ジェイテクトの電動パワステ搭載車に一気乗り…市販車から試作車まで

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トヨタ・オーリスがベースの自動運転関連技術搭載車で総合周回路を自動操舵で走行中
トヨタ・オーリスがベースの自動運転関連技術搭載車で総合周回路を自動操舵で走行中 全 20 枚 拡大写真

ジェイテクト(JTEKT)は7月6日、同社のテストコースがある伊賀試験場(三重県伊賀市)にて、ステアリング製品の技術紹介と製品技術の体験会を報道関係者向けに開催した。

今回のメインテーマは軸受(ベアリング)や駆動系部品などと並んで、同社の主力商品である電動パワーステアリング(EPS)。市販車や開発中の試作車をテストコースで試乗して、同社の取り組みや開発の最前線を知ってもらおうという試みだ。昨年はトルセンLSDなどの駆動系部品で同様の体験会が行われたが、ステアリング製品については今回が初だという。

■コンパクトクラスでも上質を追求。DP-EPSを採用するプジョー308

敷地面積50万平方m、コース面積17万平方mの広大なテストコースに用意された車両は、市販車が2台、試作車などが4台の計6台。そのうちの1台は同社のDP-EPS(デュアルピニオンEPS)を採用する市販車プジョー『308』(1.2リットル3気筒ターボ・6速AT)。

FF車、特に国産コンパクトモデルの多くは軽量コンパクトでコストも安いC-EPS(コラムEPS)を採用するが、PSA(プジョー・シトロエン・グループ)ではステアリングフィールがよく、静粛性の高いDP-EPSを308などのコンパクトクラス(Cセグメント車)に採用している。ジェイテクトのDP-EPSは、メルセデスベンツ『Aクラス』用などを含めて、ほぼすべて欧州メーカー向けだ(国産車ではホンダの現行『NSX』にも採用されている)。

308にはワインディングや直線で構成された一周2.2kmの総合周回路で試乗した。確かにステアリングフィールは上質、剛性感もあるので安心感があった。さすが欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞車だ。

■新商品RP-EPSをレクサス500hで体感

もう一台の市販車は、同社の最新製品であるRP-EPS(ラックパラレルEPS)を搭載したレクサス『LC』(試乗車はハイブリッドの「LC500h」)。これも総合周回路で試乗した。

「ゼロクラウン」を皮切りに、トヨタの上級FR車に採用されてきたラック・モーター同軸タイプのRD-EPS(ラックEPS)に代わる新商品が、このRP-EPSになる。ステアリングフィールに優れるのはもちろん、RD-EPSよりコンパクトで搭載性に優れるのが特長である。LC500hにはすでに別の取材で試乗していたが、今回あらためてそのステアリングフィールの良さを確認した。電子制御の介在を感じさせない、ナチュラルかつリニアで、いい意味で古典的な操舵感を楽しめる。「より鋭く、より優雅に」というLCの車両キャラクターにも合っている。

■市販車ですでに冗長設計されたEPSを持つヴェルファイア

これからのステアリングシステムには、完全自動運転を最終目標とする先進運転支援システム(ADAS)への対応も求められており、その土台として避けられないのがハードウエアの冗長化だ。冗長化(冗長設計)とは、故障時に備えたバックアップシステムの用意のこと。

今回、その実用例として用意されたのは市販車のトヨタ『ヴェルファイア』。実は現行「アルファード/ヴェルファイア」のC-EPSは、すでに電動パワーステアリングの駆動回路が2系統に分かれており、仮に1系統が故障しても残りの1系統で正常時の50%までアシスト継続する設計になっている。同様のC-EPSはこのほか、現行『プリウス』にも採用されているそうだ。

平滑な路面が拡がるダイナミクスパッドに用意されたヴェルファイアは、フルアシスト、ハーフアシスト、ノンアシストの各状態を体験できるように改造されたもの。まずはフルアシスト、つまり正常な状態でパイロンコースを走行。その後、ハーフアシストに切り替えて、その状態でもステアリングをロックtoロックまで回せることや、まずまず無理なくパイロンスラローム出来ることを確認(ただし多少ノイズが出るほか、操舵感のスムーズさや軽さはそれなりに失われる)。

しかしノンアシスト、いわゆる「重ステ」状態に変更すると、さすが約2トンのヴェルファイア、並みの腕力では据え切りはもちろんのこと、走行中でも一定の舵角からステアリングを切ることが出来なくなる。これはもちろん、ステアリングギア比がパワステ用のレシオだからでもあるが、パワステのありがたさを実感する体験にもなった。

