動車 ビジネス 企業動向
日産自動車マーケティング本部販売促進部小暮亮祐氏
日産自動車マーケティング本部販売促進部小暮亮祐氏 全 10 枚 拡大写真

4月17日、グランドハイアット東京にてSAS FORUM JAPAN2015が開催された。

同フォーラムでは「オムニチャネル」をテーマとしたパネルディスカッションが行われ、日産自動車マーケティング本部販売促進部の小暮亮祐氏、パルコメディアコミュニケーション部業務課長の島袋孝一氏、SAS Institute Japan ソリューションコンサルティング第一本部カスタマーインテリジェンスグループ本部の小笠原英彦氏が登壇。オムニチャネルマーケティングをおこなう上での経営課題や課題にむけて取り組まれている現在の事例を共有した。モデレーターは、朝日インタラクティブCNET Japan編集長、別井貴志氏が務めた。

以下、日産自動車のオムニチャネルマーケティングに関して抜粋、レポートする。

日産自動車のオムニチャネルマーケティング事情

2012年の10月に日産に入社、約三年間CRM(顧客との関係構築)領域を担当しているという小暮氏。「顧客の行動がかなり変化してきており、自動車メーカーもそれに対応しようと四苦八苦している状況」という認識を示す。では、顧客の行動の変化とは具体的になにか。そして自動車メーカーは何に苦労しているのか。小暮氏は顧客にとってディーラーとの付き合い方が変わってきていることを指摘し、「クルマを選ぶためではなく、もはや買うための場所に変化しているため、顧客が販売店に来る“前”にいかにアプローチするかが重要」という。

「お客様が1台の車を買うまでに、店舗に何度足を運ぶか。その平均回数は欧州で2000年から2009年にかけて7回から1.5回に。米国で1998年から2011年にかけて4.5回から3.5回に。グラフは欧米のものだが日本も同様に減少傾向にある。」(自社調べによる)

これが何を意味すると感じているかというと、「昔は、クルマは基本的に複数のメーカーの店舗に来て、色々なクルマをみて、そして試乗してから購入されていた。しかし最近は店舗に来ている時点で、ある程度特定のブランドと商品のクルマを購入する意思をもってきている。顧客にとって店舗訪問は最終的なチェックと値引き交渉の場となっている」という。

ディーラーに来るのを待たず会いに行く 二つの取り組み

したがって自動車メーカーにとっては、顧客が店舗に来るまでのマーケティングが重要になる。小暮氏は「このような顧客の購買行動に合わせ変化しなければならないことに課題を感じている」と述べる。

では顧客が店舗に来るまでのマーケティングとは何か。具体的にどのようなことに注力すればよいのだろうか。

小暮氏によれば、
1.店舗外でのブランド体験リッチ化(タッチポイントの役割)
2.一気通貫したモニタリング(オンライン/オフライン)

とスライドで示しながら二つの取り組みを紹介。

一つめの店舗外でのブランド体験リッチ化、について「課題は顧客が(ディーラー)来店前に購入車種を決めていること、特に若い方にとり来店への敷居が高いと感じられていること。来店するということは買うことが想定されていると思われていて気軽に来店することがむずかしくなっていること。」と整理。

そこで、日産はショッピングモールなど人の集う場に出店し、コンシェルジュのような担当者が付き添うかたちで、“お客様がくるまえに我々からいく”体制をとっているという。そして、これをオンラインで実施したのがアマゾンとの取組みだ。

◆Amazon Kindle…ウェブ上のマーケットプレイスに出品する

「いま顧客の購買行動はウェブに移り、ウェブでなにか商品を買うのが一般化してきている。その中で我々店舗にきてくれていないお客様にとっての、通常のモノを買うマーケットプレイスであるアマゾンさんに出品させていただいています。今のところは実際にウェブ上でクルマを販売したりはしていないが、購買の疑似体験をしていただいています。実際には店への問い合わせ先へ繋がるようになっています。」

これに加え「Kindleという電子書籍の中で、例えばセレナなどの我々の車のカタログがダウンロードできるようになりました。元々カタログは店舗に行けば無料で手渡しされるし、日産のホームページでも見られるものですが、お客様が本を読もうとか、雑誌を読もうと思ったときに沿うような形になるようにしている」という。

日産自動車のカタログをKindleに掲載するこの取組みは、開始当初から(キャンペーンをしていた影響もあるものの)無料書籍ランキングで4車種全てランクインするという効果をもたらしたという。また、この取組みを始めるまえは、コメント欄に“ネガティブなものがついたらどうしよう”という後ろ向きな声、不安も社内の議論では出てきていたが、結果車やこの取組み自体について前向きなコメントが寄せられたという。「エコですね、新しいカタログの配布方法ですね、などのコメントがつき、お客様に受け入れられた感じが得られました」(小暮氏)。

◆Data Syncでオンとオフと接続

つぎに、二つ目の一気通貫したモニタリングについて。

ウェブでの行動が実売にどれくらい貢献したのかを知り、オンラインとオフラインを接続するというのはマーケティングの大きな課題であり、「これまでの課題はオンラインとオフラインが連動せず、それぞれ別々な役割として存在するため、シームレスに繋がっていなかった」。そして社内でもオフラインでの来店情報、購買情報とウェブ上の閲覧の相関をみせても「理解はされても意思決定への反映まではされていない」現状を示す。

そこで現在、「Data Sync」によるオンラインとオフラインの接続を試みており、顧客が来店してクルマを購買したときに得られる個人情報とウェブ情報でのメルマガ会員のデータを紐づけ、一元管理し始めているという。これによりサイトへのアクセスデータから成約に至ったときまでのデータをもとにオウンドメディア(日産のホームページ)のコンテンツの改良、制作に活かすことができてきるという。

◆何のために集めるか、どのデータを取るべきか

SASの小笠原氏はこれについてとくに後者のオンラインとオフラインをつなぐ取組について言及し「先進的なもの」との期待を示した。メルマガでの情報を起点にしてオフラインとオンラインの接続をすることはより深い自社顧客の理解に寄与し、企業が自社の顧客像への先入観をもつことを回避、さらに新規顧客の獲得の可能性を秘めている、とコメント。

またこれに関連して自動車会社の持つ情報力についても言及した。「ディーラーに来て採られるアンケート情報、ローンを組むときの審査情報、金融情報など、センシティブなデータも含めて色々な情報を持っている。」(小笠原氏)と述べ、現在のデータ活用状況を登壇者に問う。

これに対して小暮氏は「金融情報などのセンシティブなデータは使われていないしマーケティングの中にはとりこまれていない。顧客と結んでいるお約束をふまえて進めていかなければならないので。ただ社内での活用に向けたモチベーションは高くなっており、使える範囲でなるべく多く使えるようにしようとしている状況」と回答。

最後に小暮氏はデータ活用について「何を使ってどうするのか、課題や目標のないままデータを集めることは避けるべきで、本当に必要なデータはなにかを見極めそれ以外はムリして持ってこないようにしたいですね。無駄にあつめてもリスクがあるだけなので。こういった議論を社内でもすることができたら」とコメント。モデレーターの別井氏が「データ取得の順位をつけていくことが今後の課題」とまとめた。

《北原 梨津子》

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