【土井正己のMove the World】起業家の街シアトルから世界へ羽ばたくMRJ

航空 企業動向
MRJ(三菱リージョナルジェット)
MRJ(三菱リージョナルジェット) 全 4 枚 拡大写真

シアトルは雨が多いと言われていたが、私が訪問した三日間は快晴に恵まれた。坂が多い港街は、春の日差しが眩しく、いかにもアメリカ西海岸というイメージだった。

シアトルは、アメリカの中でも、アントレプレナー(起業家)を生み出す街として有名だ。「マイクロソフト」を創設したビル・ゲイツは、シアトル育ち。また、「スターバックス」の第一号店もこの街にあるが、それを創設したハワード・シュルツもシアトルで育った起業家だ。ジェフ・ベゾスは、1994年にNYからシアトルに移住し、「アマゾン」を創設している。

◆ボーイングの街、シアトル

これだけの起業家を生み出すということは、何らかの環境、さらには産業基盤が存在する。航空産業である。シアトルは、「ボーイング」に代表される航空産業の集積地だ。航空産業のすそ野は、自動車のそれよりもさらに広い。特に航空機用の部品やIT技術、新素材技術などが求めら、小型の旅客機でもその部品点数は100万点を超えるという。自動車は3万部品と言われているので、約30倍の規模だ。

日本は残念ながら航空機分野で、米国に遅れている。理由としては、戦後7年間にわたって、米国により航空機生産を禁止されたことが大きい。1964年にYS-11が就航しているが、品質としての評価は高かったものの、技術競争には勝てず、1972年に生産が終了している。その後、日本は何度か旅客機の生産を試みたが、いずれも成功していない。やはり、一度崩壊してしまった航空機産業のクラスターを再生するには、永年の月日を必要とするということだろう。

◆MRJ、シアトルへ

そして、50年の時を経て出てきたのが、「MRJ(三菱リージョナルジェット)」だ。昨年の11月に初飛行に成功し、全国民が湧き上がったことは記憶に新しい。このMRJが、まもなく、シアトルにやってくる。認証をとるには、2500時間に及ぶテスト飛行を必要としており、米国の方が、テスト飛行の滑走路、テスト記録解析による技術調整などに適しているとの判断から、テスト飛行の現場を米国に移すことにしたというものである。やはり、シアトルには、それだけの航空機産業クラスターが存在する。

もちろん、その50年間、日本から航空機産業が消えていたわけではない。主翼、胴体、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの部品において、ボーイングなどへの納入率を向上させてきている。杉山勝彦氏の著書「日本のものづくりはMRJでよみがえる!」によれば、ボーイング787のケースで、日本企業の分担比率は重量比で35%という。こうした日本の技術は、軽量化、省エネに貢献しており、MRJの場合で、ライバル機に対して2割程度燃費で勝っているという。この数字は、航空会社のオペレーションコストの多く(3割程度)が燃料費であることを考えると圧倒的な競争優位を示している。

◆抜群の燃費性能で受注好調

MRJは、既に約400機の事前オーダーを受注している。今後20年間での市場規模が5000機といわれているので、400機というのは素晴らしい数字だ。未完成の段階からオーダーがこれほど入るというのは、「三菱ブランド」への信頼性から来るものだろう。先駆者でありライバルでもある「エンブラエル」(ブラジル)や「ボンバルディア」(カナダ)とも互角以上に渡りあえるはずである。

しかし、MRJにおいてもエンジンはP&W製であり、機体全体の日本企業の分担比率は、3割程度に留まっており、ボーイング787の場合とさほど変わらない。しかし、日本での生産が本格化してくれば、生産拠点としている愛知県を中心に航空機産業クラスターが発達して、日本企業比率は上昇し、競争力がさらに増していくことを期待したい。

◆自動車と共に「世界一」を目指せ
かつて、戦後、日本で航空機生産が禁止された時、多くの航空機エンジニアが、トヨタや日産、富士重工などに流れ、日本を世界一の自動車大国に仕立て上げた。今度は、自動車の技術者も一緒になって、「日本が小型旅客機で世界一を目指す」というのは、充分可能なことだと思う。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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