【岩貞るみこの人道車医】「安心」揺らいだものづくり、自動運転時代に消費者は

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自動運転時代のクルマの安心は、技術開発だけでなく修理や中古車市場も視野に入れる必要がある。写真は日産リーフ(参考画像)
自動運転時代のクルマの安心は、技術開発だけでなく修理や中古車市場も視野に入れる必要がある。写真は日産リーフ(参考画像) 全 2 枚 拡大写真

【車】ユーザーが安心できる体制づくりを

日産自動車の完成車検査問題にはじまり、スバル、神戸製鋼、三菱マテリアル、東レと、名だたる企業のルール違反や不正が発覚した2017年の後半。内容の悪質さに(かなり)差はあるけれど、多かれ少なかれ消費者を失望させたことに変わりはない。

こうなってくると、なにを信じていいものやら。「日本は性善説で制度ができている。すべて確認するべきだ!」という厳しい声も聞こえてくるけれど、いや、ぜんぶやったらすごくお金かかりますよ。それ、ぜんぶ税金ですよと。

ただ、時代の変化や生産方式、検査方法の進化によって、制度の改善は必要だ。関係省庁が行動を起こすことはもちろんだけれど、メーカー側も現状とそぐわない現場を把握したときに働きかけるのは義務だと思う。疑い始めたらきりがないけれど、少なくとも、ユーザーにとって安心できる体制づくりは必須なのだ。効果的で効率的な方法の確立をぜひともお願いしたいところである。

◆性善説で考えれば…

ユーザーが安心できる体制づくりは、被害軽減ブレーキなどの自動運転技術の分野でも、取り組まなければいけない課題だと思う。

いま、最前線で論じられているのは、新車状態の車両だ。メーカーの沽券にかけて、きっちり製造されたもの。パーフェクトに作動するはずだ(性善説だけどね)。おそらく、経年劣化も計算されていて、どのタイミングでどうなるかも把握されていて、車検や定期点検でも十分に確認してもらえることだろう(性善説でいうとね)。ただ、いちど、事故にあったクルマはどうなのか。

正規ディーラーなら、バンパーの鼻先に組み込まれたレーザー等々をしっかりと角度も検証して、バンパーを直してくれることだろう(性善説)。でも、耕運機を扱うような地方都市の整備工場では、どこまで角度調整をやってくれるのだろう。いや、直す以上は、きっとしっかりやってくれるはずだ(性善説)。

そして、そろそろ中古車市場に被害軽減ブレーキ搭載車が出回りはじめている。それでも装着車とアピールして売る以上は、機能がちゃんとしているものを売ってくれるはずだ(性善説)。正規ディーラーの認定中古車なら間違いない(性善説)。中古車販売のみを扱う店だって、プロなんだから完璧な状態で販売しているはずだ(性善説)。個人売買だって、きっと大丈夫(性善説)。

……性善説、と書いている手が震えてしまう。長い人生のなか、いろんなタイプの人に出会ってきた私は、そこまで人を信じられないので、ぜったい大丈夫とはとてもじゃないけれど思えない。

レベル2の被害軽減ブレーキは、ほんとうに整備が完璧になされているのか、中古車として売られているものの機能はまともなのか、だれがどう修理し、その修理は間違いないとどこが証明してくれるのか、そのあたりの法的制度は存在しない。

◆“Maas”を含めた業界の動きに注目

振り返ると、昔はよかった。タイヤの溝とか、エンジン音とか、シロウトでもなーんとなく、いいか悪いかわかるような範囲だったから。でも、今後は、ぜんっぜんそうじゃなくなってくるのだ。バンパーがちょっとゆがんでいて、センサーの角度がほんの1度半違うだけで、ターゲットとする80m先の障害物をとらえる位置は2mずれるという。これで誤作動して事故を起こしたら、だれの責任になるんだろう?

そう書きながら、ふと、ヨーロッパの光景を思い出す。イタリアやフランスは、街中でバンパーをぶつけあいながら駐車する。これ、ぜったいバンパーゆがむよね。ゆがんだら、被害軽減ブレーキの精度は落ちるよね。いま、こうしたセンサーがとりつけられているメルセデスベンツやレクサスなどの高級車は、街中に路駐などしない。ぶつけられるのが嫌だからではなく、路駐なんてしたら1時間以内に盗まれてしまうからだ。イタリアやフランスの街に高級車が駐車する姿を見かけないのは、彼らは有料地下駐車場に、管理人たちにチップをはずみながら停めているからである。だからバンパーぶつけて角度変わりました問題は発生していないのだ。

けれど、この機能がイタリアやフランスなどの小型車に展開して、バンパーががんがんぶつけられていったら、いったいどうなるんだろう。

自動運転は、技術開発だけでなく、いかに社会に受け入れてもらうかの段階になり、これからは、修理や中古車市場も視野に入れないといけなくなってくる。きっと2018年は、アフターマーケットがもっと活気づいてくる。Maas(Mobility as a Service)を含めた業界の動きに注目していきたい。

※次回掲載は、2018年1月11日(木)の予定です。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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