◆日本の自動運転技術は世界最高になり得るのか
2020年の東京オリンピック開催時の自動運転車公道実験に向けて官民をあげた取り組みが進む中、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の周磊執行役員 パートナーは「自動運転技術を見せることは大事」としながらも、「世界に認められるような実証の場にしなくてはいけない」と強調する。
というのも「自動運転を支えるAI(人工知能)の分野で10年ほど前まで日本は、自然言語処理が非常に強かった。しかし、日本は今、平均的な国になっている。AIやコンピューターサイエンスでアメリカが世界一であることは認めないといけない。日本が世界最高レベルであるのなら、アメリカ勢は日本に学ぶ必要があるが、果たして学んでいるのか。日本は東京オリンピックで世界最高の自動運転技術を示すといっているが、本当に世界最高なものになるのか、真剣に考えなくてはいけない」と周氏はみているからだ。
さらに周氏は自動運転の普及に関して「少し誤解がある」とも指摘する。「自動運転車がすぐにでもマーケット化されるというのは誤りだ。数十人程度の利用者を想定した実証実験なら誰にでもできる。例えば50万人都市で実際にモビリティーサービスを展開した時、パニックにならないようスムーズに運用できるかということが重要。自動運転車が全くの障壁無しで走れるようになるまでの道のりのどれくらいの所に今、我々はいるのか。自動運転開発のチャレンジとして課題を定義したい」と語る。
◆「日本の強み」を考える
その課題を克服するためにはスピード感と人材層の拡充が欠かせない。まずスピード感について周氏は、2017年12月にモビリティソリューション・スマートビークル・コネクテッドカー等の部門の分社化を完了した米Delphi社を例に挙げ、「自動運転はこれまでの自動車の開発とスピードも世界も、付き合う人も異なるので、彼らは大胆に分けた」と解説する。
Delphi社は自動運転ソフトウェアを手がける米Ottomatika社を2015年に買収したが、さらに2017年10月には、同じく自動運転ソフトウェア会社の米nuTonomy社を買収した。自動運転をゼロベースからキャッチアップするのと、外部を採り入れてやっていくのではスピード感が全く異なる。周氏は「ある程度の技術を蓄積している企業を取り込んでいくことはひとつの方法」と指摘する。
さらに「日本の企業は、外に出ていくだけではなく、海外の会社を日本に取り入れていくことも必要。それも海外の大手だけでなくスタートアップ企業、海外の優秀な人材をいかに採り入れるかということが日本の勝負のポイントになる」と語る。
「日本にもスタートアップがないわけではないが、果たして開発中心のスタートアップが日本に何社あるのか。より小さな開発企業ともコラボレーションしながら刺激し合うことでスピードを上げていくことが、とても大事」
一方、人材に関して周氏は「従来の自動運転車の実証実験はクルマをちょっと走らせるくらいのイメージだが、自動運転車を実用化するには、予測できないシナリオに対してどう対応していくか、センサ等による環境認識に加えてパスプランニングや意思決定の高度化も必要。そのためにはディープラーニング、マシンラーニング等のアプローチによってクルマを賢くさせることが非常に重要となり、また高度なシミュレーション環境の構築がカギとなる。この分野で必要とされるのはビークルダイナミクスだけでなく、コンピューターサイエンス、さらに交通流の人材、この三位一体で造り込んでいかないといけない。これは非常に難易度が高い」と語る。
「これから開発量が増えて自前ではやりきれない部分がでてくる。海外の優秀な人材といかにコラボレーションしていくか、そうした時に我々の会社には英語が通じる人や流ちょうに話せる人が少ないなどといって躊躇してはいけない。5年先を見据えてやっていくしかない」と周氏は強調する。
その一方で「日本にはきめの細かさや、組み込みソフトウェアの実装力があるが、問題は日本で専門に学んできた人口が減ってきているということ。自動運転のマーケットがこれからどんどん大きくなっていく中で、世界的にも人材が不足していく。緻密さといった日本の強みをもった人材を流出させないことも重要」とも周氏は指摘する。
さらに周氏は教育の重要性を説く。「すでに中国では(AI開発でよく用いられるプログラミング言語の)Pythonが小学校高学年の授業で取り入れられたり、大学入学試験での取り入れが検討されたりという事例も出てきている。日本でもコーディングを学校のカリキュラムに組み入れて、子供の頃からコーディングの素養を積むことで人材を育成していくことを提案したい。自動運転で日本の強みを発揮させるためにも、子供のころから基礎を鍛えることにも取り組むべき」との考えを披露した。
◆真の自動運転実現のための新たな挑戦
周氏は2018年1月17日から東京ビッグサイトで開催される「第10回オートモーティブワールド」の3日目(1月19日)の特別講演『自動運転による新たなモビリティーサービスへの挑戦』に登壇し、「真の自動運転実現のための新たな挑戦」をテーマに解説する。
さらに同じ特別講演に招かれている、自律走行トラックソリューションを手がけ北京やカリフォルニアで開発を行う中国TuSimple社のXiaodi Hou CTO(最高技術責任者)および、ボストンとシンガポールの公道で自律走行車向けソフトウェアの実証実験を行っている米nuTonomyのDoug Parker COO(最高執行責任者)を交えたパネルディスカッションも行う予定だ。
この両社について周氏は、「ともにアジアとアメリカに開発拠点を置き、自動運転技術において高いレベルで、しかも特色を持ちながらやっている」と解説。パネルディスカッションでは両氏に「日本に対して求めるものは何か。彼らが日本の現状をどう思っているか聞きたい」と話していた。
■第10回オートモーティブワールド
自動運転、クルマの電子化・電動化、コネクティッド・カー、軽量化など、自動車業界における重要なテーマの最新技術が1100社出展する世界最大の自動車技術展。毎年規模を拡大して開催しており、前回は世界中から3万4542名の業界関係者が来場した。「カーエレクトロニクス技術展」「EV・HEV駆動システム技術展」「クルマの軽量化技術展」「コネクティッド・カーEXPO」「自動車部品・加工EXPO」の5テーマに、新たに「自動運転EXPO」を加えた6つの展示会を開催する。また業界の第一人者たちが講演するオートモーティブワールドセミナーも注目を集めている。
会期:2018年1月17日(水)~19日(金)10:00~18:00 (最終日のみ17:00まで)
会場:東京ビッグサイト
主催:リード エグジビション ジャパン株式会社
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