【VW ゴルフGTE 4000km試乗 前編】ロングツアラーとしてほぼ理想的な乗り味…井元康一郎

試乗記 輸入車
VW ゴルフGTE 4000km試乗
VW ゴルフGTE 4000km試乗 全 20 枚 拡大写真

フォルクスワーゲンのCセグメント・プラグインハイブリッド『ゴルフGTE』で4000kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

ゴルフGTEが日本市場に導入されたのは2015年9月。価格はオプションなしで469万円と、ゴルフとしてはきわめて高い。が、フォルクスワーゲングループジャパンによれば7月末までに700台ほどが販売されたとのことで、標準モデルとの価格差をはねのけてセールスは好調らしい。

◆ロングツアラーという観点ではほぼ理想的な出来。ただし…

スペック概要をおさらいしておこう。ハイブリッドパワートレインはエンジン150ps、電気モーター109ps、ハイブリッド混合出力の最高値は204ps。外部電源からの充電が可能なバッテリーパックの総容量は8.7kWh。変速機は6速デュアルクラッチ(DCT)の「DSG」。ボディ、シャシーはガソリン車のスポーツモデル「GTI」に近似した仕様だが、車両重量は1580kgと、1.4リットル+7速DCTの「ハイライン」より260kg、GTIより190kg重い。フォルクスワーゲンは2013年から今夏まで北米で1.4リットルターボ+7速DCT(混合出力170ps)の『ジェッタハイブリッド』を販売していたが、スペックシートを見るかぎり、GTEのパワートレインはそれとはシステム全体が別物であるようだ。

試乗車は可変減衰力ショックアブゾーバー、225/40R18タイヤなどからなる「DCC(ダイナミックシャシーコントロール)パッケージ」が装備されていた。試乗ルートは東京~鹿児島の周遊。往路は京都北方の丹後半島から山陰回り、復路は宮崎、大分経由で門司港に至るなど、大回りルートを選択。高速道路、市街地、郊外路、山岳路などをくまなく網羅した。総走行距離は4015kmで、うち燃費計測区間はジャスト4000km。走行条件は9割がドライ路面、エアコンAUTO、鹿児島県内ではほぼ全区間複数人数乗車、それ以外は1名乗車。

まずは4000kmツーリングを通して得られた総合的な印象から。ゴルフGTEはスポーツハッチとして十分に速いと言える動力性能と驚異的に懐の深いシャシー性能、そして至極良好な乗り心地を持つ、ロングツアラーという観点ではほぼ理想的な乗り味を持つCセグメントモデルだった。とくにドライバーの運転技量の高低によらず、誰もが道を選ばず速く、かつ安全にドライブすることを可能とする、もっちりとした粘りのある独特のロードホールディング性は秀逸至極の一言だった。ハイパワーハイブリッドとしてみれば、ツーリング燃費も十分良好だった。

ネガティブ面は電気駆動の効率がトヨタ、ホンダの2トップに後れを取っていること。パワートレインの絶対的パフォーマンスは良いが、切れ味、高揚感では同社の純ガソリンスポーツエンジンに比べて劣ること。大型バッテリー搭載によって本来優秀な荷室が犠牲になっていることなど。また、クルマ単体の良し悪しではないが、普通充電のインフラが脆弱で、かつ充電料金も高いため、ロングツーリング主体の使い方をする場合、プラグインハイブリッドを選ぶ意義は正直、薄いと思った。

◆日本のプラグインハイブリッドとの違いは顕著

では、要素別に見ていこう。ゴルフGTEの最大の技術的特徴となっているパワートレインから。混合最高出力204ps、最大トルク350Nm(35.7kgm)を発生するハイブリッドシステムは、日本のプラグインハイブリッドとは性格付けが大きく異なるものだった。

