【インタビュー】NVIDIAの自動運転プラットフォームが目指すもの...オートモーティブ事業キーマン、ダニー・シャピーロ氏に聞く

レスポンスでは「GTC Japan 2016」開催中にNVIDIAのオートモーティブ事業部シニアディレクターを務めるダニー・シャピーロ氏に単独インタビューを行い、実用化に向け加速する同社の自動運転プラットフォーム戦略について話を聞いた。

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ダニー・シャピーロ氏(オートモーティブ事業部シニアディレクター)
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◆自動運転実現に向けたNVIDIAのテクノロジーとは

----:日本でも発表された「Xavier」は次世代の「Drive PX」となるのでしょうか。もしくは上位版の位置づけでしょうか。

シャピーロ:実際に市場に投入できるまでには1年以上かかりますので、そういう意味では次世代チップと捉えていただいていいと思います。2週間前にアナウンスしたばかりのものですが、一番のポイントは、現行の大型なシステムで開発を進めておいて、実際に商用でリリースする際にはサイズがさらに小さくなった形で出せるということです。新しい商用化に耐えうるようなチップが出てくるのを待つのではなく、出てくるという前提で今から開発を進め、そのチップが出てきたらそれに合わせてローンチできる、というやり方です。Xavierに関しては、自動車業界と継続的にやり取りをしていますので、自動車OEMメーカーのニーズをきちんと取り込んだ上でオートモーティブグレードのチップを実現していきたいと考えています。Xavierは現在3つあるSoCの中で、4基のプロセッサを積んだ最上位のものと同等のパフォーマンスを実現しながら、電力消費は4分の1に抑えています。

----:「AutoCruise」はまた違うものなのでしょうか。

シャピーロ:「AutoCruise」には幅広い機能が入ってきます。運転者に警告を出すといった、レベルとしては高くない自動運転の初歩的な仕組みですね。しかし、それにはADASをはるかに超える機能が入っていますし、膨大な計算能力が必要になります。アーキテクチャは拡張性高くデザインした上で、まずは4プロセッサバージョンを出し、後々スケールダウンして電力消費を抑えるなどローコスト化を図ることができます。完全な自動運転を実現するだけのデータインプットが提供できないにしても、オートクルーズレベルは可能にできるという、そういった考え方のものです。私たちは特定の自動車メーカー専用として開発しているわけではなく、オープンプラットフォームとして開発をしています。ですので、会社によっては同じ弊社のソフトウェアを使っていても高速道路向けのオートクルーズのものにするかもしれませんし、街乗りの際の自動運転にするかもしれない。また、完全な自律運転のものを考える会社もあると思います。基本的にはそういった使い方のソフトウェアですし、継続的にアップデートも行っていきます。どんどん使える機能をアップデートして提供していくという、スマホのアプリをより良くアップデートしていくのと同じ感覚ですね。

AutoCruise

----:「Drive PX 2」のI/Oは共通化されたものなのでしょうか。

シャピーロ:基本的に自動車用ワイヤーハーネスのコードが接続できます。ジョイント式のタイプなので、様々なインプットを入れることが可能です。現状としてはハーネス用の設計ですので、自動車メーカーやTeir1の部品メーカーが少し改良して使うということはあり得ると思います。

----:リファレンスモデルとなるのでしょうか。

シャピーロ:正確にはNVIDIAで製造しているわけではなく、チップもTSMCにOEMでお願いしているものです。私たちは、アウディやBMW、ホンダといったお客様と相談をしながら、各社とお付き合いのあるTier1の部品メーカーへのアドバイスを差し上げるようにしています。

----:PC向けのグラフィックボードのように、モジュールを差し替えて使うことは可能なのでしょうか。

シャピーロ:そこまで標準化が進めば願ったり叶ったりです。WindowsのマシンのPCI Expressのように、モジュールをプラグイン/アウトで抜き差しできるようなところまで行きつけばよいのですが、自動車メーカーはそこまでは行っておらず、各社独自でカスタマイズはしている状況です。例えば車載インフォテイメントですと、ビジュアルコンピューティングモジュールを5年前に発表しており、アウディやテスラに使っていただいてますが、ソフトウェアとOSはバラバラなのが現状です。

----:「DriveWorks」もリファレンス的な発想なのでしょうか。

シャピーロ:ゲーム業界に置き換えると話が見えやすくなると思います。例えばNVIDIAはビデオゲーム自体の開発は行っていません。提供しているのは、ハードウェアやソフトウェアのドライバ、開発者がスムーズに開発を進めるためのミドルウェアやライブラリ、レンダリングエンジン、物理エンジン、そういったものをゲーム業界向けに提供しています。流体設計をする際に、NVIDIAのレンダリングテクノロジー、物理演算技術を使っていただければ、ゲームタイトルごとに1から開発する必要はありません。ゲーム業界に提供しているそういったツールやソリューションが「NVIDIA GameWorks」という形でパッケージになっています。

要は「GameWorks」を使ってゲームデベロッパーが素晴らしいゲームを開発しているのです。自動運転に関しても全く同じビジネスモデルで考えており、NVIDIAが提供するのはスーパーコンピュータープラットフォームと「DriveWorks」というソフトウェアの部分です。それを使って、各自動車会社が自動運転用のアプリケーションを独自で開発していただき、NVIDIAが提供するアルゴリズムであったりライブラリであったりディープニューラルネットワークを活用できるのです。

NVIDIAとしてはどれも提供することが可能ですが、自動車メーカーも差別化を図りたいという思惑があると思いますので、当然アプリケーションは各社独自で開発できますし、アルゴリズムを独自のもので組み上げたり、ニューラルネットワークも独自のものを使用したりできます。

----:今年の5月にテスラのレベル2の自動運転車が死亡事故を起こし、世界初の自動運転車による死亡事故と報じられましたが、それによって米政府による自動運転技術に対する規制や世論の逆風といった、ロードマップに影響を及ぼすような弊害というのはあったのでしょうか。

シャピーロ:自動運転車による事故ということで、消費者の関心も高く、今後のマーケティングのあり方や売り方、そしてテクノロジーについてもある程度影響を与えたと思います。まず消費者に対しては、自動運転車を買った際にその車がどこまでのことができるのかを正確に理解していただく必要がありそうです。またテクノロジーの観点からは、ADASやセンサーだけでは足りず、さらに多様なセンサーを通じてデータを収集した上で、より高度な計算能力で状況判断を行っていかないと、自動運転としては完全ではないことが世に問われた気がします。そして、テスラの車が積んでいたスマートカメラはアップデートできないことも問題点としてあったと考えています。例えば目の前でトラックが幅寄せしてハンドルを切るなど、種々の動作に対してソフトウェアアップデートで対応していくことが可能となるからです。

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《佐藤大介》

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