NHK大河『真田丸』最終回にビジネスパーソンが学ぶべきこと

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結果のわかっている戦いに向かって突き進んでいく真田幸村。そこには勇ましさと美しさと同時に、滑稽さや哀しさも滲んでいる。ビジネス最前線の風景に重ね合わせることも可能だ
結果のわかっている戦いに向かって突き進んでいく真田幸村。そこには勇ましさと美しさと同時に、滑稽さや哀しさも滲んでいる。ビジネス最前線の風景に重ね合わせることも可能だ 全 4 枚 拡大写真

 日曜夜8時から一年間にわたって放送されてきた大河ドラマ『真田丸』(NHK)が、12月18日、ついに最終回を向かえる。

 三谷幸喜が脚本を手がけた『真田丸』は豊臣家に仕えて、徳川家康を最後まで追い詰めた真田幸村(堺雅人)の生涯を描いたものだ。群雄割拠の戦国時代、豊臣秀吉の天下統一、秀吉の死後に起きた関ヶ原の戦いや大阪夏の陣といった天下分け目の大いくさと、その渦中で翻弄される真田家。描かれる物語は今まで大河ドラマを筆頭とする時代劇で何度も描かれてきたものだ。しかし見慣れたはずの物語が三谷の手にかかると、とても魅力的だ。

 物語は史実通りに進むため、幸村はもちろんのこと豊臣秀吉(小日向文世)や徳川家康(内野聖陽)の顛末もすでにわかっている。ミステリーなら最初から犯人がわかっているネタバレ状態なのだが、それでも面白いのは幸村を筆頭とする各登場人物が、自分たちが辿る結末を知らず、必ず勝つものだと信じて疑わないからだろう。 結果のわかっている戦いに向かって突き進んでいく幸村たちの姿には、勇ましさと美しさがあるが、同時に滑稽さや哀しさも滲んでいる。 

 『真田丸』を見始めた当初は、三谷がこの作品をシリアスな歴史ドラマとして描こうとしているのか、コメディとして描こうとしているのかが、よくわからなかった。物語の運び方こそ史実をしっかりと押さえたシリアスなトーンなのだが、何ともいえないブラックユーモアのようなものが全体に漂っていた。特に小日向文世が演じた豊臣秀吉の描写にそれは現れていて、ユーモラスで明るいお爺さんの秀吉が、気まぐれに見せる残酷な表情が実に恐ろしく、『真田丸』の持つ多面性を象徴していたように思った。

 膨大な資料を読み込むことによって紡がれた本作は、細部のディテールがしっかりしており、一年間50話という長丁場でありながら、物語には破たんがなく、完成度の高い物語となっていた。

 本作の当初の魅力は、乱世で生き残るために真田一族が知略の限りを尽くして戦う頭脳戦の面白さにあった。しかし、知略で武将たちがしのぎを削る戦いの世界はぐずぐずの政治的空間、つまり人間関係がすべての腹芸の世界によって、台無しにされていくのが『真田丸』の残酷なところである。本作では戦略を練る軍議のシーンが多い。そこでの議論パートは、合戦シーン以上に面白かった。これは今年大ヒットした怪獣映画『シン・ゴジラ』にも通じる要素だ。

 しかし、優秀な官僚チームによる超合理的な判断が国難を突破していくというオタク的感性の勝利を描いた『シン・ゴジラ』に対し、『真田丸』が描いている政治は、延々と日本で繰り広げられてきた腹の探り合いとプライベートの人間関係がすべてを決める生臭いモノだ。合理的に政治を進めようとしていた石田三成(山本耕史)が、密かに全国の大名たちと人間関係を育んでいた徳川家康に敗北するのも、そのためである。

 Twitter等のSNSでの感想で「もしかして、豊臣家が徳川家に勝つんじゃないか?」という意見をたくさん見たのだが、そう思ってしまうのは、三谷幸喜の脚本があまりにも巧みで、幸村の思いついた作戦がその時点では完璧に見えるからだろう。しかし、勝てたかもしれない幸村の完璧な戦略は、豊臣家が幸村たち金で雇われたフリーランスの牢人衆に不信感を抱き、連携できなかったために、中々実行に移すことができない。

 大阪城で幸村が立てた作戦はことごとく却下されていく。その都度、幸村は新しい作戦を考えるのだが、方針が決まらずにモタモタしている間にどんどん選択肢がなくなっていくのだから、見ていてやりきれない。こういった場面は現代社会でもよくあることだろう。さながら正社員と派遣社員の間にある深い溝のようなもので、豊臣家の血縁で固めた宿老と牢人衆の間に挟まれて苦しむ幸村の中間管理職的な姿を見て、自分のことのように思えて切なかった会社員の方も多かったのではないかと思う。

 だから、本作を見ていると人がどのように負けていくのかがよくわかる。さながら“敗北辞典”とでも言うような作品である。

 思えば、12年前に三谷が書いた大河ドラマ『新撰組!』(NHK)も敗北の物語だった。三谷は歴史を勝者ではなく敗者の視点から描こうとする作家だ。だが、それは死にゆく武将たちの姿に「滅びの美学」を見出しているからではない。だから、幸村は「私は勝つためにここ(大阪城)へやって来た」と語る。

 ところで、真田幸村という名前は、死後に講談などで後世になって広まった名前だったという。そのため本作では真田信繁という史実上の名前で物語を進めていったのだが、ではなぜ、三谷幸喜は信繁を、創作上の名前とされている幸村に改名させてから大阪城へと向かわせたのか? どうもこの辺りに『真田丸』の本質があるように思う。

 死に場所を求めて戦うのではなく、最後まで勝つために戦う幸村の物語がどのような結末を迎えるのか、とくと見守りたい。

■『大河ドラマ 真田丸』最終回/NHK/12月18日(日)【55分拡大版】
[総合] 午後8時00分~ [BSプレミアム] 午後6時00分~

★成馬零一(なりまれいいち)
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

《成馬零一/ドラマ評論家》

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