【インタビュー】自動車の進化を支える、もうひとつのキーデバイス---ウエスタンデジタル ラッセル・ルーベン氏

車載用フラッシュストレージの需要が急増している。この新しいマーケットに対して、ストレージソリューションのグローバルリーダーはどう挑むのか。ウエスタンデジタルオートモーティブマーケティングディレクターのラッセル・ルーベン氏に聞いた。

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ラッセル・ルーベン氏はウエスタンデジタルのオートモーティブマーケティングのディレクターとしてワールドワイドの車載向けビジネスを担当している
ラッセル・ルーベン氏はウエスタンデジタルのオートモーティブマーケティングのディレクターとしてワールドワイドの車載向けビジネスを担当している 全 10 枚 拡大写真

IoT機器が2020年までに500億デバイスに達するという。その中でもIoTの王様である自動車の進化は目覚ましい。IoT、つまりコネクテッドカー技術と自動運転技術、このふたつのトレンドが自動車に対して新たなキーデバイスの需要を喚起している。それがデータ記憶媒体(フラッシュストレージ)だ。ストレージ技術やソリューションを提供するグローバルリーダーであるウエスタンデジタルは、これまで脇役だった車載ストレージというマーケットに対してどう挑むのか。同社でオートモーティブマーケティングのディレクターを務めるラッセル・ルーベン氏に聞いた。


フラッシュメモリの需給に変化が生じている


ーーー:フラッシュメモリの価格がなかなか下がらなくなったと感じています。ストレージ業界にいま、何が起きているのでしょうか。

ルーベン氏:需要と供給の関係に変化が起きています。ひとことで言いますとIoT機器がものすごい勢いで増えています。Cisco社の調査によりますと2020年までにクラウドに接続するデバイスは500億に達します。さらに個々の機器内ではクラウドに送信されないデータも大量に扱われ、その量はクラウド通信の269倍だと言われています。そのデータ通信の保存のスペースに必ずストレージが必要とされるのです。クラウド側ストレージ需要も拡大していますが、機器向けのフラッシュメモリの需要はそれ以上に成長しています。
2020年までに接続されるデバイスの数は500億に達する

ーーー:IoT化が予測される機器はたくさんありますが、自動車に関してはいかがでしょうか。コネクテッドカーとも呼ばれて自動車業界では長期に渡って注目されている技術です。

ルーベン氏:コネクテッドカーは1日1台あたり72ギガバイトのクラウドとの通信が発生するといわれています。従来のインフォテイメントやプローブ情報だけでなく、通信でクルマのファームウェアやアプリケーションソフトウェアをアップデートするOTA(Over the Air)機能も開始されるでしょう。その他V2Xと呼ばれる対自動車や道路など直接通信なども含めると、コネクテッドカー全体の通信需要は50億テラバイトにも達します。
コネクテッドカーの通信は1台あたり72GBに達する

ーーー:自動運転技術も通信需要を生むのでしょうか。

ルーベン氏:ADAS、つまり自動運転技術の部分採用、全面採用が、まず車内の通信需要を押し上げます。同時にデータの保存スペースとしてのフラッシュメモリの用途拡大に我々は注目しています。これまでも、車載のNANDフラッシュメモリ(不揮発性記憶素子)はナビやインフォテインメントに使われていましたが、自動運転とコネクテッド技術への対応が進むなか、新しい用途が急増しています。たとえば自律走行のための高精度地図データや、デジタルクラスター(表現力の高い液晶メーター)、テレマティクスゲートウェイ(車車間通信、路車間通信など)、またOTAの場合は、途中で問題が起きたときに切り戻せるよう、以前の状態を保存しておくためのスペースも必要になってきます。我々は、必要とされるフラッシュメモリの量は自動車1台あたり1テラバイトに達すると見ています。
自動車のNAND需要の拡大は急速に進む
車載iNAND 製品サイト

3つのブランドを擁するウエスタンデジタル


ーーー:今回の車載用NANDフラッシュメモリは、「SanDisk」ブランドの製品ですね。サンディスクというとカメラ用のSDカードを連想するのですが…。

ルーベン:もちろんリテール向けのSDカードも作っていますが、ビジネスとしてはB2B向けのほうが大きく上回っています。たとえばモバイル機器用の組み込みNANDなども提供しています。

