五輪で商業ベースの無人タクシーを…ZMP 谷口恒 代表取締役社長【インタビュー】

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自動運転で走行中の「Robo Car」
自動運転で走行中の「Robo Car」 全 3 枚 拡大写真

自動運転の実現に向けたAI技術の進化を読み解くため、業界のキーパーソンに各社の取り組みについて話を聞いた。第2回となる今回は、株式会社ZMP 代表取締役社長の谷口恒(たにぐちひさし)氏。

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五輪で商業ベースの無人タクシーを


---:御社は東京五輪に向けて、自動運転タクシーのサービス提供を目指していますね。

谷口恒 代表取締役社長(以下敬称略):はい。オリンピックで数台デモ走行する、ということではなく、商業ベースで必要とされる量、具体的にはお台場、有明、羽田間を輸送するのに足りる数を提供していこうと考えています。オリンピックでは確実にタクシーが足りなくなりますからね。今東京に5万弱タクシーがあるんですけど、そのうちの20数パーセントは車庫に眠ってるんですよ。

---:ドライバーがいないからですか?

谷口:はい。2009年~2014年で約2割弱ドライバーが減ってるんですよ。平均年齢60歳ですから、もうどう考えてもどんどん減っていきます。オリンピックまで3年ほどありますし、海外から800万人来るらしいので、その需要には到底対応できないと思いますね。

このままいくと数が足りないので、政府からもライドシェアを進める声が高まってきて、タクシー会社としては非常に危機感がある。その問題に対する切り札がタクシーの自動運転です。これに一番最初に気付いたのは日の丸交通の富田社長なんです。

今年の春に、日の丸交通とZMPで提携し、無人タクシーを2020年に向けて普及させていくと発表しました。そこではうちの配車アプリを導入して、有人タクシーと無人タクシーを最適に配車します。具体的には、短距離は無人タクシーに任せて、ロングは有人タクシーにするなど、ドライバーが儲からないところや厳しいところをロボットに任せる。これはロボットの最も有効な使い方だと思うんです。これは世界初の配車の仕方になると思いますけど、ドライバーの負担を減らしながら生産性を上げる。それを実現するための配車アプリを開発しているんです。

株式会社ZMP 代表取締役社長の谷口恒(たにぐちひさし)氏

ハイブリッドのミニバンかSUV


---:五輪のイベント時期はエリアを絞れるというのもメリットですね。

谷口:そうですね、お台場、有明、羽田をやるだけでも、オリンピックで需要があるのは間違いないですから。

---:最初の台数はどれくらいになるんですか?

谷口:台数は具体的には申し上げられないのですが、稼働していない車両の中から無人タクシーに入れ替えることになるでしょうね。

---:余っている車を無人タクシーに入れ替えるんですか?

谷口:タクシー会社ごとに台数の枠があるんです。枠を減らされたら売上が伸ばせなくなりますから、車両は持ってないといけないんです。枠を減らされたらもう増やせないので。

---:少なくとも2020年にはチャンスがありますしね。

谷口:そうです。範囲内の台数で、稼働率が増えれば収益は上がるわけですから。

---:ZMPの実験車両のベースはエスティマハイブリッドですよね。量産準備に入っている車両もそうですか?

谷口:量産準備はまだこれからです。いまは量産に向けた最終的な技術仕様やパッケージ化を進めているところです。車種はまだ未定ですね。何社か交渉中です。そこで提供してくれるところとやりたいと思います。

---:EVではなくて普通のガソリン車になるんですか?

谷口:EVが望ましいですよ。ただ、今あるEVはタクシーとしては狭いので、そうなるとハイブリッドのミニバンになるかなとは思っていますけどね。

---:大型で多人数が乗れて、燃費も良いハイブリッドのミニバンですね。

谷口:そうですね。あとはSUVも良いですね。アメリカや中国でも人気ですし、ハイヤーってSUVが多いんですよね。

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都心の交通量のなかを走っている経験値


---:2020年時点ではレベル4の無人タクシーということになりますね。

谷口:そうですね。レベル4のエリアがいっきに広がったら日本中レベル5ですけど、なかなかレベル5にはならないと思います。相当投資がかさみますから。単に地図を作るだけのコストじゃないんですよね。地図を作った後に相当テストを重ねて、確実に事故が起きないということを担保しなければいけませんから、そんなに簡単にはいきません。

---:かなり先というのは、2030年よりも先というイメージですか?

