実際に本番で体験するのはごめんこうむるが、でもやってみたいことの一つが、飛行機からの脱出だろう。スライドで滑り降りたり、ラフトで水に浮いたりしたいと思っている人は少なくないはずだ。飛行機に乗ると離陸前にビデオや客室乗務員が説明するあれだ。
航空会社では乗務員が常日頃から客室救難訓練を行なっている。JAL(日本航空)がこの訓練を媒体に体験させてくれるという。しかも非常食の試食もできるという。これは行かねばなるまい。ある晴れた春の日、東京羽田空港整備場の一角、JAL第一テクニカルセンターへいそいそと向かった。
案内されてエレベーターを乗り継ぎ、渡り廊下を通り、1室のドアをあけて驚いたのは、そこに飛行機があったこと。もちろん実物ではないが、実物に近づけて作られたボーイング777だった。床の高さから上の機首部分が部屋の中にあるのだ。しかも機体のドアから中に入ると客室まで再現されている。訓練用だから実物が再現されているのは当たり前と言えば当たり前だが……。
そしてさらに驚いたことに、入口の部屋からは壁で仕切られて見えなかったのだが、機体のドアの外にはラフト訓練用のプールがあり、また別のドアはスライド訓練用の高低差のある、小学校の体育館ほどのスペースに通じていたのだ!
座席に座り、客室教育訓練部安全訓練グループの高木裕美子グループ長の説明を聞く。JALの客室救難訓練には初期訓練、型式訓練、復帰訓練、定期救難訓練と合わせて4種類があるそうだ。
初期訓練は新人対象に入社後に行われる、いわゆる新人訓練。日本人CAの場合、2か月間の訓練終了後国内線を乗務できるようになる。約1年間の国内線乗務の後、約1か月の国際線移行訓練を経て、国際線乗務が可能になる。海外で採用される海外基地乗務員の場合は3カ月通しの訓練となる。
客室救難訓練は初期訓練の中で早い時期に2週間ほどかけて行なう。「早い時期に行う理由は、安全について自覚を持つため。客室乗務員は保安要員でもあり、客室救難訓練を修了しないと客室乗務員の資格を持てず、制服を着てのサービス訓練もできない」と高木グループ長。
装置の取り扱い方法は機材によって手順が異なるので、乗務できる飛行機の資格を得るために行なうのが型式訓練、そして傷病休業や育児休職などで乗務しない期間が半年以上になったら行なうのが復帰訓練だ。
定期救難訓練は年に1回、誕生日月を基準に前後3カ月のタイミングで行なう。JALの全客室乗務員約6000人が毎年訓練を行ない、スライド滑走やラフト移乗の訓練も必ず行なう。救難訓練後の審査に通らないと乗務ができなくなる。
最近は地上職の社員も緊急時に援助者として協力するための研修を実施している。高木グループ長は「より多くの社員が緊急時に適切な行動が取れるように、地上職社員向けの研修を強化したい」と説明する。
★新人は救難訓練を終了しないとサービス訓練できない。
★全客室乗務員が年1回、訓練する。
★現役乗務員も定期審査に通らないと乗務できない。
取材協力:JAL(施設見学)
【安全の舞台裏 JAL】救難訓練体験
2. 滑走路を逸脱、海上へ[リンク]
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