【ジャガー XE ディーゼル 試乗】ジャガーにしか成し得ない個性とダンディズム…武田公実

試乗記 輸入車
ジャガー XE 20d
ジャガー XE 20d 全 9 枚 拡大写真

傑作が居並ぶ往年のジャガーの中にあって、スポーツカーの名作『Eタイプ』と並び称されているのが、1959年から10年間に亘って生産された『マーク2』。

コンパクトながら美しい4ドアボディに、最大で3.8リットル/220psという大排気量・高出力の直列6気筒DOHCエンジンを搭載。1960-70年代のヨーロッパで大人気を博したツーリングカーレースでも活躍したことから、「スポーツサルーン」という概念を世界で初めて構築したモデルの一つと言われている。

そして話題は、一気に21世紀の現代へと飛ぶ。昨年から日本市場でも販売が始まり、2016年3月期の決算でジャガー・ランドローバー・ジャパンに過去最高の実績をもたらす原動力となったという『XE』は、ジャガー自らが「マーク2の再来」をアピールするモデル。デビュー当初、日本市場では2リットルの直列4気筒直噴ターボ、ないしは3リットルV6スーパーチャージャーからなるガソリンエンジン搭載車のみがカタログに乗せられていた。

しかしこの春、上級に当たる新型『XF』の国内デビューと時を同じくして、待望のターボディーゼル版の日本正規導入がスタート。このほど新型XFとともに、テストドライブの機会が与えられることになったのだ。

◆スポーツクーペのごとくスタイリッシュ

一昨年のワールドプレミアの際から思っていたことだが、ジャガーXEは実にスタイリッシュなサルーンである。

同じデザイン言語のもとに構築された新型XFと見比べると、たしかにサイズの小さい分だけ伸びやかさでは及ばない。しかし、低くてシャープなノーズから、リアエンドに向かって一気呵成に伸びるウェッジシェイプに、なだらかなファストバックのルーフライン。あるいはスッパリ落としたテールの処理によって「小股の切れ上がった」印象を得ているプロポーションは、ドイツ製プレミアムカーを中心に流行中の4ドアクーペをさらに超え、あたかもリアルスポーツカーのようにさえ映る。

XEのデビューの際、ジャガー・ランドローバー社がアピールした、自社のスーパースポーツ『Fタイプ』の4ドアサルーン版であるとの主張には、決して誇張はないだろう。あくまで筆者の私見ながら、所属するセグメントDプレミアムカテゴリーの中でも格別に美しい一台と考えているのだ。

しかもこれだけスタイリッシュならば、居住性の面ではいささか目をつむらなければならないかと思いきや、2835mmのホイールベースを生かして4人の乗員には充分なスペースが確保されている。ベーシック版の「Pure」であっても電動調節が可能なドライバーズシートのポジションは、周囲を走るミニバンやSUVはもちろん、ほかのセダンたちをも少し見上げるくらいに低いのだが、スポーティな姿勢がドライバーをやる気にさせてくれるばかりか、今やちょっとした「優越感」をも感じさせてくれる。

一方リアシートは、その気になれば運転手にステアリングを委ねるショーファードリヴンも可能なXFと比べてしまうと、たしかに広大とは言い難いものの、大人が快適に移動するという目的に適うだけのスペースは確保。長らくジャガー製サルーンの伝統であった「心地よいタイトさ」が実現されている、との見方もできよう。

◆ディーゼルであっても、生粋のスポーツサルーン

ジャガーXEのディーゼル搭載モデル、「XE 20d」系に搭載されるディーゼルは、ジャガー・ランドローバーが次世代の基幹エンジンとする4気筒ターボの「インジニウム」。2リッターの排気量から180psの最高出力を発生するが、XEがオマージュを捧げる往年の名車マーク2時代の大排気量・高出力エンジンとは、一見正反対の指向性を持つようにも映る。しかしディーゼルの特質を生かして、最大トルクは最上級・高性能版「XE S」に搭載されるスーパーチャージャー付ガソリンV6の450Nmに拮抗する430Nmに到達している。

このエンジンの印象については、まずは最も注目されているであろうノイズの件からお話ししよう。やはり低速域からの加速時には少々カラカラという独特の排気音が聞こえてはくるのだが、当代最新のディーゼルの常で不快な振動などはまったく感じられない。そして、市街地であっても一定以上のスピードに乗ってしまえば、エンジンからはほぼ無音。むしろ上級のXFと乗り比べてしまうと、クラスの違いを考えれば当然かもしれないが、ロードノイズや風切り音の方が少しだけ気になるところである。

それでもディーゼル特有の低燃費と、それに相反するような加速感は、エンジン音質のわずかな弱点を補って余りある。巧みなギアレシオとスムーズな変速マナーでポンポンとシフトアップしてゆくトルクコンバータ式8速ATは、低・中回転から野太いトルクを発生する「インジニウム」ディーゼルと非常に相性が良く、高速道路の合流などでも、あっという間に法定速度を超えそうになってしまう。また、スロットルレスポンスも非常に良いことから、あらゆる状況においてもストレスを感じさせられることなど皆無なのだ。

しかも、セグメントDミドルサルーンとしては世界でも唯一となる、アルミ軽合金を中核とするアーキテクチャーがもたらしたクラスを超えた軽量設計は、結果として名車マーク2の後裔に相応しいパフォーマンスだけではなく、フットワークにも繋がっているようだ。XEはクルマが動き出した瞬間から身軽で、さらにハンドリングも軽快。ストロークの深いサスペンションセッティングも相まって、ステアリングを向けた方向に、気持ちよくノーズを向けてくれる。

「インジニウム」ディーゼルは、今後ジャガー・ランドローバーから登場する直列4気筒ガソリンエンジンとのモジュラー化を前提としたエンジン。それゆえ、これまでのディーゼルに比べると重量をかなり軽く抑えられているせいだろうが、XEの卓越したシャシーバランスを損なうことはない。そしてその特質は、まさに「スポーツサルーン」と呼ぶに相応しいハンドリングを、快適な乗り心地を損なうことなく獲得しているのだ。

ジャガーXEから感じられるのは、ジャガーだけにしか成し得ないユニークな個性とダンディズム。近年のセグメントDではドイツ勢だけに留まらず、アメリカや日本からも魅力的なプレミアムサルーンが続々と誕生しているが、こんなにクールなキャラクターを感じさせるのは、ジャガーXEをおいてほかには考えられないと思われる。

そしてその稀有なキャラクターは、エコロジーコンシャスなディーゼルであっても、間違いなく体現されている。それもまた、現代のジャガーならではのことと感じられたのである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

武田公実|自動車ライター/イタリア語翻訳家
1967年名古屋市生まれ、法政大学法学部政治学科卒業。コーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)でセールス/広報を担当したのち単身イタリアに渡り、旧ブガッティ・ジャパンに就職。その後都内のクラシックカー専門店勤務を経て、自動車ライターに転身した。現在では複数の自動車博物館でキュレーションも担当するほか、「浅間ヒルクライム」などのクラシックカーイベントにも立ち上げから参画している。

《武田 公実》

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