【ホンダ シャトル ハイブリッド 600km試乗】ライバル不在で優位には立てるが…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ シャトル HYBRID Z
ホンダ シャトル HYBRID Z 全 19 枚 拡大写真

ホンダのコンパクトステーションワゴン『シャトル』で甲州、駿河界隈を600kmあまりツーリングする機会があったのでリポートする。

シャトルはコンパクトカー『フィット』をベースに作られたステーションワゴン。高級ホテルに乗り付けられる上質なワゴン作りを目指したとは、開発陣の弁。デビュー当時のキャッチフレーズも「クラッシー・リゾーター」、すなわち高級リゾートエクスプレスであった。

試乗車は最上級グレード「HYBRID Z」のFWD(前輪駆動)。フィットハイブリッドと同じ、出力110psのエンジンとモーター内装DCT(デュアルクラッチ変速機)を組み合わせた混合出力137psのハイブリッドシステム「i-DCD」を搭載する。車両重量はフィットに対して約100kg増。

ドライブルートは東京・葛飾を出発し、首都高速、中央道経由で山梨・甲府に至り、その先北杜市のシャトレーゼ白州工場へ。その後、いったん勝沼に戻ってから富士川沿いに延びる国道52号線経由で太平洋側に出て、富士スピードウェイに立ち寄りつつ国道246号線および都道を通って葛飾に帰着するというもの。総走行距離は607.1kmで、うち燃費計測区間は549.9km。路面コンディションは3割ウェット、7割ドライ。全区間1名乗車、エアコンAUTO。

まずはロングドライブをやってみたトータルの印象から。シャトルは室内容積については申し分ない広さを持っており、大荷物を伴うレジャーをよくやるカスタマーにとっては適合性の高いクルマと言えそうだった。燃費も良好で、ツーリングのコストも低くてすみそうであった。半面、敏捷性、軽快感ではベースのフィットハイブリッドに対して少なからずビハインドを負うなど、重量増と前後の重量バランスの変化による弊害は顕著で、大荷物を積んだり車中泊をしたりといったことがないのであれば、フィットのほうが良さそうでもあった。

◆「クラッシー・リゾーター」のツーリング適正は

項目別に見ていこう。ロングドライブにおいて最も重要な性能項目と言えるシャシーチューニングは、基本的に安定側に振ったセッティングであった。高速道路における直進感は、コンパクトクラスとしてはまずまず。また、強い雨でヘビーウェット状態になったワインディングでも不安定な状態に陥ることはなく、動きそのものは及第点と言える。

が、ツーリングギアとしていいかどうかというと話が違ってくる。シートやステアリングからのドライビングインフォメーションが希薄というか、実際の動きとの一致性が低く、体感で走るには不安がつきまとった。スキーで言えば目の前にコブやギャップが出てくるたびに谷足をどうするか、腰をどう入れるかなどといちいち頭で考えながら滑るような感じである。また、少しきついコーナリングの途中、横Gはほとんど変わらないのに急にぐにゃっとロール角が変わったりするのは悪癖と言えた。

実際の性能は出ているので、インフォメーションはどうあれクルマを信じて強引に走ればいいのだろうが、ロングツーリングではクルマの速度やGを体感で把握できるクルマに比べると疲労蓄積度は高くなる。この点は同じプラットフォームを使うコンパクトセダンの『グレイス』がどんな道でも体感で走れてしまうという国産屈指のツーリング性能を見せていたのに比べて大きく見劣りするばかりか、シリーズの基本形であるフィットが動的質感こそ低いもののストレスや疲労の点では存外優秀だったのと比べてもかなり見劣りすると言わざるを得なかった。

シャシーチューンへの依存度が高い乗り心地についても、ロングドライブが嫌になるような味というわけではなかったものの、グレイスに比べるとかなり劣っているという印象だった。ちょっとしたハーシュネスに対する当たりはほどほどに柔らかいのだが、アンジュレーション(うねり)が大きい、舗装状況が悪いといったコンディション下では微妙なブルブル感が出てしまい、質感を損ねていた。

