【川崎大輔の流通大陸】人口300万人、モンゴルで育つ「日本流」自動車中古部品ビジネス

自動車 ビジネス 海外マーケット
NISHI-DATTO(1)
NISHI-DATTO(1) 全 5 枚 拡大写真

鳥取県で中古部品業を営む(有)西川商会。モンゴルにある日系の中古部品販売店「NISHI-DATTO」の親会社である。西川商会のスタッフで、モンゴルの販売店責任者である田中雅則氏にモンゴルにおける中古部品ビジネスの現状と課題について話を聞いた。

◆モンゴルの都市化

2015年11月にモンゴルを訪問した。モンゴルは広大であるとの思いとは裏腹に、朝夕ラッシュアワー時のウランバートル市内における渋滞のすごさに驚いた。モンゴル政府はウランバートル市内の交通渋滞を改善するための諸方策を打ち出していると聞いた。モンゴルの自動車登録台数は推定40万台で、全車両の60%強がウランバートル市内で登録されている。人口300万人のモンゴルだが、人口の50%弱がウランバートルに住むという。日本の約4倍の国土156万平方kmを有するモンゴルではあるが、ウランバートルの面積はわずか4700平方kmだ。約330分1の限られた土地に人口と車が密集していることになる。

中国や東南アジアの経済発展がクローズアップされているが、2013年の世界経済成長率ランキングにて実はアジアでは1番の経済成長率を誇っているのがモンゴルである。近年の鉱山業等の発展による経済成長によって、自動車市場は急激に拡大している。自動車市場拡大の多くは、日本からの中古車の輸入である。中古車の1大集積地として中国鉄道を経由するコンテナ輸送でウランバートルに運ばれているのだ。

自動車の普及台数が増加するにつれて一般的にメンテナンスを含むアフターサービス需要が高まる。今後は、中古車の販売だけではない関連附帯ビジネスに大いなるビジネスチャンスが出てくることを痛感した。

◆モンゴルにおける中古部品ビジネスの現状

ウランバートルは、比較的狭いエリアにコンパクトに自動車関連ビジネスがまとまっている。市内を車で走れば、至る所に、中古車販売や中古部品販売店、整備工場を見つけることができるだろう。その中には「安かろう、悪かろう」の多数のブローカーも含まれている。

NISHI-DATTOの田中氏は「モンゴルでしっかりと中古部品販売を営んでいるのは20店舗ほどではないか」という。ターゲットとなるのは中間層で、仕入れはほとんど日本からだ。各社独自で自社スタッフを日本に派遣し、また代理人などを通じて日本から中古部品を運んできている。運ばれている部品は、大きくてもノーズカット(車の先の部分だけを切り取ったもの)で、基本はバラして輸入している。エンジン、シャフト、タイヤ、ホイールなどの駆動系だけでなく内装品、外装品も満遍なく輸入がされているようだ。

NISHI-DATTOの強みは、日本人駐在によるブランド力、日本親会社から直仕入れによる低コスト化、更にNGPグループ(NGP日本自動車リサイクル事業協同組合)の部品供給ネットワークを活(い)かした高品質で幅広い商品提供である。驚いたことにNISHI-DATTOは卸売りを行っておらず、ウランバートルに販売店を開設しエンドユーザーに直接小売り販売を行っている。一般的に外資系企業による小売り事業は外資規制又は現地販売網構築の観点から難しいとされている。しかし地元ラジオやフェイスブック、更に口コミなどでの集客によりエンドユーザーとの信頼関係を着実に構築している。

◆多くの課題が残る中古部品ビジネス

モンゴルにおける中古部品ビジネスの課題として、人材雇用の難しさがある。中古部品ビジネスは男仕事であり業種のイメージが良くないためスタッフの入れ替わりが激しいのだ。また、商品の横流しなどのグレーゾーンが多く賄ろが普通に横行している。このような事態に対応するために商品をしっかり管理できる在庫管理システムの構築も大きな課題となっている。

直近の課題は売り上げの減少だ。「2014年の後半あたりから中古部品の需要が急に衰えてきた」と田中氏はいう。モンゴル経済の冷え込みによって消費者の購買力が低下してきているようだ。モンゴルは8割近く輸入に頼っている国のため、為替の影響も経済にダイレクトに影響を与えている。

◆NISHI-DATTOとしてのこれからの方向性

NISHI-DATTOは、電話注文ですぐに必要な部品を確認でき、モンゴル全体に部品供給ができる独自の在庫管理システム構築を目指している。元々、モンゴルのビジネスのやり方に固執しなかったことが、NISHI-DATTOが現地で中古部品販売店として生き残ってきた1つの理由である。他店では購入するまで顧客に商品を見せないというモンゴルの中古部品販売店の常識を、商品を整然と並べての展示販売を行った。日本的サービスである顧客に優しい販売方法に変えたのだ。

「モンゴルで、日本の製品や部品がずっと使われているのはうれしい。父親の時から使っている車を直して大事に使いたいというモンゴル人。日系ネットワークの強みを活(い)かして必要な部品を調達できることは中古部品ビジネスを行っている大きな魅力である」と田中氏は考えている。

日本からの中古車が増えれば当然日本車部品の需要も増加する。しかしモンゴルの人口は300万人と市場規模が限定的だ。日本から中古部品を輸入するだけではうまみが少ない。エンドユーザーのトレンドは変化してきている。中古であっても、「安かろう、悪かろう」から品質が一定レベル保障された商品、サービスを求め始めている。日本的な顧客視点に立ったビジネスは、部品配達などを含む販売以外の附帯ビジネスと両立でき今後のカギとなるとともに、より便利で安全なモンゴル自動車社会の構築にも寄与することだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 「ホンモノのGT」が日常を小冒険に変える…マセラティの新型『グラントゥーリズモ』が誘う世界とはPR
  2. 郵便局の集配車が「赤く蘇る」、KeePerが8000台を施工
  3. 【トヨタ GRカローラ 新型試乗】「GRヤリス」とはスタンスが明確に違う理由…河村康彦
  4. 『N-BOXカスタム』用パーツが一挙発売、ブリッツからエアクリーナーシリーズ4種類・5製品が発売
  5. ランボルギーニ、新型車を間もなく発表へ…電動『ウルス』の可能性も
  6. [音響機材・チョイスの勘どころ]サブウーファー「小型・薄型モデル」の選択のキモは、“サイズ”と“音”と“価格”!
  7. ノンジャンル220台のマニアック車が集合…第15回自美研ミーティング
  8. アルピナ『B3』が2度目のフェイスリフトへ! リムジン&ツーリングをWスクープ
  9. 三菱『エクリプス クロスPHEV』は、新しい毎日に踏み出せる「今の時代、最強の1台」だPR
  10. ホンダの新型SUV『WR-V』、発売1か月で1万3000台を受注…月販計画の4倍超
ランキングをもっと見る