【マツダ ロードスター 用6速MT 開発物語】その3…トランスミッションを内製する理由と、開発の目的

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ロードスターのトランスミッション(MT)
ロードスターのトランスミッション(MT) 全 6 枚 拡大写真

VW、トヨタ、日産など世界中の主要な自動車メーカーの多くは、トランスミッションを専門メーカーから仕入れている。量産車の場合、自動車メーカーが決定した仕様に基づいてトランスミッションメーカーが設計、開発を行い、生産しているのである。

もちろん車種によっては専用で開発されたものや最適化のために大きく仕様が変更されているものもある。トランスミッションを生産するメーカーは、大きくなった自動車メーカーが分社化したものなど、グループ内の関連会社であることもあるが、パーツサプライヤーも合併することによってそうした系列も薄らいでいる。

一方、マツダはサプライヤーから変速機を仕入れることもあったが、最近は特に内製化にこだわっている。国内では珍しくMT搭載車種が多いこともあるが、単に自社で仕様を決定できるというだけでなく、部品レベルから内部の構造を最適化し、理想のトランスミッションを追求できるのが強みだ。ATのセンサーやクラッチ、トルクコンバーターなどの部品は部品メーカーから納入されているが、それ以外の主要な部品からここ中関工場で作り出し、組み立てている。

「エンジンはトランスミッションが一つになったパワーユニットとして機能するものと考えています。トランスミッションを内製するのは、完全なパワーユニットという武器を手の内にするということになるのです」

全マツダ車の86%のトランスミッションを生産する中関工場の向井工場長は、トランスミッションの内製にこだわる理由をこう説明する(ちなみに残りの約14%のトランスミッションは海外工場で生産しており、中関工場から部品を輸出している)。

ならばNDロードスターの縦置きMTに限れば、内製する理由がさらに多くあるはずだ。これまでのロードスター用MTとはどう違うのか、何を目的に作られたのか。ここからはマツダ ドライブトレイン開発部の延河氏に解説してもらった。

NDロードスター用トランスミッションの開発に要した期間はおよそ4年だと言う。遊星ギアを使った多段ATやDCTと違い、MTはこの50年間大した進歩など遂げていない、非常に古典的と言うか完成された機械なのだが、どこにそれほど開発できる余地があったというのだろう。

車体全体でも大きなテーマである軽量化はトランスミッションにおいても重要な要素だ。軽量化は先の工場で見せてもらったベルハウジングの薄肉化によるところが大きい。従来は4.5mmの均一な肉厚として、さらに補強のためのリブを追加していた。

「必要な剛性を確保して軽量化を進めるために、最初に設計支援ツールに車両の条件を入力して、理想的なハウジングの形状を自動設計させてみました。すると出来上がってきたのは大木の切り株のようにうねりのある根が広がったような形だったんです。オイルが入る部分なので、根っ子のように隙間が空くのはマズいので、隙間になっていた部分を出来るだけ薄くすることにして、肉厚で2.5mmを実現しました。これは設計だけでなく、生産の技術もあってクリアできたものです」

三次元肉厚分布で見ると、確かに有機的な模様のようになっていることが分かる。鋳造の場合、途中に肉厚の薄い部分があると、そこを溶湯が流れる際に圧力が高まり抵抗になる。生産する側にとっては厄介な形状だから生産性を考えるとやりたくないところだ。しかし前述のようにモノ造り革新の手応えを得た中関工場のスタッフは、シミュレーションを駆使し、真空&超高速鋳造を実現することでこの複雑な形状を可能とすると共に、生産性も高めることに成功した。

ライトウエイトスムーストランスミッションハウジングと名付けられた、ツルツルのミッションケースは、こうして誕生したのである。

《高根英幸》

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