ドライブでの音声認識技術の研究・開発を続けているニュアンス・コミュニケーションズは11月17日、「Nuance Auto Forum Japan 2017」を開催。ニュアンスのパートナーとして自動車関連の調査・評価サービスなどを手掛けるSBDによる基調講演も行った。
登壇したのは、SBD シニア・テクニカル・スペシャリスト UXストラテジー&リサーチのパノス・コンスタントプロス氏。シームレスでストレスフリーなユーザーエクスペリエンスの実現について、音声認識の統合に焦点を当てたプレゼンテーションを行った。
講演でパノス氏はまず「標準的なユーザーが最も期待しているのは、スマートフォンで実現しているものをクルマの中で安全に使いたいということで、それはコネクトされたレスポンシブルで使いやすいものである」と話す。パノス氏は、その中で自社の調査結果に基づきながら音声認識システムについて現在の状況を解説した。
それによると「今やGoogle Home、Amazon Alexaだけにとどまらず、より多くのデジタルアシスタントが家に入ってくるようになってきた。Alexaについては音声インターフェイスでの利用で成功を収めたが、ビジュアル機能を追加することでよりマルチモーダルな使い方が可能になる。これは車内でのHMIにつながっていく。現在はタッチパネルでのインターフェイスが中心だが、5年後には音声認識やビジュアルまでも統合した新たなゲートウェイになっていく」と予測し、ニュアンスが取り組んでいる音声認識技術はますます重要になっていくとした。
その上でSBDでは欧州の主要6車を対象として15項目に及ぶ音声認識機能の詳細な調査を行ったという。たとえば、目的地を探すにも、自宅である場合とその他の不特定の場所、周辺検索での違い、電話をかけるにも自宅とそれ以外など、条件の異なる事例を対象としている。その結果、全体を通して優れた成績を収めたのはBMW7シリーズだった。15項目のうち7項目で満点と評価されたのだ。
パノス氏がここで強調したのはアップデートの重要性だ。「驚くべきは、これだけの差が出ているにも関わらず、いくつかのメーカーで採用している音声認識エンジンは同じシステムであるということ。つまり、OEM先である自動車メーカーが音声認識エンジンの進化について、どこまで関心を持ってアップデートをしているかが差となって現れた。音声認識エンジンが持つ本来のパフォーマンスを活かし切れていないままになっている」というのだ。
音声認識は社会的な許容も重要だとパノス氏は話す。なぜなら、「一人乗車中に音声認識を使えば、他車からは口をパクパクしている異様な光景に映る。あれだけ評価されたGoogleグラスにしても今は世間から注目すらされていない。音声認識も同じことが言えるのではないか」というわけだ。
パノス氏は「簡単な操作なら音声認識やビジュアルを使うよりも、ボタンやスイッチによる操作の方がユーザーは使いやすいと考える」とする。つまり、窓を開けたり、シートポジションの調整などはその一例で、何もかもを音声でコントロールするのは適切ではない。これはもっともな話だ。
さらにパノス氏は「発話後に音声でのフィードバッグは欠かせない」し、「システムが入力されたコマンドを理解できない場合の対応もUI等で解決すべき項目」と語る。さらに「システムが自然言語に非対応であれば、人間がその対応してコマンド入力しなければならない」(パノス氏)現状もある。
そして、パノス氏は最後に今後のUXのあるべき方向性を説明した。「これまではドライバー中心のインターフェイスが中心だった。しかし、そこには家族も同乗するわけで、それぞれが自由に車載機器と接続し、インタラクティブできなければ機能を果たしているとは言えない。SBDではそういった部分も対象に調査を行っている」という。その結果、「そういった対応が着実に浸透してきていることを実感している」(パノス氏)という。
ただ、「ユーザーは車外だろうが、車内だろうが同じインターフェースでの操作性を求めている。接続先や端末が異なるためにそれを実現するのは困難なことではあるが、個々のサービスのアカウントを共有するなどして、相互運用性を高めた『インターオペラビリティ2.0』の実現こそがシームレスな使い勝手につながっていく。この実現こそが重要なのだと説明した。