【メルセデス GLS 3300km試乗 後編】見た目よりも実力、旅の楽しさ広げる一台…井元康一郎

試乗記 輸入車
未舗装路のアンジュレーションに対し、GLS350dのサスペンションはしなやかな動きを見せた。
未舗装路のアンジュレーションに対し、GLS350dのサスペンションはしなやかな動きを見せた。 全 39 枚 拡大写真

メルセデス・ベンツの大型SUV『GLS350d 4MATIC Sports』で3300kmほどツーリングする機会があったのでリポートをお届けする。前編ではドライブフィールと動力性能について述べた。あらゆる路面で感じることが出来た静粛性の高さと滑らかさは、驚愕のレベルだった。

◆俊敏さも路面を選ばず

高速道路主体のドライブは、下道に比べると風景の変化や文化との出会いに乏しく退屈なものだ。が、今回は出身地鹿児島の高校同窓会に出席すべく、同期生が乗り合わせてのドライブ。雑談に興じながら走っていれば、いつのまにか距離が伸び、郷里が近づいてくるという感があった。その5人の耳を楽しませてくれたのは、ハーマンカードンのオーディオ。5人の中にたまたま音響機器の開発を手がけるエンジニアがおり、音質評価用のハイレゾ音源を持ってきていたので、試しにBluetooth接続でCD音源とハイレゾ音源を聞き比べてみた。すると、ボイスの質感や楽器のディテールなどに、一聴してそれとわかる明瞭な違いがあった。エンジニアいわく、スピーカーの性能がある程度良くないと差が出にくいとのこと。GLSのオーディオは少なくともハイレゾを再生する意味があるだけの性能は有しているようだった。

途中で旧友に会ったり記念写真を撮ったり、はたまた温泉に入ったりと、あちこちに寄り道しながらほぼ24時間をかけて鹿児島にたどり着いたのだが、高校卒業後30年を経た5人がひとりとして身体に違和感を覚えたり、強い疲労を覚えたりしないまま走りきったことは、素直にすごいことだと思われた。ちなみに筆者も常時運転したわけではなく、2列目シートにも結構長時間座り続けてみたりしたのだが、前席以外のシートもプレステージセダン並みのエルゴノミクス性能を持ち合わせているようだった。

帰路は1名乗車。こんどは高速道路に加え、バイパス、ワインディングロード、グラベル路などさまざまな道を走ってみるとともに、半自動運転などの機能も積極的に使ってみた。

グラベルを走ってみたのは九州・大分の山岳地帯。タイヤがピレリ「P ZERO」295/40R21という完全なオンロードタイプだったためちょっと試してみる程度だったが、舗装路とは比較にならないほどきついアンジュレーションに対してもサスペンションがよく追従し、4輪が路面をよくホールドする特性を持っていることは確認できた。GLSは重量級のボディを止めるために巨大なブレーキが装着されているが、ホイールリストを見ると19インチまではハマるようなので、それに適合するオールテレーンタイヤを履けば、岩場のトレイルのようなことはさすがに無理であろうが、普通のオフロードなら相当なところまで行けそうに思われた。

オンロードで特筆すべきは、タイトコーナーの連続するようなワインディングでことのほか俊敏な走りを見せたことだった。筆者が長距離試乗でベンチマークロードとして使う道のひとつに大阪~奈良間を結ぶ阪奈道路上り線がある。今回そこを走らせてみたのだが、直角カーブや90度超のきつい回りこみにおける敏捷性は、重量が2.5トン以上、前輪だけでフォルクスワーゲン『ゴルフ』1台分の荷重がかかる大型SUVらしからぬものだった。フロントサスをぐっと沈ませ、対角線ロールを安定的に維持したまま弱アンダーでコーナリングをクリアするあたりは、スポーツカー的ですらあった。

