【川崎大輔の流通大陸】ミャンマー新政権が落とす自動車市場への影

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ヤンゴン市内
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2015年11月の総選挙ではアウン・サン・スーチー女史が率いる野党のNLDが勝利を収めミャンマーでは新政権が4月からスタートした。現地ミャンマー中古車輸入企業は今後の自動車市場の動向どのようにとらえているのだろうか?

◆ミャンマー自動車市場の現状

自動車は税収面でのインパクトが強く多くの利権が絡むため不透明な部分が今まで多かった。ミャンマーでは2011年の民政移管の際に、政府はスクラップポリシーを発表し完成中古車輸入を解禁した。20年以上たつ中古車をスクラップにすると1996年以降登録の中古車の個人輸入が許可された。更に2012年5月には個人に対する中古車輸入の大幅緩和が行われ、これが日本からミャンマーへの中古車輸入が急増する結果となった。

貿易統計データによれば、2011年の日本からミャンマーへの中古車通関台数は1万9621台であったが2012年には12万0805台へと急増。2015年データでは商用車を含めた日本からの中古車輸入台数は14万1066台となっている。財務省の輸出台数に関する貿易統計は20万円以下の輸出車はカウントされていないため実際の台数とは異なっており、輸入実数は更に多いといわれている。

しかしながら、2016年6月に訪問したミャンマーでの中古車輸出会社やディーラーでのインタビューによれば、4月以降特に自動車販売が鈍りだしたとの話を聞いた。

◆ミャンマーの中古車ビジネスにかかわる体積する課題

現地ミャンマーの中古車輸入会社“CARS ZONE CO.,LTD”の社長KYAW HTWE LWIN氏と共同経営者AUNG KYAW MOE氏によれば、車庫証明が2016年4月以降に急に認可されなくなったのだという。「前触れがない政府の締め付けや、ルール変更が激しいのはミャンマー中古車ビジネスの大きな課題だ」とLWIN氏は指摘する。ミャンマーを訪問したことがある方は経験をしていると思うが、ヤンゴン市内の交通渋滞は異常だ。歩いて10分ほどの距離であっても朝夕の渋滞時間には1~2時間かかってしまうこともある。

このような渋滞緩和のためにヤンゴン管区政府は2015年1月より自動車購入・輸入時の車庫証明取得を突然義務化した。ミャンマーは13区に分けて管轄されているが、車庫証明の提出義務化はヤンゴンのみである。4月からその車庫証明の申請をしても取得が行えなくなっており、自動車の購入ができない状況になっているという。

更に輸入車にかかる税金が高いという従来の課題も残っていたが、2016年6月1日から輸入車に対して新しい輸入税制(超過累進課税)を導入した。それにより、税金は更に上がることになる。今までは車両価格に対し固定の税率がかけられていた。しかし6月からは500万円の車であれば、約300万円までが15%の税率で計算され、残りの約200万は20%の税率となるような超過累進課税で計算されるようになった。更に右ハンドル規制の実施の有無と施行時期が不明であるという課題も残る。当初2018年からミャンマーで走れる自動車は左ハンドルのみにしようと政府が動いていた。しかし、通達など出ておらず関係者は不安な状態が続いている。

確かに新政権は4月1日から始まってはいるが、ミャンマーの正月を含む大型連休が4月にあった。そのため、実際に新政権が稼働をし始めたのは5月、6月に入ってからなのだろう。6月15日に政府から何かしらの通達が出るといわれている。自動車関係者は通達が出るまで様子を見る考えで、市場は沈静化している。ミャンマーで自動車ビジネス関係者にインタビューをしてみて個人的に感じたのは、新政権になってからの方向性の不透明さが最も直近の大きな課題であり、市場の動きを停滞させてしまっている原因となっている。

◆“CARS ZONE”の中古車ビジネス

“CARS ZONE”は、社長及びナンバー2も日本語を話し、日本とのネットワークも強い。それによって仕入れと販売の両方に他社との差別化を取れる状況となった。日本側との交渉が直接でき、自動車の詳細なオプションなどについてもしっかり顧客に説明できるためである。主体を卸売りとし、仕入れの80%以上業者に販売している。小売りも行うが、現地の友人ネットワークにしか販売していない。一般には現車を見てから購入をしたいユーザーが多いためだ。

しかし、現車を見ないでも購入できるような信頼関係が築けた顧客のみを対象とした販売をおこなっているのが特徴だ。”CARS ZONE”の日本からの中古車輸入台数は2012年から2014年は月100台以上、2015年には月80台ほどであったが、直近の2016年5月には月10台ほどへと激減した。今後、政府の動きを慎重に確認していく必要があるだろう。今後のビジネスの展望としては、「中古車ビジネスはやめることはないが、整備・パーツビジネスなどの自動車アフタービジネスへの参入を検討し、ビジネスポートフォリオを見直しする必要がある」とLWIN氏は考えている。

◆ミャンマー中古車ビジネスのこれから

「現在の中古車の流れとしてはヤンゴンから郊外、特にマンダレーへ中古車が流れている」とLWIN氏が指摘する。ミャンマーの自動車保有台数の7割がヤンゴンに集まっているといわれている。保有台数60万台のうち約42万台がヤンゴンにあることになる。ヤンゴンの人口を約600万人とすると、ヤンゴンエリアにおける1000人あたりの自動車保有台数は70台。ヤンゴンを除く地方では1000人あたりの保有台数が3~4台となる。ヤンゴンの中古車ディーラーのオーナーは「最近は地方からのお客様も多い。マンダレーからが特に多い。今だとヤンゴンのお客様とマンダレーからのお客様は同じくらいの数」という。マンダレーへの流れは加速していくことは間違いない。

更に、今後は中古車の販売そのものをビジネスとするのではなく、LWIN氏が描く展望のようにアフタービジネスへの参入がポイントになっていくことだろう。ヤンゴンでは自動車市場の急拡大とともに、自動車修理需要も拡大してきている。トヨタ、三菱、日産はヤンゴンで自動車点検整備を行うアフターサービス店舗を展開している。

2011年以降に規制緩和によって一定レベルにまで自動車が行き渡ったヤンゴン。今後は新たなビジネスエリアや領域の可能性を検討していく1つ上のステージに突入するのであろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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