第一点はエネルギーマネジメント。日本勢の高効率型プラグインハイブリッド、すなわちトヨタ『プリウスPHV』やディスコンとなったホンダ『アコードプラグインハイブリッド』がEV走行、ハイブリッド走行をミックスさせ、トータルでの効率を限界まで引き上げることを狙っている。それに対してゴルフGTEは他のヨーロッパ製プラグインハイブリッドがそうであるように、Eモード(電気駆動)時はフルスロットルでもエンジンがかからずモーターだけで走る完全なEVとして機能する。かりにエンジン駆動を併用したほうが効率面で有利な領域であっても、だ。ゴルフGTEは欧州のCO2規制やアメリカのZEV(ゼロエミッションビークル=走行時に排出ガスを出さないクルマ)規制への対応を第一目的として作られたクルマ。その成り立ちがまさに出ていると言える。

Eモード以外ではハイブリッドとして機能するが、それも2面性がある。GTEモード(高出力)時は通常走行のさいも積極的にバッテリーに電力を蓄え、ここぞという時にフル出力を連続で発揮できる準備をする。ノーマルモードでは一転、ハイブリッドによるアシストは限定的となる。

トヨタやホンダのハイブリッドは発進時の加速Gが弱いときはモーターのみでスルスルと発進する。それに対してゴルフGTEは少し動き出すとエンジンがかかる。巡航時もスロットル開度が少し大きめになるとモーターのみの走行ではなくなる。フル加速時はモーターアシストが結構強力に効くが、通常加速時はモーターアシストはごく弱く、あくまでエンジンを主体として走らせるというイメージである。

また、トヨタ、ホンダのハイブリッドはエンジンの効率の良いところを積極的に使って発電し、トータルで燃費を稼ぐ制御を徹底的に行っているが、ゴルフGTEの場合、ノーマルモードでは加速時や巡航時のエネルギー回生についてそれほど緻密に行っている印象はなく、その点についてはマイルドハイブリッド的だった。

今どきの欧州車らしさを感じさせるポイントはクルーズ時のパワートレイン制御。通常、ハイブリッドカーはスロットルを全閉にしたさい、モーターに少しだけ発電させてエンジンブレーキのような減速Gを作り出している。ゴルフGTEの場合、平地でスロットル全閉にするとエンジンが停止し、モーターはアシストも発電もしないという完全空走状態になる。燃料消費を抑えたい場合は、この空走を上手く活用してやるのが有効。普通のクルマを運転する時のようにスロットルをわずかに踏んでクルーズすると燃費が落ちる傾向にあった。

燃費、電費の詳細については別稿に譲るが、過剰なエコランをせず、クルマの運動エネルギーを上手く使うことだけに配慮して走った場合のおおまかなハイブリッド燃費のイメージは、高速道路での100km/h巡航時が約20km/リットル、山岳路を含む地方道をシャキシャキと走った時が17~18km/リットル、市街地走行が13~14km/リットルといったところだった。200ps級ハイブリッドとしてみると、ロングラン燃費は十分に優秀、市街地ではいささか期待外れと言える。

なお、途中でしばらくの間、前述の空走を積極的に利用したエコランを試してみたところ、流れの良い郊外路ではあるが一応21~22km/リットルという水準で走ることはできた。が、少々の燃費インセンティブのためにクルマの運動エネルギー管理に神経を尖らせるのはあまり楽しいことではない。ましてや乗っているのはお楽しみ重視のGT系――ということで、長距離走行でエコランを貫く気にはならなかった。

◆走りのセッティングや味付けの良さが最大の美点

速さのほうは十分に満足の行くものだった。発進加速、中間加速とも悪くなく、Cセグメントスポーツハッチを自称できるラインは超えていた。高速道路のバリアの一般レーンを利用して何度か全開加速を計測してみたが、GTEモード、ブレーキペダルリリース方式でスタートしてみたところ、0-100km/h加速タイムは概ね6秒台前半と、数値的にはガソリン車のゴルフGTIとほとんど遜色ない水準であった。欧州のカタログ値7.6秒と大きく乖離している理由はわからないが、スタートからモーターアシストがドーンと効くGTEモードに比べてダッシュが明らかにマイルドなノーマルモードでの計測なのかもしれない。

