TPP参加で自動車業界は「勝った」のか? アナリスト中西孝樹氏に聞く

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TPPの自動車分野では日本は負けた
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 業界を代表するWEBメディアの編集長が、TPPの影響について専門家と語る対談シリーズ。株式会社ナカニシ自動車産業リサーチの代表で自動車業界アナリストの第一人者として知られる中西孝樹氏に「レスポンス」編集長の三浦和也氏が話を聞いた。

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■TPP交渉、日本の自動車業界は「勝った」のか?「負けた」のか?
三浦編集長:単刀直入に伺いますが、今回のTPP交渉は日本の自動車業界にとって「勝ち」なのでしょうか?「負け」なのでしょうか?

中西氏:定説的には「負けた」と言われていますね。一番のポイントは、いわゆる「現地調達率」。日本の生産拠点はTPPに入っていないタイやインドネシアに集中しています。日本が勝ったか負けたかをどこで測るかというと「原産地規制(TPP参加国で生産された部品をどの程度使えば自動車関税をゼロにするか)」で何%で折り合うか。日本は40%を要求して、メキシコは60%を要求、結果55%で折り合った訳ですから、メキシコの要請に大幅に折れています。

三浦編集長:たしかに日本としては大幅な譲歩ですね。

中西氏:そうです。TPPを域内生産にするためには55%を現地調達率を上げなければいけない訳で、ASEANに生産拠点がシフトしている日本のメーカーからすると非関税のメリットが出てきませんね。そう考えると「勝った」とはとても言えません。けれど「負けた」とも明言できない。元々、そんなに得をする余地が無い話ですから。完成車の輸出の増減を考えますと、TPP参加国はペルーとかチリとかニュージーランドとかシンガポールとか、あまり輸出する地域ではありません。TPPに参加している15ヶ国で車の輸出が活発なのはアメリカです。アメリカに対して関税が完成車で2.5%しか掛かっていない訳ですから、為替が一日で1%か2%動くことを考えると無いに等しい。

三浦編集長:その2.5%が重いんじゃないかと思いました。

中西氏:ええ。実際に2.5%でも関税障壁としては重さがありますが、一方でTPPで日本の自動車産業が北米で構造的に有利になるかというと、一気に大きく変わるものでもありません。さらに言えば、完成車は25年かけて関税を段階的に下げるように“時差”をつけていますので、日米の交易条件を考えた時に劇的に日本が大きなメリットを受けるというのはないですね。

三浦編集長:完成車メーカーにとっては「現状維持」といった感じでしょうか?

中西氏:「現状維持」に近いですが、象徴的には「負け」ではないかと思います。いずれにせよ、これからの調達構造をどう変えていけるかが重要です。

■自動車部品業界とTPP
三浦編集長:では、部品業界にとっては、どのような受け止め方ができるでしょうか?

中西氏:自由貿易経済圏が拡大するというのは大きなプラスです。日本で作って送る部品の関税が下がることも事実ですので、そこの仕事が拡大する期待はできますね。しかし同時に「域内生産の部品を集めていかなければいけない」という調達構造の変化が起こります。そうなってメキシコなどに進出する必要が生じた場合、小さなメーカーがこれから進出したり、現在、東南アジアで作っている物を場所を変えて作るなど、構造変化への対応は大きな負担のはずです。TPPのポイントは、完成車の動向ではなく「調達構造の変化」なんですよ。メーカーは、これから日本の自動車業界がどんな調達戦略を取るのかをきっちり読み取る必要がありますね。

三浦編集長:今後、完成車メーカーは部品メーカーに積極的な構造対応を求めていくようになるのでしょうか?

中西氏:「求める」というよりも「付いてくる」メーカーから買うでしょうね。自動車メーカーはTPPを受けてアジアにウェイトが行き過ぎている部品の調達構造を根本的に見直す時期に来ています。いまは中国から買っている部品が多いですし、タイ、ミャンマー、インドネシアが現地生産拠点として強い。これをどうTPPの時代に即した調達構造に変えるのか。TPPのメリットを享受するためにはアジアにシフトしすぎている調達構造を調整しなければいけません。そこでTPPを睨んで(アメリカ市場を見据えて)「メキシコに調整ベースを持たなければいけない」と大手は動いている。メキシコの重要性は物凄く上がっています。アセアン経済共同体(AEC)とTPP参加国が殆ど重複しませんので、ここの最適調達をいま業界が再計算しているところですね。

■「トランスミッションが伸びている」
三浦編集長:いま「海外に出るに出れずに国内でどんどん絞られていく」といった中小の部品メーカーが多くありますが、これからに期待を抱くことはできるでしょうか?

中西氏:日本の地場産業にとって「日本から出すものの関税が下がる」というTPPのメリットは現実的にあるでしょう。いずれにしてもメリットデメリットの双方がありますが、調達構造の大きな変化のなかで捉えるのが重要です。マクロで言えば日本のトランスミッション(エンジンからの動力をタイヤに伝える変速機)は伸びるているんですよ。エンジンは世界中で現地生産が進んでいるにかかわらず、トランスミッションはどんどん日本に投資されている。なぜかと言えば、トランスミッションは技術上の問題でコピー出来ないみたいなんです。ATに関するサプライチェーンは日本から出す量がどんどん増えていて、どんどん機械の需要が出ている。そして機械を作るサプライチェーンがまた繁盛する。そういった形で局地的に伸びている分野もあるんですよ。コンチネンタルやZFなど欧州勢がライバルとなりますが、注目すべき分野だと思います。

編集部:本日はお忙しい中、お二人にはお時間いただきありがとうございました。

【対談】中西孝樹氏に聞く「TPP参加で自動車業界は勝ったのか?」

《本折浩之/HANJO HANJO編集部》

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