途中、グレイスに対してあまりにもビハインドが大きいのでおかしいなと思い、ガソリンスタンドに立ち寄って空気圧を調べてみたら、温間であるにもかかわらず冷間の規定より10%ほど低かった。そこで空気圧を修正してみたところ、フィーリングの悪さはやや解消された。タイヤの銘柄やコンディションの影響は結構大きめに出るようなので、シャトルのオーナーは空気圧チェックは通常よりマメにやったほうが良さそうである。

◆長距離でも安心な燃費性能

ハイブリッドパワートレインi-DCDはフィットハイブリッドと共通のもので、なかなか良い仕事をしていた。ウルトラスムーズというわけではないが、少なくとも大規模リコール前のフィットのような、不良品ではないかと思われるような変な動きはとりあえず解消していた。パワーフィールについては十分以上に良く、ダイレクト感もなかなか素晴らしいのだが、そのパフォーマンスを享受したければ省燃費制御を行う「ECONモード」はオフにしておくべきだ。

燃費は十分以上に良かった。走行距離549.9kmで給油量は23.1リットル、満タン法による実燃費は23.7km/リットルだった。平均燃費計の数値は24.7km/リットルで、乖離率は約4%。基本的にECONモードOFF、無駄な減速を排することだけに気をつけて走ったが、唯一、勝沼から途中で1回休憩を挟んで静岡の富士までの約100kmの区間でもうちょっと丁寧に走ってみた。そのさいの平均燃費計値は28.5km/リットルと30.7km/リットル。標高差350mぶんの位置エネルギーを差し引いても、27~28km/リットルくらいで走れそうだった。ガソリンスタンドの密度が薄い地方部で燃料残量が心もとなくなったときも、この程度のエコ性能があれば安心感は高かろう。

装備、仕様面でロングドライブ向きと思われる特性のひとつは、フラットな荷室だ。レスポンスにも寄稿しているジャーナリスト、山田清志氏がゴールデンウィークにシャトルで車中泊の旅を敢行していたので、自分も試しにリアシートバックを倒して寝転がってみた。果たして、シートアレンジでフルフラットにするのと比べても寝やすさは格段に上であった。アウトドア耐性の高い人なら寝袋一つでごろ寝できるであろうし、床の硬さが気になる人であってもキャンプ用マットを敷けばおそらく完璧だ。

旅館での宿泊を目的のひとつとする旅と異なり、勝手気ままなぶらり旅の場合は必ずしも旅館泊を満喫できるような時間に目的地に着くとは限らないし、旅館に一人で泊まるのは存外寂しいものだ。クルマの通行量が減る夜に距離を稼ぎたい場合もあるだろう。そんな旅において、走れるだけ走って深夜にクルマの中で快眠できるというのは、ハードなツーリングマニアには有難い特性といえる。それをハイトワゴンではない普通のステーションワゴンでやれるというのは、シャトルの大きなセールスポイントと言えそうだった。

◆ライバル不在で優位には立てるが…

まとめとライバル考。シャトルはフィットのリアセクターを延長したことで不恰好なプロポーションになってしまったことと、走り味のチューニングが低質だということの2点を我慢できるならば、アクティブなツーリング愛好家やレジャー志向の強いカスタマーにとっては悪くない選択だ。とくにラゲッジスペースは容量、使い勝手とも優秀で、デザイン上の犠牲はある程度報われている。

ライバルはコンパクトワゴン全般。サブコンパクトクラスのステーションワゴンはもともとモデルのバリエーションが少なく、直接ぶつかりそうなライバルはトヨタ『カローラフィールダー』と、ハイブリッドはないが日産『ウイングロード』くらい。また、ホンダのハイトワゴン『フリードプラス』もモデルのキャラクター的には近いか。

本編でシャトルの乗り味について少々厳しい話も書いたが、シャトルにとってもっけの幸いなのは、小型ワゴンの分野ではライバルも旧態化が進んでいたり、性能的に大したことがなかったりで、この性能でも相対的には結構優位に立てているということだ。もちろんそんなことで満足するのはホンダとして情けないことであるし、シャシーのポテンシャルにはまだまだ余裕がありそうなので、ランニングチェンジでさらに磨きをかけてほしいところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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