谷口:まぁそうですね。地図を作るだけじゃなくて、やっぱり(公道テストを)やってみると思わぬ事故が起きる可能性もありますから、やっぱりデータを結構な量取って、新しい地域で少なくとも1年以上実験を繰り返さないと、地図を作ってからすぐに走ろうということにはならないと思いますよ。

---:お台場はもう1年以上公道実験をしていますが、お台場の交通状況で注意すべきポイントが分かってきたということですか?

谷口:そうですね。1年通じてやってみると天候の変化もありますし、今だと西日の問題もあります。雨が多い時の道路の照り返しや、あとは人の流れや交通量も時間帯によって変わってきますし、1年というのは重要だと思いますね。

今地域を広げていく段階で、有明や羽田の準備をしています。検証時間は加速度的に減っていくとは思いますが、一定量の検証はしないと危ないので、あるエリアについては慎重を期して、ドライバーが乗った状態で営業をやっていくとか、そういう検証が必要になってくるなということは実際にやると分かります。

---:2020年に思い描いている姿は、短距離はロボット、長距離はドライバーでお台場・有明・羽田地域をカバーする、ということですか。

谷口:利用者がニーズに合わせて選べるようにします。例えば障がいのある方やお年寄り、荷物がある時などは有人タクシーを選べるようになります。

---:無人と有人のタクシー乗り場が2つあるようなイメージですか?

谷口:そうですね。

---:どっちの行列が長くなるんでしょうね。

谷口:どうでしょうね。多分無人タクシーは興味のある方がたくさん乗りに来ると思いますよ、日本だけでなく世界からもいっぱい来ると思いますし、私も日本全国の市町村の村長や役場の人にも乗ってもらって、これならうちも採用してみたいなということで、全国に普及するきっかけにしたいと思ってます。

---:開発の進捗はいかがですか?

谷口:進捗は良いです。初めての公道実験の時は、この辺(ZMP本社のある東京都文京区小石川周辺)を走ってデータを取って、お台場を走る許可を取って、それでお台場に行ったんですけど、お台場は4車線あって、相当交通量も多いじゃないですか。バスやトラックに幅寄せされたりクラクション鳴らされたり、最初は結構ドキドキで、40キロくらいでトロトロ走っていたんですけど、渋滞もするし、交差点では信号を見ながら少しずつ加速するじゃないですか、そうするとクラクション鳴らされたりするんですね。

その後いろいろデータを取って、今はもうスイスイと流れに乗って走っています。データを蓄積していって、この都心部でこれだけの交通量があるなかを走っているのはうちだけですからね。

株式会社ZMP 代表取締役社長の谷口恒(たにぐちひさし)氏

遠隔“操作”では危ない


---:2020年の目標はドライバーレスの完全自動運転ですよね。遠隔監視が付いているんですか?

谷口:はい。遠隔の管理を運転免許を持っている人がやるということになります。

---:ジュネーブ条約の解釈でそのような形になっていると思うのですが、条約が改定されれば、遠隔監視が無くても走らせられるということですか?

谷口:いやいや、遠隔監視はずっと必要ですよ。新幹線も飛行機も管制塔で全部見ているように、無人タクシーも管制塔で遠隔監視をする必要があるんです。

今は、免許を持っている人が1台ずつ見なきゃいけないということなんですよ。運転してるようにバーチャルで。それがファーストステップで、次に1人で2台、3台と台数を増やしていくんです。

(ジュネーブ条約について)解釈の変更をいま提案してます。遠隔で運転免許を持った人が操作をしなきゃいけないということになっているんですよ。我々は法定速度の40-50キロで走っていますから、遠隔操作なんて危ないじゃないですか。だから、操作じゃなくて監視にして欲しいと言っています。

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有人タクシーならではの付加価値が重要


---:話を変えます。日の丸交通と提携して取り組みを進めていますが、タクシー業界の反応はいかがですか?

谷口:非常に興味を持っていただいていますね、全国のタクシー会社からは。保守的な方と、このままじゃいけないという危機感を感じている、特に若い世代の経営者さんがいます。(日の丸交通の)富田さんもそうですし、2代目や3代目の社長が多いんですよね。こんなにタクシーって収益低いじゃないですか。このままでいいのかってみんなが思っているんですよね。

---:厳しい状況ですよね。ドライバーの高齢化やライドシェアの件もありますし。

谷口:東京のある大手の社長が、このままだとジリ貧で儲からないので、無人タクシーを導入して収益を上げて、その収益を今のドライバー達に還元してあげたいと。労働環境を良くして、働きやすい環境にしてあげたいと。会社としては儲かれば良いわけですから。そうすれば採用もやりやすくなりますし、余裕が出てくると接客も良くなってきますからね。そんな方もいらっしゃいましたね。

---:無人タクシーは、例えば車両価格は3倍だけど、稼働率が2倍になる、そんなイメージですか?