■ステア・バイ・ワイヤー開発用の改造インフィニティG37を試す

ステアリングとタイヤがつながっておらず、電気信号で操舵を行う「ステア・バイ・ワイヤー(SBW)」開発用の試作車であるインフィニティ『G37』にも試乗できた。

SBWの市販車と言えば、2014年に発売された現行の日産『スカイライン』(海外名インフィニティ『Q50』)だ。よって、なぜ旧型のインフィニティG37(先代スカイライン)がここに? と思っていたら、実はこの車両、G37をベースに、ジェイテクトが自前のステア・バイ・ワイヤーを組み込んだ試作車であった。それにしても、なぜ(トヨタ車ではなく)G37なのかと聞くと、べース車として都合のいい油圧パワーステアリングのFR車で年式の新しいモデルを探すと、これくらいしかなかったという。なるほど。

このG37も総合周回路で試乗した。この日のセッティングは可変ギア比制御を体感しやすいよう、微舵応答性をかなり敏感にした状態だったようで、ちょっと切っただけでビクッと反応するほか、低速コーナーやUターン時にはステアリングを持ち替える必要がないくらいクイックなギア比設定になっており、思わず初期のBMWアクティブステアリングを思い出してしまった。つまり同様のことはBMWやレクサスなど、すでに多くの高級車で採用されている可変ギアレシオタイプのEPSでも可能だと言える。

ただ、今後ますます高まる自動運転レベルや、車両の電動化などに伴うパッケージングの変化、そして衝突安全性の点で明らかにない方がいいステアリングシャフト(リンクレス化)といったことを考えると、やはり目指すべきはSBWなのだという。また「お客様のニーズを聞いてからでは(開発は)間に合わない」(開発スタッフ)ということもあり、ジェイテクトでは2020年までにSBWを、2050年までにリンクレスSBWの商品化を目指すという。この試作車はそのための第一歩といったところだ。

■権限移譲技術や高精度の舵角制御がキー

自動運転というか、自動操舵技術のための試作車としては、自動運転関連技術を搭載したトヨタ『オーリス』の試作車2台にも試乗できた。

そのうちの一台は、ダイナミクスパッドで実際に「運転」できた。ただしアクセルとブレーキは手動で、自動なのは電動パワーステアリング(C-EPSタイプ)のみ。まずは普通にアクセルを踏んで40km/hまで加速し、その後はクルーズコントロールで一定速度を保つ。車両はコースに沿って配置されたビットを認識しながらステアリングを自動操舵し、手放しでもパイロンに沿って走り続けることができる。また、この車両にはカメラが搭載されており、ダミー人形が進行方向に飛び出すと、それを緊急回避する機能も備えていた。

この車両での見どころは、正確で滑らかな舵角制御のほか、手放し状態の自動運転からステアリング操作による手動運転に移行する際に、ドライバーの操作を検知するための「ハンズオンディテクション」技術や、システムと人間との間で操作を切り替える時の「権限移譲技術」だという。いわば運転の主導権をどうやってスムーズに渡し合うかといった問題だが、そもそも試作車には運転モードのメーター表示や切り替え時の警告といったディスプレイやインターフェイスの類がまったくなく、次の課題として、その点の重要性を感じてしまった。

もう一台のオーリスには助手席での同乗にて総合周回路を走行した。こちらは先ほどの車両のようにビットをセンサーで認識するのではなく、誤差数センチという高精度GPSの位置情報でコースを自動走行するもの。レーダーやカメラといったセンサー類は搭載していないので、何かが飛び出してきた場合は手動で回避する必要がある。この車両でも滑らかなステアリング制御が印象的で、同乗する開発スタッフに思わず「VSCが働くところまでペースを上げても大丈夫ですか?」と質問してしまった。

また、今回は好天に恵まれて路面状態も良かったが、仮に土砂降りなどで路面のミューが変化すれば、要求されるステアリング舵角も変化するし、また路面反力などの外乱によっても、それは変化する。舵角制御は正確であればあるほど良いとのことで、そのあたりの誤差の低減も開発の大きな目標のようだ。

■サプライヤーの心意気

こうして試乗は終わったが、今回有意義だったのは試乗しながら多くの開発スタッフと話ができたことだった。数多くの技術や部品で構成されるクルマという製品を一般ユーザーに販売する完成車メーカーと比べると、ジェイテクトの開発スタッフによる言葉はより具体的で、率直で、当然ながら技術オリエンテッドでもある。

試乗中、あるベテランスタッフに「これまで手掛けた車両でステアリングフィールが一番よくできた会心の作や、これに乗ってみて欲しいと思うモデルは?」と尋ねると、「それは僕らが開発したテスト車両じゃないですかね」という答えが返ってきた。最終的に料理するのはメーカーだが、素材となる自分たちの製品にはもっと高いポテンシャルがある、という意味だろうか。サプライヤーの心意気を感じた一言だった。

《丹羽圭@DAYS》

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