【インタビュー】自動車の技術変革の最先端を走りたい…ZF ピーター・レイク取締役

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ZF ピーター・レイク取締役
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「人とくるまのテクノロジー展」の開催に合わせ、ZF取締役のピーター・レイク氏が来日。同氏はZF TRWセールス&ビジネスデベロップメントでアジアパシフィック地域を担当。TRWとの経営統合で得た成果や強み、今後の展望などについて聞いた。

ZFとTRWの統合で得た成果

----:ZFがTRWを買収し、経営統合してから2年になります。そこでまず、この2年でどんな成果があったのかを教えてください。

ピーター・レイク取締役(以下敬称略):今回の買収はユニークなものでした。製品群は完全にお互いを補完するもので重複する部分がほとんどなく、合理化や人員削減などをする必要がなかったのです。おかげですぐに市場でのシナジー効果に焦点を当てることができ、将来のサービス提供にあたっての製品群を揃え、顧客層を広げることができました。

統合は3ステップで進めています。最初はTRWのビジネスを単純に取り込むことで、次のステップはプロジェクトの統合。そして最後が「最終的に、各部門が物理的に統合する」ということで、これは現在も進行中なのですが、債務を減らしつつ研究開発費を増やすことができています。

----:統合されたことで、どのような新しい価値が生まれたのでしょうか?

ピーター・レイク:アクティブセーフティ、パッシブセーフティの双方で、TRWは大きな存在です。そしてZFはシャシーやステアリング、サスペンションなどモビリティの幅広い領域の技術でリーダーとなっています。ハードウェアだけでなくエレクトロニクスやソフトウェアにも優れた2社が一緒となったことで、車両の前後、左右、上下という3方向のすべての動作を制御できることになり、戦略目標の「See-Think-Act」を実現できるようになりました。

See(見る)はレーダー、カメラ、レーザースキャニングなどによって、車両の周囲360度を見渡せるようになるということ。Think(考える)はハードウェアとソフトウェアにAIが加わり、車両自体が思考できるようになるということです。Act(動かす)はアクチュエーターを車体の各所に配置することで実現します。

これによってアクティブセーフティ性能を高め、包括的なパッシブセーフティ能力を車両に持たせることができます。また自律走行を支援することも可能。これがZFのユニークな点です。これらを総合的に捉え、ここまで深く追求できるポートフォリオの幅広さと奥深さを備えた企業は他にないと自負しています。

日本での開発能力を増強中

----:では次に、アジアパシフィック地域における日本市場の位置付けと、今後の方向性について教えてください。

ピーター・レイク:現在、中核技術の開発は欧州と北米でおこなっていますが、日本でもエンジニアを徐々に増やしているところです。日本の場合、エンジニアの90パーセント以上は日本の顧客に向けた開発に携わっていて、残りはモーターなど電動モビリティ関連の先進技術開発に携わっています。

ZFジャパンでは今後、日本の顧客に向けた海外での作業を支援するというよりも、日本のブランチが日本の顧客のために活動するということが多くなっていきます。そのために、とくにソフトウェアや安全技術関連のエンジニアをたくさん確保しなければならず、そのリクルートに奔走している中根さん(ZFジャパンの中根義活社長)の黒髪が銀髪になってしまいました(笑)。

----:日本での人材確保や育成についてはどのようなビジョンを持っているのでしょうか。また日本の人材が世界で活躍できる機会が与えられる可能性はあるのでしょうか?

ピーター・レイク:わたしたちはグローバル企業ですから、他国での活躍というのもオープンに考えています。たとえば私はイングランドの生まれですがアメリカに暮らし、ドイツの企業のために働いています。中根さんも以前はアメリカで活躍していました。ですから日本で採用した人も日本の人材ではなく、すべての拠点にたいする「人財」(Hunam Asset)だと考えています。

多様性のあるスタッフがさまざまなアイデアを持つことで、企業はさらに強くなるのです。ですからもっとパワーと馬力が欲しいですね。日本の顧客のための意思決定も、もっと日本でできるようになりたい。わたしたちは能力があって意思決定もでき、行動できるという人を捜しています。

国ごとの違いよりも企業ごとの違いが重要

----:日本市場でのビジネスは、他地域と異なる部分もあるのでしょうか?

ピーター・レイク:高度3万フィートから見下ろせば、世界中のどの自動車メーカーもグローバルにビジネスを展開し、同じような課題を抱えているように見えるものです。ところが降下して目線を下げると、国ごとというよりも、企業ごとに違っているということがわかってきます。ですから顧客ごとのローカルな理解を促進し、その上で対応できるようにすることが重要です。

どの地域でも、それぞれに異なる特徴を持った自動車メーカーがあり、その違いこそが彼らのDNAになっています。DNAが異なるからこそ、彼らは互いに競っているわけです。わたしたちはサプライヤーとして、そのDNAや価値要因の違いを理解し、それぞれに対応するというのが使命です。

また一般的な目標としてZFは、アジアでより大きく成功したいと考えています。現在のところアジアパシフィック地域での利益は全体の22%ほどですが、今後は欧州や北米とバランスが取れるようにしていきたい。それには中国市場が大きな牽引力になるでしょうし、また日本の自動車メーカーにたいしても、存在感を発揮してゆくことが大きな目標ですね。

----:自動運転はいまや世界中の自動車メーカーが興味を持ち、開発を進めています。この分野でもメーカーごとに要求が異なったりするのでしょうか?

ピーター・レイク:これに関してはどのメーカーでも、あくまでレベル1~5という分類が基準ということは変わりません。ですから要求される機能はどこでも同じと考えていいと思いますが、どのレベルの技術がどのような比率で普及するのかということは、地域や国ごとに異なってくるでしょう。

不確実性と不安定性の時代

----:それでは最後に、今後の技術進化のアプローチについて教えてください。

ピーター・レイク:わたしたちは「ビジョン・ゼロ」というものを標榜しています。これは事故とエミッションをゼロにした世界を見てみたい、実現したいというものです。こうしたビジョンがあるからこそ、ゴールに到達するためにはどうしたらいいかを順序立てて考え、どういった技術が必要なのか、限られた財源をどのように投資するのかといったことが決まっていきます。

現在は自動車産業全体が、これまでになかったような大きな変革を迎えています。社内でも「不確実性」、「不安定性」という言葉をよく使いますよ。たとえばパワートレインでも、ハイブリッドならばマイルドなのかフルなのか、あるいはPHEVなのかEVなのか。いつ、どこで、どのシステムの市場が急速に立ち上がるのか、誰にもわからない状態です。こうした状況でも、すべてに物事を提供できるような強さとポートフォリオを揃えた上で、素早く動けるようにしたいですね。

とくにパッシブセーフティに関しては、今後かなり状況が変化していくでしょう。自動走行中の車内を想像してみてください。乗員が座席を横向きにしているかもしれないし、もしかすると寝そべっているかもしれません。いままでにない姿勢の人たちを、どのように守ればいいのでしょうか。エアバッグの位置や形、シートベルトのレイアウトなどさまざまなことが変わってゆくでしょうが、この変化はレボリューション(革命)というよりも、エボリューション(進化)の道を辿るのではないかと考えています。

ZFとしてはこうした変革の中に身を置こうと決め、20億ユーロの研究開発費を投じることにしました。これにはNVIDIAやフォーレシアといった他企業との提携も含まれます。そういうわけでZFはイノベーションのチャンスに満ちた中心地にいるという、刺激的で面白い環境にあります。そして、こうした技術的な変革の最先端を走るべく、努力を続けています。

《古庄 速人》

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