谷口:稼働率はさすがに2倍にはならないと思いますけど、上がりますよね。ただ、人件費がゼロですから、そこが大きいんですよね。ロボットは眠らずに働きますからね。例えば、10万円の売り上げがあったら、ドライバーの取り分が6割。さらに社会保険料もかかります。なので車両価格が例えば3倍くらいになっても、全然ペイしちゃうんですよね。

---:保有車両の何割かを無人タクシーに替えて、その無人タクシーは利益率が高いから、全体として収益が上がるということですね。

谷口:そうですね。無人タクシーを増やせば収益は高くなります。

--:無人タクシーの乗車料金は、有人のタクシーより安くなるんですか?

谷口:私は安くしたいと思うんですが、国土交通省が決めることなので。ただ、(有人と)あまり変わらなくなるんじゃないかなと思います。

---:料金を下げると収益率が下がるからでしょうか。

谷口:料金を下げることは可能だと思いますが、それより問題なのは、タクシードライバーの雇用維持だと思いますよ。料金を一気に下げちゃって、有人のタクシーに乗らなくなったらどうなるかという話です。

ですので、料金は徐々に下げるなど、試行錯誤する必要があると思います。最終的には上手く住み分けができるようにしていかないと。

ドライバーも介護士の免許を持ったり、案内士とか通訳の免許を持った人が観光案内をしたり、価値を付けられれば、有人のタクシーの料金を高くできるし、給料も上がると思うんです。そうやって無人タクシーと住み分けができると思います。

---:自分の給料の一部を無人タクシーが稼いでくれていると思えば良いわけですね。

谷口:そう。無人タクシーで稼いだ分で自分たちの福利厚生も良くなる。工場にロボットを入れるような感覚で考えてくれたら良いなと思います。

日の丸交通は富田社長が勇気を出して行動に出たので、それに続く人が増えてきているんですね。ただドライバーはまだ理解してない人もいて、ロボットが出てきたらオレはいらなくなるんだろうなと言う人もたくさんいますよ。

地方ではなく都心から始める理由


---:最初にオリンピックを目指そうと思ったのはなぜでしょうか。交通の問題は地方のほうが深刻だと思うんですが。

谷口:もともと無人タクシーに気付いたきっかけは、私の実家のある姫路の香呂駅に、2013年の夏に帰った時なんです。タクシーに乗ろうと思ったら、もう数年前に廃業していて、駅員に聞いたら両隣の駅でも廃業したと。過疎地でもないのに廃業していたんです。

でも待てよと。自動車会社の描く自動運転のロードマップはずっと先でしたけど、今すぐ必要としている人はいる。それならできる範囲で、やろうと思ったらできるんじゃないかと思ったんです。過疎地の高齢者とか、運転できない人の足になろうと。自ら行動を起こさないとダメだと思って、ミッションを見つけたんです。

でも、過疎地の自動運転って確かに必要なんですけど、商売ではないんです。社会貢献にはなりますけど、そこからはスタートはできない。これには理由が2つあって、1つはまず、需要が非常に少ないこと。もう1つは技術面です。お台場でやると日本中のデータが取れるんです。フェラーリも走っているしトラックも大型コンテナ車も、いろんな車が走っていて、様々なデータが取れるんです。

交通渋滞の時も含めて車線変更もしなきゃいけないので、AIにとってはデータ量が多い方がいいわけですよ。過疎地でやると、ほとんど車が通らないからデータが取れないんですよね。やっぱり技術力を上げるためには、まずは早期に東京のど真ん中でやるというのが、事故が起きやすいから恐いですけど、一番良いですよね。

初期はコストが高くなりますから、それをペイさせるためには需要の高い東京でやる。東京であれば多少高くなっても、損益の計算はもう(富田)社長とやってますから。いっきに収益が出るんですよね。

---:では初期に無人タクシーを試そうというタクシー会社は、ちゃんと事業になるから投資をするんだということですか。

谷口:初期投資を回収しないといけませんから。我々もこれまで実験で相当投資してきてるわけですね。来年から量産設計が始まって、もう再来年の後半くらいから、結構な数のタクシーを作る予定なんですが、それも結構な大型投資ですから、投資を回収するために、量産して製品化しないといけません。

そのためには需要の高いところから始めて、初期の投資回収をして、そしてオリンピックが終わったあとに、地方に還元していけば良いと思うんですよね。会社でやることですし、ボランティアじゃ長続きしないので、投資をして収益を挙げるから地方にも還元ができるんだと考えています。

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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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