速度域の低い日本の公道ではノーマルモードで十分に満足の行く動力性能で、山岳路や高速道路を含めてドライブの大半はノーマルで通した。「DSG」と称する6速デュアルクラッチ自動変速機(DCT)の変速フィールはスムーズだった。またハイブリッド走行時はEV走行状態を積極的に使わないためか、ギクシャク感は同じくDCTハイブリッドシステムを持つホンダよりずっと少なかった。

シャシーに話を移す。走りのセッティングや味付けの良さは、ゴルフGTEの最大の美点だと感じられた。基本性格はGTの名にふさわしくグランドツーリングに最適化させたもの。欧州Cセグメントスポーツといえばルノー『メガーヌR.S.』やBMW『1シリーズ Mスポーツ』など、ステアリングの切れ角とロール角がぴたりと正比例するかのようなリニアセッティングを磨き上げたものが主流。それに対してゴルフGTEの足は、あたかも粘度の高い物質を練りつけるように、四輪がウネウネ、もったりと路面をホールドする。運転操作のミスや雑さ、路面コンディションの変化へのロバスト性を重視した、フォルクスワーゲンが本来最も得意とする“路面練りつき系”の味であった。動きが似ているのはメーカーも車種もまったく異なるルノー『カングー』。それの限界性能を大きく上げたようなイメージだ。

阪奈道路上りの直角コーナーが連続するような場所でも、ステアリングを切ればフロント外側のサスペンションがスムーズに沈み込み、加速姿勢に入るまで前輪に十分に重さがかかる姿勢が自然と維持される。前輪駆動車ではあるが流れ出すとすればリアからで、クルマの動きに対する信頼感、安心感は非常に高い。それが「何があっても大丈夫」という大船に乗ったような気分を作り出している。その後、路面の荒れた箇所が随所にある名阪国道のクルーズでは、アンジュレーション(路面のうねり)や舗装の補修痕、轍などをサスペンションとブッシュで柔らかくいなす動きが素晴らしいフラットライドを生み出していることが感じられた。

実は今回、ゴルフGTEを借り出してから帰路の途中までは、シャシーセッティングは良好とは感じたが、秀逸とは思わなかった。段差の乗り越えやアンジュレーション通過などで足回りに雑味を感じさせるようなフリクションがあったからだ。さすがにゴルフのシャシーで1.6トン近い重量になると難しい部分もあるのかな、などと思っていたのだが、積算距離が5377kmの状態でクルマを借り、8000km台半ばくらいに差し掛かったあたりから、クルマの動きや乗り心地がにわかに良くなった。広報車は主に自動車メディア関係者が運転するため、負荷は普通のクルマより高いであろう。2割ほど余裕を見て、一般的には1万kmを超えたあたりから本来の動きになるのではないか。

車内のロングドライブ環境は、良いところと悪いところが交錯していた。良い部分は運転姿勢がナチュラルであること、シートポジションを高く取っても低く取っても体に変なストレスがかからないこと、左ハンドルに適合させたシフトレバーまわりを除き、操作系がすっきりとロジカルにまとめられていたこと。悪い部分は大型バッテリーによってトランクルーム容量が大幅に小さくなり、かつ充電ケーブルが小さい荷室に鎮座していること、CDやSDカードなどのメディア挿入口がなぜか助手席前のグローブボックス内にあり、ロンリードライブではメディア交換に苦労したことなどだ。

ドライバーズシートからの前方視界のひらけ方はとても良く、昼夜問わずロングドライブ時の眼精疲労の少なさは特筆すべきものがあった。ただ、LEDヘッドランプは自動ハイビーム機能を持っておらず、夜間走行ではハイ・ローを自分で切り替えなければならない。高いクルマなのだから自動ハイビーム、できれば対向車や先行車をよけてハイビーム照射するインテリジェント配光は標準装備にしてほしかったところだ。休憩を取らずに長時間連続走行を敢行した後の身体疲労は、十分に少ないレベルにはあるものの世界トップランナーでもないように感じられた。ただ、少々疲れてもドライブを前に進めたいという意欲のわく運転フィールはあるので、道端見物を兼ねて時折小休止すれば問題はなかろう。

後編ではプラグインハイブリッドとしての燃費や電費、充電インフラの実情、旅行情報などをお届けしたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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