「ディストロニック・プラス」と名づけられたオートクルーズの性能は十分に高かった。高価なミリ波レーダーを6個も搭載し、前方はステレオカメラでも監視するなど全身ハリネズミ状態のセンシングを行っているため、他車との競合が起きたときの判断もおおむね適切だった。機能説明によれば、緊急時にはクルマが全周囲の状況を判断してもっとも被害が少なくてすみそうなところに逃げる機能も実装されているそうだ。車線の失探率も低いが、日本独特の白線に迷わされることが時々あった。とくにサービスエリアや高速出口分岐では、車線ではなく路肩の線に沿って進みそうになることがあった。オーナーは分岐付近ではちょっと注意を払ってやるとよいだろう。

◆車両重量を考えればリーズナブルな燃費

燃費は超重量級であることから絶対的には悪いが、それでも車両重量を考えればリーズナブルであった。4~5名乗車、エコランなしで高速を主体にクルーズした往路は1520.4kmを走って134.2リットルの軽油を消費。通算燃費は11.3km/リットル。薩摩半島南端の長崎鼻やタツノオトシゴの養殖場がある番所鼻など、鹿児島県内をツーリングしたときが171.5kmを走って給油量16.2リットル、燃費は10.5km/リットル。帰路は高速道、山岳路、郊外路などを取り混ぜて1649.3km、一部区間でエコランを試しながら走り、給油量は132.7リットルで燃費は12.4km/リットルだった。

このクラスのクルマを購入する顧客層は、さすがに燃料代の些細な多寡を気にするようなことはあるまい。が、フルサイズSUVとして燃費が良いことは、航続性能の面で大いにポジティブに受け取られるものと考えられる。GLSのタンク本体の容量は100リットルだが、供給パイプの容量に相当の余裕があるとみえて、給油警告灯が点灯した時点で100リットル以上入る。この燃料搭載量とディーゼルならではの燃費の合わせ技で、長距離走行においては余裕で1000km以上のレンジを確保できる。

今回、もっとも給油のインターバルが長かったのは帰路、鹿児島から愛知県の蒲郡までの1270kmだった。これなら東京に住む顧客の場合、中部山岳地帯のリゾート地を周遊するくらいの旅なら余裕で無給油踏破できるはずだ。また、GLSは優速で巡航すると燃費が落ちる一方、80~90km/hでのんびり走れば燃費が格段に上がる傾向があった。堪え性のない筆者には到底無理だが、我慢強いドライバーなら高速でエコランに徹して鹿児島から東京までの約1400kmを無給油で乗り切ることも十分可能だろう。

◆日本では希少かつ貴重な存在

まとめに入る。GLS350dは、車両価格1200万円のクルマを購入、維持する経済力を持つ顧客にとっては、遠くへ楽しく、安全に旅する楽しみを広げてくれるツールとして、とても良いクルマだ。ただし、その良さの大半は性能、乗り味、機能面に集中しているため、見目麗しい外観、ゴージャスな内装といった造形的エモーションを求める人には最初から向かない。ちなみにGLSには最高出力600ps近いAMGをはじめ、ハイパワーなV8ガソリンターボ搭載版もあるが、スピードを出す場所がほとんどない日本では3リットルディーゼルで十分すぎるほどの楽しみを味わえるだろう。

3列シートのプレミアム・フルサイズSUVという特殊性から、ライバルは少ない。日本市場ではレクサス『LX』、ひとつ下のEセグメントの上限で価格的にも近いボルボ『XC90』のプラグインハイブリッドくらいだ。3列目をエマージェンシー(長距離でも十分に耐えられるが)とみれば、ランドローバー『レンジローバー・スポーツ』などもライバルと見なせるだろう。ポルシェ『カイエン』やBMW『X6』なども価格面では比較的接近しているが、性格が違いすぎてぶつからないだろう。ヘビーデューティ要素もある程度満たしながらハイレベルな快適性と高速性能を持つモデルの需要はもともと日本では少なく、各社とも積極投入はしていない。それだけに、そういうクルマが欲しいというカスタマーにとっては、GLSは結構貴重な存在であるのかもしれない。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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