ーーー:ウエスタンデジタルのなかには3つのブランドがありますが、車載向け製品はサンディスクのブランドを利用するということですね。

ルーベン:はい、そうです。サンディスクは、フラッシュ製品のリーダー、WDはクライアントや消費者向け、HGSTはエンタープライズ向けと、ターゲットとなる市場によってブランドを分けています。
ウエスタンデジタルは3つのブランドを持ち、「サンディスク」は、フラッシュ製品、「WD」はクライアントや消費者向け、「HGST」はエンタープライズ向けと、ターゲットとなる市場によってブランドを分けている

ーーー:なるほど。サンディスクというブランドに車載のイメージがなかったのですが、出荷実績はどのようになっていますか。

ルーベン:はい、2012年からの出荷を行い、カーナビなどインフォテイメント用途で利用してもらいました。その後、2015年に第一世代のオートモーティブグレードiNAND e.MMCとSDカードを出荷いたしました。iNANDは組み込みソリューション向けです。IVIやデジタルクラスター、テレマティクス、自動運転システムなどです。そしてSDカードはリムーバブルメディアとして、ナビやドライブレコーダー用に使われました。

車載品質に応える必要がある


ーーー:車載ならではの性能要件があると思うのですが、他の製品との違いはあるのでしょうか。

ルーベン:インフォテイメント用途では、万一不良や故障が出ても命にかかわるような事故には繋がりませんでした。しかし、安全システムや自動運転のシステムを構成するパーツとなった場合には何よりも信頼性が求められます。そして、性能的には何といっても温度に対する要求が厳しいですね。温度が高いところでの信頼性を問われます。第二世代となる今回の新製品では、高い温度での信頼性に応えることをテーマとしました。NANDフラッシュメモリはそもそも高温に弱いのですが、摂氏-40度から105度に対応することができました。
安全システムや自動運転のシステムを構成するパーツとなった場合には高い信頼性が求められる

ーーー:そのような厳しい要件を、どのようにしてクリアしたのでしょうか。

ルーベン:当社はグローバルでストレージソリューションを提供してきた経験があり、ワールドワイドで1万3500件以上の特許を保持しており、一日200万個の製品を出荷しています。また、NANDの設計・製造・テストを垂直統合型で実現していますので、品質、信頼性が高いものを提供することが可能です。車載の動作温度要件に対応するには、コントローラーの設計がとても重要なのですが、当社自身でコントローラーを設計しているため、対応することができました。

そして車載向けに関しては、高い堅牢性と低い不良率を実現するため、他の製品とは製造フローを変えています。SSDではなくe.MMCを使っているのは、スピードよりも信頼性が重要だからです。車載のSoC(システムインチップ。車載コンピューターボード)もそれほど速くないので、e.MMCが最適と判断しました。

ーーー:なるほど。そういったバックグラウンドがあって、今回の新製品『iNAND 7250A』が誕生したわけですね。
5月に出荷が開始された自動車用NAND製品『iNAND 7250A』

ルーベン:車載特有の要件はまだあります。データ書き込み中に電源が落ちてもデータが壊れない設計や、電圧が落ちてもストレージの健康状態を診断する高度な診断ツール、そして高速起動があります。今回のNANDフラッシュメモリは、ADAS(運転支援機能)向けなどの非常にクリティカルな用途を想定しています。そのため、当社製品の中でも一番高品質なもので、まさに進化する自動車のテクノロジーニーズに対応しています。これからも、高い信頼性と性能で自動車の進化を支えていきたいと考えています。

ーーー:本日はありがとうございました。

ラッセル・ルーベン氏
◆ラッセル・ルーベン氏 プロフィール◆
ウエスタンデジタルのオートモーティブマーケティングのディレクターとしてワールドワイドの車載向けビジネスを担当。ウエスタンデジタル入社前は、MICROSEMIやALTERAなどで20年以上マーケティングや営業に従事。サンディスク株式会社在籍時には、SDカード、コンパクトフラッシュ、および日本のOEM向けカスタム製品の製品マーケティングを担当し、現在に至る。ユタ大学にて電気工学の学士号、サンダーバード国際経営大学院にてインターナショナルマーケティングの修士号を取得。

車載iNAND 製品サイト

《佐藤耕一》

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